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基 真理子, 安元 佳奈子 2024.08.23

実践者に聞く!プロジェクトを成功に導く事前準備
ー「PM Lesson #01」イベントレポートー

成功するプロジェクトの共通点はなんでしょう?
絶対解はないものの、先人たちの知恵を集結した世界的なガイドラインがあるのです。
本記事では、組織、年齢、業界などを超えた多様な人が熱く語り合ったイベント「PM Lesson #01」をレポートします。

プロジェクトの成否は、開始前に決まってる?!

2002年という早い段階から、クリエイティブの領域に世界標準のプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK®(ピンボック)」を導入してきたロフトワーク。プロジェクトマネジメント(以下PM)に関する勉強会、学習支援制度も手厚く、国際認定資格PMP®ホルダーを20名ほど生み出してきました。

一方で、PMは、プロジェクトや社風、そしてメンバーのキャラクターによっても千差万別です。しかし他社のプロジェクトマネージャー同士の交流機会は多くない。

そのような背景のもと、組織を超えてPMを学び、交流するイベント「PM Lesson」は過去2回京都で、2024年7月は渋谷にて初開催されました。「PMの啓蒙が私の“推し活”」と語るほどPMを愛するロフトワークの基が中心となり、プロジェクトマネージャー、ディレクターなど5名のスピーカーをお招き。お題は「プロジェクトの成否、実は開始前に決まってる説」。あまり意識されていない、けれど重要な「立ち上げ=開始前」のコツを参加者とともに掘り下げていきました。

執筆:吉澤 瑠美
イベント企画,記事編集:ロフトワーク 基 真理子

高校生からベテランPMまで、業界も経験値も多種多様な人たちが集った。

「隙のある問いかけ」がメンバーのエンゲージメントを高める

メンバーのコミットをいかに引き出すかが、プロジェクトの成否を左右する、と始めたのは、ロフトワークのクリエイティブディレクター 安元佳奈子。プロジェクト立ち上げ期(開始前)は、どうしてもプロジェクトマネージャーが単独で進める作業が多くなりがち。その結果、後から合流するプロジェクトメンバーとの間に、情報量の差が生じてしまうのです。

そこで安元が紹介したのは、ロフトワークがプロジェクト開始前に必ず作成する「プロジェクトマネジメント計画書」でした。国際標準の知識体系『PMBOK® ガイド』に記載されている知識エリアに沿ってプロジェクトの全体像を網羅的に書き起こしていきます。プロジェクトマネージャーはPM計画書を書き上げるプロセスを通して、プロジェクトの進め方抜け漏れなく検証するのです。

プロジェクトマネージャーが「未完成の一案」を掲示することが、意見や主体性を引き出すと話すロフトワークの安元。

また読み合わせでは、クライアントとプロジェクトマネージャーの認識する作業範囲を照らし合わせます。もちろんプロジェクトの立ち上げ時点では不明確なことばかりで、完璧な計画書は作成できません。ただプロジェクトマネージャーがPM計画書を書く際に感じた違和感やもやもやを正直に議題として提示することで、メンバーへの問いかけを促進し、空中戦に留まらない議論に導いてくれるのです。 加えて、このプロセスは、メンバーの自分ごと化も自然と引き出していきます。

最後に「不確実で複雑なプロジェクトを実行するためには、隙のあるコミュニケーションで対話を生むことが大切」と安元はコメントしました。

トーク①:安元 佳奈子 / 株式会社ロフトワーク, クリエイティブディレクター

立命館大学映像学部卒業。広告代理店のグループ企業に入社し、プロデューサーとしてテレビ・新聞などのマス広告キャンペーンの制作管理やリスクマネジメントを担当する。広告以外のアウトプットへの興味から2018年にロフトワーク入社。俯瞰の目線と目の前のものを一つづつ作り上げる熱意を兼ね備えたプロジェクトマネージャーを目指して日々精進中。

プロジェクト開始前の「模擬戦」で安定感を生み出す

不確実で未知の領域が多いプロジェクトの立ち上げ期に有効な手段として、株式会社インフォバーンのアカウントプランナー、大浦雅俊さんは「模擬戦」を提案します。

模擬戦とは、盤上で行われる戦いのシミュレーションのこと。まず、PMBOK® の知識エリアをフレームワークとして疑問点を洗い出し、そこに対する仮説を考えます。すぐに出る答えも、難しい答えもあるでしょう。「いくつもの選択肢を挙げながら、判断軸を検討していくと、最適解を導くことができます」とは大浦さんのアドバイス。

AIなどのツールも駆使しながら模擬戦を繰り返すことがプロジェクトの安定感を生む、と話すインフォバーンの大浦さん。

選択肢が出なかったり、判断軸が考えつかなかったり、どうしても答えに詰まる場合は、それをクリアするための手段を考えます。不足している情報とアクセスの仕方を考える方法もありますし、誰かに聞いたりクライアントと議論したりするのも良いでしょう。

