株式会社ASNOVA PROJECT

仮設足場のレンタル企業が挑戦したメディア事業
新規事業担当者の“不安”をいかに“ワクワク”に変えたのか

Outline

事業の多角化と建設業界の課題解決を目指し、新たな一手を探していた

2019年12月、仮設足場のレンタルを柱に事業を展開する株式会社ASNOVA(以下ASNOVA)は旧名の「日本レンテクト」から社名を変更しました。同時期にはビジョンを更新し、従来から行っていたレンタル事業だけでなく、新たなサービスや事業へ挑戦。多角化展開を目指しています。

新たなフェーズへ進む同社には、向き合わなければいけない業界課題がありました。建設業界の業績は好調である反面、若者の人材不足は年々深刻化しています。ASNOVAは自社をはじめ、業界全体の人材不足を解決する必要性を感じていました。
ASNOVAとロフトワークはこの課題にに向き合い、長期的な目線で建設業界全体の課題解決を目指す“CSV経営”として活動を開始。

プロジェクトでは、まず足場業界の人材不足を解消するためのヒントを探るため、デザインリサーチを実施しました。リサーチ結果をもとに、コーポレートサイト・サービスサイト・メディアサイトを通したアプローチを提案。そのうえで中長期的な事業プランを構想すると共に、各Webサイトの役割とターゲットを整理しています。

これら複数のプロジェクトの指針となったのは、リサーチから導いた“ロードマップ”です。すぐには解決できない「業界の人材不足」と向き合いながら実行してきた一年間のプロジェクトを振り返ります。

執筆:鈴木 雅矩
編集:loftwork.com編集部 横山 暁子
撮影:古徳 信一

Outputs

コーポレートサイト

クサビ式⾜場のレンタル・購⼊サイト/Webマガジン「POP UP SOCIETY」

コーポレートサイトリニューアルでは、デザイン経営の視点を取り入れ、ヴィジョン・ミッション・バリューを更新。ASNOVAが業界を先頭でリードしていくイメージを訴求し、業界を取り巻くステークホルダーへアピールを狙いました。また、サービスサイトは既存のレンタル・販売事業を担うサイトとしてリニューアル。さらに、リサーチ結果をもとに新規事業の核となるメディア『 POP UP SOCIETYを構築し、今後の業界を担う若者層との接点を生みだしています

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Interview

登場人物

小野 真/株式会社ASNOVA 事業企画室 室長


プロジェクトオーナー
大手コンビニチェーン本部にて、経営コンサルタントとして従事。同社退社後、2017年から株式会社ASNOVAで営業所長を経て、事業企画室長に就任。現在は、新規事業企画・営業企画業務を中心としながら、仮設の未来や可能性を探りながら新たな価値を模索している。

小島 和人/ロフトワーク プロデューサー


プロデューサー
専門学校で建築を学びその後、デザイナー、ディレクター、プランナーとして新規ブランド / 店舗 / 商品開発 / PRプランなど広く携わる。個人では美術作家「ハモニズム」として活動し、ファッション / 植物研究 / 都市菜園などのコラボによりジャンルを越境した作品づくりを行う。
2018年ロフトワークに参画し、新規事業創出や共創空間作り地域産業推進など幅広くプロデュースを担当。2020年からはSFプロトタイピングなどの手法を積極的に取り入れ、先行きが見えない社会の中で企業や団体がこの先で何をすべきか?を提案している。企業人としても作家としても「未来」に対する問いの設計に興味がある。あだ名は「ハモさん」

国広 信哉/ロフトワーク クリエイティブディレクター


プロジェクトマネージャー
立命館大学卒業後、デザイン事務所にてソーシャルデザインを軸に空間/紙/Webなどのデザイン及び企画設計を担当。2011年ロフトワーク京都へ入社。中〜大規模Webサイトのデザインリニューアルから、地場産業とクリエイティブを掛け合わせて価値を作り出すプロジェクトを得意とする。趣味は山のぼりと野外録音。好きな音楽はピグミーのポリフォニー。

「本質的な課題を探りましょう」が依頼の決め手になった

ー今回はプロジェクトのはじまりから進行の経緯、その成果まで、時系列に沿って聞かせてください。プロジェクトは社名変更と連動していたと聞いています。なぜ変更が必要だったのでしょうか?

株式会社ASNOVA 小野真さん(以下、小野さん):社名変更は会社を次のフェーズに進めるための施策です。私たちは、持続的な成長のためには建設業界全体の発展が必要だと考えていました。そのため、レンタルだけでなく、営業・人材などのサポートを通して建設業界を総合的に支援できる会社へ生まれ変わろうとしたのです。

旧名の「日本レンテクト」はレンタルを連想させる社名でしたが、総合的な支援を行う会社の社名として適していません。社名を「明日の場」を意味する「ASNOVA」へと変更することで、事業多角化への決意を表し、建築業界全体へ意思表明を行いました。

ー社名変更後、ASNOVAはコーポレート・サービス・メディアの3つのサイトを構築・刷新しています。この施策にはロフトワークが関わりましたが、どのような経緯でプロジェクトは進んでいったのでしょうか?

