家計をめぐる現代の価値観をさぐる
NEC リサーチ・機会領域創出プロジェクト
Outline
家計にまつわるストーリーから抽出した、7つのアーキタイプと16の機会領域
「家族とお金」をテーマに、どんなビジネス領域が導き出せるか。結婚や出産というライフステージの変化によって、わたしたちの資産形成に関わる、「使う」「貯める」といったお金の価値観はどのように変わるか。ロフトワークは、ライフステージの変化の最中にいる生活者の思考と行動を紐解きました。
対象者は25~44歳の会社員がいる世帯の「家計管理主」。大都市圏と中~小規模都市圏にて1ヶ月にわたるリサーチを行い、105ページにわたるレポートを作成。ターゲットとすべき7タイプの顧客像と16の機会領域を導き出しました。
- プロジェクト期間
2018年2月~4月
- 体制
クライアント:日本電気株式会社
プロデュース:浅見 和彦
リサーチリード:国広 信哉
プロジェクトマネジメント:川上 直記
リサーチパートナー:榊原 充大 (RAD、建築家/リサーチャー)、浅野 翔 (フリーランス、デザインリサーチャー)
デザイン/キービジュアル:仲村 健太郎 (Studio Kentaro Nakamura)
イラストレーション:タケウマ (Studio-Takeuma)
エキスパートセッション:内田 由紀子 (京都大学 こころの未来研究所 准教授)、山口 揚平 (ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社 代表取締役)、前野 隆司 (慶應義塾大学SDM研究室 教授)
Background
新しい金融サービス創出に向けて潜在ニーズを探る
NEC事業イノベーション戦略本部は、Fintechの技術を用いた新しいサービス・事業を生み出すことをミッションとして活動している組織です。新規事業創出のためには、定量的なデータ収集や、単純なニーズ把握だけでは難しく、まだ解決できていない課題や、不完全な埋め合わせの解決策など、未知/既知の顧客像について詳しく知ることから始める必要がありました。
まだ世の中に立ち現れてない潜在ニーズを探るためには、定量的な統計データより、生活者の文脈に入り込んでリアルな物語をベースにインサイトを抽出していくデザインリサーチという手法が適していると判断し、ロフトワークにお声がけいただきました。
ロフトワークは、フィールドワークを中心に定性調査からインサイトを導き出す、デザインリサーチのプロセスを実施し、新サービスのアイデアの可能性を探るためにターゲットとすべきユーザーのメンタルモデルと機会領域を導き出しました。
Outputs
7タイプの顧客像と16の機会領域
「家族とお金」をテーマに105ページにわたるレポートを作成。人生編、家計編、夫婦編、他人編、学び編、情報編といった6つのセクションの気づきをベースに、ターゲットとすべき7タイプの顧客像と16の機会領域を導き出しました。
Process
対象者の文脈に没入し、多視点でデータを統合していくデザインリサーチ
デザインリサーチとは、生活者の文脈に入り込み、インタビューや行動観察から得られる事実の「なぜ?」を探りながら、生活者自身も気づかない思考と行動のギャップなどの多様なインサイトの分析・統合を通じて発見を得る手法です。(詳細は「Design Research 101 – 高齢社会のデザインリサーチプロジェクトに基づく実践ガイド」を参照)大きなプロセスとしては、問い立て → フィールド調査 → 統合と文書化で、発散と収束を繰り返しながらインサイトを導いていきました。
問い立て ー 深めたい問いを定める
質の高いリサーチを行うためには、課題の本質に迫る良い問い立てを行う必要があります。そのため、問い立ての種となる情報収集の仕方が重要です。今回は下記の方法で、問い立てのベースとなる視点を養いました。射程距離は現在~近未来、歴史や根源にも触れながら、得られた事実や洞察をもとに取り組むべきテーマを更新し、キークエスチョンの種をつくります。
・点検読書と分析読書(傾向網羅と視点の掘り下げを数十冊)
・トレンドスクレイピング(社会背景やテクノロジートレンドの調査を数十事例)
・専門家からのインプット(イベントの企画開催)
文字情報だけでなく、生々しい知恵や経験も大切です。関連イベントシリーズ「不確実さと対峙するためのツールボックス 」を企画し、文化人類学者やプランナーなど、専門家の経験や知識をインプットしました。
130のキークエスチョンの種をチームで議論し、大きく4つの問いへ展開。そこから90の質問項目からなる対話のためのディスカッションガイドをつくりました。
フィールド調査 ー 対象者の文脈へ没入しデータを収集する
多視点を持つためにNEC+ロフトワーク+リサーチパートナーの合同チームを結成し、ポップアップスタジオと呼ばれるリサーチ基地で寝食を共にしながらデータを収集していきました。一般の家庭はもちろん、国際結婚、ステップファミリー、事実婚の方など、様々なかたちの家族の方々計20組にご協力いただき、東京と関西で1人2時間に渡る半構造化デプスインタビューを実施。インタビューではライフイベントシートや収支カード、関係性シートなどのツールを用いて対話を深めていきました。
大事にしていたことは、いかに対象者の文脈に没入し洞察を深められるか。スーパーやドラッグストアなど街中の観察や、会話にでてくる電子マネーやクレジットカードを試用するなどのシャドーイングも実施。1ヶ月で5773の発言・アイデアと1178の写真を収集し、そのデータをポップアップスタジオで議論しながら、インサイトを抽出していきました。
