地道な検証とチームビルドで「超初体験」を探究
架空と現実を行き来する、RPGレストラン [NANDA会インタビュー]
クリエイティブカンパニーとして、多様な視点を持ったメンバーたちが活躍するロフトワーク。創業21年目を迎えた今、企業のブランディングから空間プロデュース、Webサイト、映像、体験コンテンツ制作など、アウトプットの幅も次々と広がっています。
そんな中、メンバーたち自身も捉えることが難しくなってきた「ロフトワークらしいクリエイティブとは何か」を考えるべく発動したのが「NANDA会」という取り組みです。
「NANDA会とは」
クリエイティブカンパニーとして、多様な視点を持ったメンバーたちが活躍するロフトワーク。創業21年目を迎えた今、企業のブランディングから空間プロデュース、Webサイト、映像、体験コンテンツ制作など、アウトプットの幅も次々と広がっています。 そんな中、メンバーたち自身も捉えることが難しくなってきた「ロフトワークらしいクリエイティブとは何か」を考えるべく発動したのが「NANDA会」という取り組みです。
本シリーズでは、2021年4月に開催されたNANDA会のプレゼンテーション大会において、受賞を果たしたディレクターたちにインタビューを行い、クリエイティブの源泉となるマインドや思考態度を探ります。
今回話を聞くのは、XRによる新しい空間体験を提供するクリエイティブプラットフォーム「STYLY」などを手がける株式会社Psychic VR Lab(以下、Psychic)のパートナーとして、VRを用いたツアープログラム「RPGレストラン」をローンチしたメンバーたち。VR、食などジャンルを隔てたクリエイターと共に、「超初体験」コンテンツを具現化するまでの道のりには、どのような苦労と工夫があったのでしょうか。
執筆:石部 香織
編集:後閑 裕太朗(loftwork.com編集部)
企画:高井 勇輝、長島 絵未、松永 篤(NANDA会)
写真:村上 大輔
話した人
左から
「最高に面白い企画」だからこそ、丁寧に具現化したい
長島 この度は「RPGレストラン」のNANDA会受賞、おめでとうございます! 当企画は、VRを通してファンタジーの世界に入り込みながら、実際に「モンスター料理」を食べて味覚センスを競うというもの。「超初体験」というコンセプトの言葉通り、その衝撃的な内容はテレビでも紹介され、発売開始から3分でチケットが完売するなど、大きな話題になりましたよね。クライアントのPsychicさんとは以前からプロジェクトをご一緒させてもらっていたと思いますが、今回の企画が始まった経緯を教えてもらえますか?
山田 Psychicさんとは4年前から「NEWVIEW」プロジェクトを通して、XRクリエイターのコミュニティ醸成を進めてきました。現在、「STYLY」には15,000件を超えるXR作品が並ぶようになったのですが、VRやXR体験の面白さが向上する一方で、まだまだ一般的にその魅力が広がっていない現状がありました。もっとその世界を知ってもらいたくて。そこで、去年の6月からPsychicさんと準備してきたのが、VR・AR・MRを用いた超初体験を提供するツアープログラム「ULTRA TOUR」です。
山田 当初は、STYLYに上がっているVR作品を組み合わせた、二次創作的なツアーを考えていました。たとえば、友達の誕生日にみんなでVRの世界に入って祝う、というような体験です。でも、「もっとエクストリームなことをしたい!」と思うようになり、厳選したエンタメ的な企画へと方向転換をしました。
僕が担当した「VR×五感」というテーマは、Psychicさんと相談した上で、企画を佐藤ねじさんにお願いすることにしました。そうして、ねじさんが挙げてくれた企画が「RPGレストラン」です。
山田 もう一つ、ULTRA TOURの要件として、Psychicから開発・ローンチされた、セッション機能というものがあって。今までの作品は、一つの空間を一人で観るものでしたが、この機能によって、同じ空間に複数人が同時参加できるようになったんです。それを用いたサービスをSTYLYからローンチすることで、VRを使ったことがない人にも興味を持って参加をしてもらえるのではないか、という希望がありました。
高井 なるほど。ところで、クライアントのPsychicさんは、内部にクリエイターやディレクターがいて、ある意味ロフトワークと役割が重なる部分もあったと思うけど、その分担はどうしていたのかな。
山田 テクノロジーに関しては、専門的に把握できるPsychicさんにお任せして、プロジェクトデザインやプロジェクトマネジメントを僕たちが担いました。社内の体制としては、企画までは僕が佐藤ねじさんと進め、その企画書の世界観を実装するフェーズでは、たけまり(武田)にPMを任せました。
高井 武田さんは、初めて企画書を見たとき、どう思いました?