小野さん:もともと社名変更に合わせる形で、コーポレートサイトの刷新と新規事業の立ち上げを計画していたんです。当時はサービスサイトの立ち上げを優先する予定でビジネスモデルを考えていました。社内では「足場+α(足場用防音シートや建設備品)のレンタル」など、従来事業の延長線上にあるアイデアが出ていましたが、「モノ消費からコト消費」と言われているように、現代はモノだけに関わっていても成長できない時代です。そのため、レンタル業以外のアプローチを探していました。

私たちが注目したのが、人材です。建設業界では深刻な人材不足が続いており、解決すべき大きなテーマとして存在していました。そのため、新規事業は業界全体の人材不足に寄与し、CSV活動にも繋がるものがいいだろうと考えたのです。事業を進めるにあたりパートナーが必要だと感じていましたが、その時にお声かけしたのがロフトワークでした。

ーおそらく依頼先として様々な企業を比較・検討されたと思うのですが、なぜロフトワークに仕事をお願いしたのでしょう?

小野さん:当時はプロジェクトの大まかな方向性は決まっていましたが、具体的なビジネスモデルは固まり切っていませんでした。そのため、具体的な事業やプランを含めて共に考えていけるパートナーを求めていたのです。
数社に相談しましたが、ロフトワークは「そもそも本当に取り組むべき課題は何なのか」を根本から問い直す提案をしてくれました。

また、スモールスタートができ、アジャイル的に進められそうな点も魅力的でしたね。ASNOVAは「まず行動し、そのうえで軌道修正していく」社風を持っています。こちらが何をしたいか100%固まっていなくても、ロフトワークは「リサーチで裏付けを取りながら段階的に進めていきましょう」「コンパクトに施策を実行して、効果を検証しましょう」と提案してくれた。カルチャー面でもマッチしていたので、「この人達とならうまくやれるだろう」と考えて依頼を決めました。

課題の本質を探るため、「なぜ?」が出なくなるまでリサーチする

ーここからは、ロフトワーク側の視点を交えてプロジェクトの経緯を振り返ります。スタート時点では何を重視していたのでしょう?

ロフトワーク 国広(以下、国広):重視したのはリサーチです。仮説が机上の空論にならないよう、業界の内外を問わず様々な生活者に調査しました。

ロフトワーク 小島(以下、小島):インターネットで検索しても出てこない空気感があるじゃないですか。とにかく生の声を聞いて、「なぜ?」という問いかけが出ない段階までリサーチを進めました。

国広:その際に重視していたのは、小野さんを含めプロジェクトチーム全員で生活者の声を聞くこと。なぜかというと、事実に対して多様な視点で解釈を加えることが大事だと考えているからです。

ロフトワークだけでリサーチを行い、ASNOVAさんに報告することはできますが、それでは見落としてしまうものがありますし、僕たちが離れた後にASNOVAに残るものは少ない。「同じ釜の飯を食う」ではないですけれど、制作プロセスを共有すれば参加いただくクライアントさんの価値観にも影響を与えられ、後々も活用できるエコシステムの一部になってくれるはず。

リサーチはライブペインターや消防士、ショップ店員など業界外の人に対しても進められた。

ーリサーチの結果、どのような課題が見えてきましたか?

国広:見えてきたのは「無関心の壁」です。私たちは、人手不足の原因は「3K(きつい・汚い・危険)」にあると考えていました。しかし、業界外の人にリサーチしてみると、そもそも足場施工業者が何をしているか把握している人は少なく、「私たちとは関係ない業界」と捉えている人が多かった。まずは無関心の壁を乗り越え、足場施工・建築業界と生活者をつなげるアプローチが必要だと考えました。

小島:リサーチから確度が高い仮説が立てられたので、結果をもとにコーポレートサイトとサービスサイトをリニューアル。その後、メディア『POP UP SOCIETY』を立ち上げました。

小野:もともとメディアは私たちの初期要望に含まれていなくて、リサーチをもとにロフトワークさんが提案してくれたものでしたよね。

リサーチ後にはレポートを作成。プロジェクトのプロセスや調査結果をまとめ、今後の方針を提案した。

ーなぜメディアが必要だったのでしょうか。

国広:無関心の壁を乗り越えるためには、まず業界に目を向けてもらうことが先決だろうと考えたんです。だからメディアを通して接点を作ろうと。

小野:メディアは業界内でも新しい試みなので、当初は経営層の承諾を得るのに苦労しました。しかし、リサーチで生の声を聞く中で、私のプロジェクトに対する思いは強くなっていった。それが代表にも伝わって、最終的に「目的がブレないように」と承諾を得てメディアの立ち上げが決まりました。