フルシンセシス(本統合) ー データを集約し意味を紡ぐ
フィールド調査後、全てのデータを俯瞰できるスタジオを設置し、チーム全体で200のインサイトと100のアイデアを材料に2日間のフルシンセシスを実施。DAY1は横10mの壁を使って、KJ法による分類→補助線→文章化(議論)で多様な気づきを抽出。DAY2は輪郭の見えてきた気づきの集合体マップを引き続き深掘りしながら、顧客像と機会領域を抽出していきました。
アーキタイプ ー 思考プロセスを軸に導かれた7つの顧客像
アーキタイプとは、インタビューから見えてきた特徴的な思考タイプをベースに、全インサイトから導き出されたキーワードを組み合わせることによって成立する顧客像です。今回のリサーチでは7つの顧客像が導き出されました。彼らが持つ価値観や関係性、思考バイアスなどの情報を、リアリティをもった形で文章化/図解化し、後に続くアイディエーションのトリガーにしました。
今回、まず全インサイトから示唆に富むインサイトをチームで抽出し、優先度の高いものを選定。次に全インタビュー対象者を俯瞰しながら、今回のリサーチで特徴的だった思考タイプを持つ7種の人物をベースとして置き、そこに関連性の高いインサイトを組み合わせ、特徴立ったキーワードを肉付けします。最終的に、人物としては実在しないが、思考タイプとして実在する顧客像を成立させました。
機会領域 ー 隠されたビジネスニーズの発見
機会領域とは、ビジネスの新たな市場が生まれうる領域のことを指します。「社会制度の暗黙知としてそうなっているが、こう変えることができるんじゃないか?」「この欲求に対して、こんな風に体験を向上させられるんじゃないか?」など、新たなニーズを生みそうな”問い”を盛り込みます。想像の幅を狭めてしまわないよう、具体的なアイデアではなく、起点となった事実とそこから考えうる問いを軸に構成していきます。
しかし、機会領域が全くの空想物語では意味がありません。まず、新規事業の種を作るためには、前提を壊したり超える必要があります。そこで、「壊すべきバイアス」はなにかという項目を設定し、議論を進めていきました。また、「未来の兆し」として、世界で起こりはじめてる小さくても興味深い事象の調査や、専門家の方々に機会領域について議論する「エキスパートセッション」を設け、機会領域の強度をあげていきました。
リサーチ結果から新規プロジェクトがスタート
すでにこのリサーチを通して得られた気づきを参考に、複数のプロジェクトが走り出しています。今後、様々なパートナーやクリエイターと協働しながら、社会実装を進めていきます。
Member
渡邊 輝広
日本電気株式会社
FinTech事業開発室
河上 将大
日本電気株式会社
コーポレート事業開発本部
榊原 充大
RAD、建築家/リサーチャー
浅野 翔
デザイン・リサーチャー
浅見 和彦
株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー
川上 直記
株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター
メンバーズボイス
“ネットリサーチやアンケート調査等の定量調査では知り得ないお客さまひとりひとりのインサイトや気づきを得ることができました。今回のリサーチ結果は、今後の弊社FinTech関連事業を検討する上での拠り所となる、まさに財産になったと思います。また、ロフトワーク様とは会社の垣根を越え、一つのチームとして意見交換・活動することができ、満足のいくOutputが出来上がりました。”
FinTech事業開発室 渡邊 輝広
“「デザインリサーチは職人技である」
2か月という短い期間でしたが、それを実感するには十分な時間でした。ロフトワーク様のご協力により、いままで見えていなかった消費者の行動原理が浮き彫りになっていくのを感じました。
この調査を通じて得たモノは、これから弊社が活動していくなかで重要な道標になると確信しています。またここで学んだ考え方や気づきは、私にとっても大切な資産となりました。”
コーポレート事業開発本部 河上 将大
“大事にしたことは「問い立て」です。支出の割合や支払い方法の種類といった統計的に得られる情報ではなく、パートナーとの関係性やお金の失敗談、家計のグレーゾーンといった公に現れにくい情報を束ねていかに発見に繋げていけるかが今回の肝でした。ライフパターンが多様化していくこれからにおいて、全家庭に共通する万能薬ではなく、特定の顧客像に必要とされうる特効薬を考えることが重要だと今回のリサーチを通じて感じました。センシティブな内容にご協力いただいた家計管理主の方々には本当に感謝しています!”
クリエイティブディレクター 国広 信哉
“リサーチプロジェクト自体をデザインしながら進めていくサイクルの中で、NECメンバー、リサーチパートナー、LWメンバーで一つのチームになれたことが本当に良かったと思います。生活者とフラットな当事者として対峙し、そこで見て聞いて感じたことをスピーディに整理・ディスカッションし、インサイトとして再構築し、バイアスを疑い、問を立て直し、また次の現場へ。とてもワクワクするプロジェクトでした。でもまだ途中のマイルストンでしかないと思いますので、この先へ繋げられればと思います。”
クリエイティブディレクター 川上 直記
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