武田 最高に面白いと思いました。だから、麗音さん(山田)からPMを打診された時は、「やりたい!」と即答しました。企画の面白さがすごく伝わってきたし、やり方次第で全く新しい体験が作れそうだとわくわくして。期待が9割でしたが、実装のWBSを引いたり、体験のディテールを詰めていくにあたっては、麗音さんとあれこれ悩みましたよね。
山田 そうですね。全く新しいものを作るからこその難しさはありました。企画が面白いからこそ、ノリや感覚ではなく、きちんと手順やロジックを構築していかないといけない。でも、たけまりが具体的なアイデアを次々と出してくれるので、進めていくうちに「彼女ならこの企画の面白さを引き出してくれる」と確信しました。
一歩引いて、チームのクリエイティビティを支える役割
高井 今回、賞の名前としては「multi verseが止まらないで賞」に決まりましたが、どんな印象でしたか?
「NANDA会」の「賞の名前」について
全社員参加型のオンラインプレゼンテーション大会・NANDA会では、受賞プロジェクトが決定する過程にちょっとした仕掛けがあります。
前プロジェクトのプレゼンが終わったら、投票により6プロジェクトを選出。その後、ロフトワークのメンバーがそれぞれ選出されたプロジェクトごとのブレイクアウトルームに集まり、ワークショップをしながら「賞の名前」の候補を複数案考えます。最後に、受賞したプレゼンターがどの名前がいいかを選んで賞が決定。
「賞の名前」を考えるプロセスは、「プロジェクトのクリエイティブなポイントを、ロフトワークのメンバー自身が考え・言語化する」という、NANDA会にとって重要な意義を持っているのです。
武田 率直に嬉しかったです。RPGという架空の世界と、現実世界との間をVRを使って行き来する、新しい世界を創出したことを認めてもらえた気がして。麗音さんは?
山田 実を言うと、僕はこの賞名をよく分かっておらず…(笑) でも、それってつまり、NANDA会で選んでくれた人たちが、僕の解釈を超えたところにプロジェクトの価値を見出してくれたとも解釈できることで。
高井 確かに。作ったものが、自分たちの想像を超えた広がり方をするのって嬉しいし、光栄だよね。今回の受賞の要因として特に大きかったのは、切り方の面白さや世界観の作り込みだったと思う。「舌で味わう」っていうアナログな体験と、VRが混じり合う世界ってまさに「超初体験」だと思うし、VR業界にとってもきっと新しいチャレンジだよね。
武田 そうですね、その新しい体験の面白さを具体化していくにあたっては、苦労もありましたし、こだわりました。特に、「料理を目隠しして食べて、その料理名を当てる」という一連の流れが、ゲームとして面白いかどうかの検証は粘り強く続けましたね。
山田 VRの中だけじゃなく、リアルな体験も細かく作り込みました。お客さんの口へ料理をどう運ぶかや、進行のセリフを入れるタイミングなど、少しずれるだけで没入感が全く変わってしまうんです。納品物を作っているというよりも、アーティストと一緒に作品制作をしている感覚でした。
高井 プロジェクトには、多ジャンルのクリエイターが参加していますよね。クリエイティビティの高い彼らと一緒に進める上で、ロフトワークの役割はどこにあると思いました?