模擬戦は個人でもプロジェクトチーム内でもできますが、初めの一歩としてAIを使うのが有効であると大浦さんは語ります。まずAIを使って7〜8割の精度の答えを出すと、かなり視界が開けるのだそうです。何より「次のアクションが見えるようになり、メンタルが安定する」ことが最大の効能だと大浦さん。不確実なプロジェクトに足元を掬われそうになった際はぜひ試してみてください。

トーク②:大浦 雅俊さん / 株式会社インフォバーン, アカウントプランナー

2016年より株式会社インフォバーンに新卒入社。WEBディレクターとして、大手自動車・金融系サイトのWEBページ制作やコンテンツ企画を経験。翌2017年からはアカウントプランナーとして、デジタルコミュニケーションのプランニング・プロデュースに携わる。オウンドメディアの立ち上げ・グロースを複数プロジェクト経験し、近年ではBtoB企業を中心に、コミュニケーション戦略立案から、イベントやコンテンツ企画などの実行におけるプロジェクトマネジメントを行っている。2022年よりマネージャー。

「時間」「レイヤー」の視点で適切なプロジェクトゴールを設定

株式会社NEWh(ニュー)のプロジェクトデザイナー、岡本あかねさんは「最初に必要なのは適切なプロジェクトゴールを設定すること」と話し始めました。

時間、立場、社会的立ち位置など多角的なレイヤーでプロジェクトを見つめることが大事と話すNEWhの岡本さん。

ゴールを設定する際の重要なチェックポイントが「時間軸」です。プロジェクトは期限のある活動として定義されていますが、大企業の新規事業開発では「長期的視座」も求められます。たとえば、上層部から「どれぐらいの利益が見込めるのか」「他社との競合優位性は」などの質問に戸惑ったことのある人もいるのではないでしょうか。ゴールを見失わないためには、どのタイミングで成果や到達度を確認するのか、「ゲート設計」を事前に行うことが重要であると岡本さんは指摘します。

また、「レイヤー」に分けて考えることも重要なポイントです。プロジェクトチーム内、部署内、自社内、市場・社会、それぞれのレイヤーでプロジェクトが担う目的は変わってくるもの。加えて、「プロジェクトメンバー個々の目的や期待にも目を配ることで、メンバーが能動的にプロジェクトに臨むことができる」と岡本さんはNEWhの取り組みを補足しました。

トーク③:岡本 あかね / 株式会社NEWh・Project Designer

2014年4月、デザイン思考的アプローチで住民参加型の共創プロジェクトを実践すissue+designに参画。2018年10月にデザインコンサルティングファームWHITEへ移り、企業の事業開発・サービス開発をプロジェクトマネージャーとして支援。2021年1月よりNEWhに移り現職。同時期から、NPOグリーンズが運営する社会性・事業性・人間性の共存を目指す求人プラットフォームWORK for GOODの事業企画を担当。人と人が出会うことで生まれる不確実なものにおもしろさを見出し、立場を超えた共創的アプローチで日々プロジェクト課題に向き合う。

メンバー全員でプロジェクトを推進するための会議設計

プロジェクトマネージャーの越川英宣さんが所属する株式会社コパイロツトでは、プロジェクトメンバー全員でプロジェクトを推進することに重きを置いています。

技術の進歩や社会の変化により、プロジェクトは日々複雑で不確実なものになりつつあります。プロジェクトの規模が拡大すればするほど、プロジェクトマネージャーだけの力で乗り切ることは困難です。「一人が何とかするのではなく、メンバー全員で何とかしよう、というのがコパイロツトの考え方」と越川さんは解説します。

活動と会議の反復サイクルの仕組みを作り、プロジェクトに習慣リズムを生み出すと語るコパイロツトの越川さん。

コパイロツトがプロジェクト初期に行うことは「環境を整える」「指標を決める」「変化に対応・推進するための仕組みを作る」の3つ。変化に対応する仕組み作りの代表例として、越川さんは会議設計を紹介しました。

ポイントは、定例会議を活用すること。達成したいゴールによって、どの頻度で定例会議を設けるべきか設計します。また、その会議では何を確認すべきか、アジェンダを設計することも重要です。会議で共通認識を作り、意思決定を行いながら、次のタスクの実行に移し、実行したら会議で進捗を確認する。「活動と会議の反復サイクルを作ることが、変化に対応することになる」と越川さんはコメントしました。

トーク④:越川 英宣 / 株式会社コパイロツト, プロジェクトマネージャー/プロジェクトファシリテーター

紙・Webのデザイナー、Web制作会社のディレクターを経たのち、プロジェクト推進事業を行うコパイロツトに在籍。主にデジタル領域の複数ベンダーが関わるPMO業務や受発注双方に対してのプロジェクト推進を支援。
実務経験をもとにプロジェクト推進人材の成長支援にも携わる。暗黙知を形式知にして、プロジェクト推進のナレッジを提供しながら、個人の支援から組織の支援までを行っている。
社内のHRとして採用・人材成長支援の仕組みづくりも行う。進行プロセスを考えるのが得意。

社会に不足している「きちんと話をすること(対話)」がプロジェクトを推進する

現場で活躍する4名のトークパート後は、ゲスト講師 野村隆昌さんの講義。黎明期からプロジェクトマネジメントに関わり、数多くのロフトワークメンバーも野村さんの講座を受けてきています。「私のことはNickと呼び捨てにしてください。」という発言から始まった野村さんのお話しは、他の4人とは一味違う視点でした。

1990年代以降、アメリカのテック系企業が隆盛し社会が便利になる一方で、社会環境に起因する心身の疾患を患う人は年々増えています。そんな現代で、求められているものは「きちんと話をすること(=対話)」である、と野村さんは指摘します。

長年培ってきたPMの専門的知見と経験から、独自の論点を展開されたゲスト講師のNickこと野村さん。

しかし、簡単なようで対話は非常に難しい。例えば、藪から棒に「どうだった?」「何か質問は?」と投げかけたことは誰でもあるのではないでしょうか。あるいは、一方的な伝達によって、相手を困らせたことはないでしょうか。

対話とは「意識された、フラットで、落ちついた、丁寧で率直な、連続する会話」であると野村さんは定義し、「私は」で話し始めて「〜と感じました」と主観を加えることを意識するよう促しました。

ゲスト講師トーク:野村 隆昌 / 有限会社システムマネジメントアンドコントロール・取締役社長

93年、秋田大学鉱山学部土木工学科を卒業、鹿島建設入社。後に退社し、2001年有限会社システムマネジメントアンドコントロールを設立、以来、プロジェクトマネジメントと新規事業開発のトレーニングとコンサルティングを提供。2003年からはPMP(R)試験対策講座を提供し、現在まで5000名以上が受講。
コンサルティングは主に電力会社系(IT、製造)。人材育成しながら、風土がかわり、自然と事業が芽生える形のコンサルティングを提供。
社会人になってから開発した社内外への新規事業開発は100以上(社内向けは組織開発・変革)。
今年のテーマは「変化を導く人を作る」。

このような対話は、必ずしも盛り上がるわけではありません。それでも相手の発言中に口を挟まず、途中でボールを丁寧に受け取り投げ返すことを繰り返すことで、関係性が醸成されます。野村さんは「対話は関係に通じる」とし、「チームビルディングの前に対話のワークショップを開くべき」と提案しました。

あなたの課題、プロジェクトマネジメントを学ぶと解決できるかも?!

トークパートが終わり、後半は参加者が5〜7名程度の小グループに分かれて意見交換を行いました。参加者からは「トークパートで興味を持ったことを、熱量が高いまま話せた」「これまでのモヤモヤを共有できた。仕事において感じる課題感はみな同じなのだと自信がもてた」という感想が寄せられるなど、大変盛り上がりました。

こうして組織や経験を超えて、学び合い、知見を交換する機会を待ち望んでいた方も多かったようです。高校生から50代まで、業界も経験値もバラバラな参加者同士が、前のめりに話し合う光景からは、プロジェクトマネジメントの本質的な魅力を教えられた気がします。

それは「人と人が向き合う活動」すべてにおいて、プロジェクトマネジメントは光を与えてくれる可能性。あなたが抱えている課題も、プロジェクトマネジメントを知ることによって、何かヒントを得られるかもしれません。

イベントは今後も継続していくとのこと。続報をご期待ください。

組織や経験値を超えたグループディスカッションでは、熱量あるポジティブな空気が生まれていた。

主催後記

数多ある課題を抱え、試行錯誤しつづけるも、何も解決できない。そんな無力感に打ちひしがれたWeb担当者。それが、ロフトワークに入社する前の私でした。そんな時、出会ったのが無償公開されていた『Webプロジェクトマネジメント標準』。仕事がうまくいかない原因は、スキルではなく、進め方に問題があっただけだ、と希望の光を与えてくれたのです。それから6年あまり、ディレクター、プロジェクトマネージャー、そして現在は採用人事を経験する中で、PMは仕事にみならず、私の人生そのものにも多大な影響をもたらしてきました。念願の国際資格PMP®も取得した今、私がこれから目指すのは「世の中に一つでも多くの良いプロジェクトが生まれるきっかけを作る」ことです。我がアイドル「プロジェクトマネジメント」を推して、伝道していきたい!その衝動で本イベントも企画しました。他のプロジェクトマネージャーの方の話を聞けること、語り合えることは、とても刺激的な時間となり、継続して開催していこうと強く思っています。イベント運営に興味がある方、仕事や人生の壁にぶつかっている方がいれば、お気軽にご連絡ください。どなたでも参加いただけるDiscordも立ち上げています。

また、PMを学んでみたい方、プロジェクトマネージャーやディレクターとして働いてみたい方向けに、カジュアルな説明会も開催しています。
事前準備も不要なので、お気軽にご参加ください

ロフトワーク HRディレクター
基 真理子

ロフトワークの仕事、働き方に興味がある方向け。カジュアルな説明会を実施中

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対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