武田 クリエイターの創造性を言語化し、整理することですね。特に私自身が意識していたのは、「全てのキャッチャーであろう」ということです。いろんな人から、いろんな動きで常にボールが飛んでくる。その状況を俯瞰しつつ、うまくいってないところはテコ入れし、突然の豪速球が飛んで来てもとにかく受け止めるというような(笑)。
高井 そういう思いで立っているPMがいると、クリエイターもアイデアを言いやすく、創造性を発揮しやすいよね。
武田 そうですね。依頼したことをやってもらうのではなく、クリエイターの皆さんと世界観を具現化していくことができたのが良かったです。
高井 「これが面白い」っていうメンバーの思いが、エゴじゃない形でプロジェクトにしっかり入っているよね。
武田 そう言っていただけるのは嬉しいです。みんなでものづくりをしている時は楽しいのですが、PMとしてはその楽しさに完全に飲まれてはいけないので。クリエイターたちが「良いね」と口にしたなら、「この人たちは何を楽しいと言っているんだろう」と俯瞰し、そのアイデアの魅力や、クリエイターの持ち味を引き出していくことを意識していました。
体験のクオリティを上げたのは「アジャイル」と「心理的安全性」
高井 今回、検証や実装後のフィードバックの回数を、元々引いていたWBSよりも多く実施したそうですね。
武田 はい。進めていくうちに、細かく検証する重要さを実感したのと、実際にヘッドセットを通してみないと分からないことが多かったので、結果的に検証回数が多くなりました。でも、それは自分たちが必要だと思ったからやったわけで、負荷だという意識はありませんでしたね。
山田 僕、プロジェクトを進行する中で、「これがアジャイルか」って実感したのはRPGレストランが初めてかもしれない。いくらでもブラッシュアップできてしまうがゆえに、終わらないという苦しみもありましたが(笑)。
武田 でも検証を重ねるごとに、自分たちが正解だと思っていたバイアスが外れて、方向性がクリアになりましたよね。被験者が楽しんでいるのを見ると、「この方向でいこう」という確証が得られますし。
山田 それと、「超初体験」を目指す一方で、自分たちで検証を繰り返していると、どんどん新鮮味が感じられなくなっていく。だからこそ、検証のたびに毎回違う人に入ってもらい、新しい視点を取り入れました。
武田 複数人の感覚を取り入れたことで、結果的に、みんなに楽しんでもらえるものに仕上がりましたね。
山田 あと印象的だったのは、たけまりがキャンドルやスプーン、食材とかを近所のお店からササッと調達してきて、検証を始めるんですよ。今思えば、あれはダーティプロトタイピングとしてすごく機能していたなと思います。たとえば、目隠しで砂肝を食べさせられたときに、「お肉っぽい」と予想はできても、砂肝であることはわからなかった。即時的な検証を通して、「知っている食材でも、こういう食べ方をすると新体験に感じられるんだ」といった気付きがありました。
武田 自分自身の理解が腑に落ちていないことに関しては、確かめたくなるんです。「これだっけ?」とみんなに投げる意味もありました。麗音さんは、そういう思いつきの行動や発言も、ちゃんと受け止めて返してくれるので。その安心感があったから、とても進めやすかったです。
高井 プロジェクトとして、心理的安全性の高い体制だったんだね。麗音くんは、そうした空気感をどうやって作っているの?
山田 関わるメンバーが、モチベーションを高め続けることができるような進行を心がけていますね。たけまりについて言えば、彼女が「変な子」だということはみんな知っているじゃないですか(笑)。
武田 そうなんですか!?
山田 でも、その「変さ」や「嗜好性」は、彼女自身のクリエイティビティでもあって。もちろん、キャッチャー的なPMとしてのテクニックも発揮されていたけど、多様なクリエイターのなかで、たけまり自身がクリエイティブな存在として機能していたし、「変態性」も含めて、今回のプロジェクトに活かされていたと思います。
武田 今回、最後まで本当に楽しく挑めたんです。麗音さんが作ってくれた空気感のおかげですね。
山田 PMを依頼した側としては、「楽しかった」っていう言葉は何より嬉しい。ディレクターはみんなたくさんの案件を抱えているからこそ、本人が「楽しい」って思えなかったらダメだと思っていて。
武田 私自身も、メンバーが居心地がよく、やりがいのあるプロジェクトにしたいと常々思っているので、今回の麗音さんの考え方や進め方はとても学びになりました。
高井 「全く新しいものを作る」プロジェクトって、先が見えなくて自ら手を上げづらい側面もあるけど、クリエイターもディレクターも、メンバーみんなの持ち味や創造性を活かし合うことで、着実に形にしていくことができるんだなと感じました。お話ありがとうございました!
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