国広:Goサインが出てからは、業界の外と足場業界をつなげるため、メディアのプロジェクトチームに他業界から人を招いています。たとえば、都市や建築の調査を専門とする榊原充大さんや、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんにメディアの企画協力をお願いしています。彼らに加わっていただくことで企画の幅が広がり、建設業界の若手だけでなく、建築、まちづくり、デザインなどのクリエイティブ層にもアプローチすることができたと思います。

ロードマップが「担当者の不安」を「ワクワク」に変える

ープロジェクト開始から仮説を立て、検証し、スモールアクションを積み重ねてきたようですが、アジャイル的に進める場合、効果検証が不可欠です。これはどのように行っていたのでしょうか?

小島:リサーチ前には仮説として、短期・中期・長期に分けたロードマップを作成しています。これがプロジェクト全体のよりどころとして機能していました。リサーチ後には改めて小野さんとミーティングを重ね、施策の優先順位をつけてプロジェクトへの解像度を高めています。

新規事業の成否を分ける大きな要素として担当者の偏愛や熱量があると思っています。担当者の思いを育めば、社内に熱を広げてくれるはず。しかし、新規事業は既存事業に比べてすぐには成果を出しづらいものです。事業立ち上げを担当される方の多くは、先が見えない不安を抱えています。ロフトワークの役割は制作プロセスを共有して担当者の熱量を高め、プロジェクトを取り巻くエコシステムを作ること。今回も、小野さんの“不安”を“ワクワク”に変えることを意識してロードマップを作成していきました。

ロードマップ

小野:このロードマップは社内稟議を通す時にも役立ちました。メディアの前に進めていたコーポレートサイトやサービスサイトは成果が分かりやすく、業績に結びつきやすい仕事です。一方、『POP UP SOCIETY』は業界の人材不足にアプローチするCSV活動なので、すぐに成果が見えづらい。

さらに私たちは、メディアを運営するにあたり、あえて短期的な収益を目指さない方針を選んでいました。経営層からGOサインを貰いづらい状況でしたが、ロードマップがあることでビジョンが共有できるようになり、許諾が得やすくなりました。

ーここまで構想段階の話を伺いましたが、より具体的なアウトプットの話も聞かせてください。今回はどのようなクリエイティブを目指したのでしょうか。

国広:メディアでは他業界へアプローチするため、「かっこいいけど少し引っ掛かりを感じる」ビジュアルを目指しました。足場施工や建設は、きれい事だけは成り立っていません。現場では汗を流して服を汚しながら働いている人がいる。汗臭い、泥臭いイメージを伝えるためにきれいにし過ぎないことを意識しました。

Webマガジン『POP UP SOCIETY』

ーメディアではあえてフォントの大きさを変えたり、マット紙のようにザラついた背景が使われていましたが、そのような意図があったんですね。メディアローンチ後はどのような反響があったのでしょうか。

小野:収益面や採用面でプラスの影響はまだ出ていませんが、「業界課題の解決を狙う長期的なプロジェクトになる」と想定していたので予想通りの結果ではあります。具体的な数字を出しづらい分、多少風当たりが強いところもありますが、社内事例として営業チームが「実はこんなこともやっていまして」と持ち出せる資料になっているようです。

加えて、社員が業界全体の課題を意識し始めるきっかけになれたと思います。単一の会社では解決できない「大きな課題」に向き合う姿勢は、徐々に社内に広がっていると思います。

Webマガジンでも登場した、足場を活用したロフトワーク台湾オフィス。新しい足場の使い方を模索した。

ー社外の評価はどうでしたか?

国広:公開後のWebマガジンは、新規構築にも関わらず、月平均5,000UU、10,000PVのペースで閲覧され、そのうち約60%が25-34歳の若年層です。Twitterの投稿を見ると、クリエイティブ層の評価が高いですね。企画のひとつ、「若き僧侶のコンテナ寺」に100件ほどいいねがついていたり、クリエイターさんから「仮設建設事業をしてるお固めの企業がポップなWebマガジンを作っているのがチャーミングで新しい」とコメントをいただいたり。足場に対するポジティブな意見がいくつも見受けられました。まだムーブメントにはなっていませんが、業界外の人達にじんわりと情報が届いていますし、ムーブメントの火種はでき始めている。今後もパートナーを増やしながら、影響力を高めていきたいと考えています。

ー最後に小野さんから今後の展望を教えてください。

小野:メディアを通して、今まで接点がなかった人々にアピールできたことはひとつの収穫です。一方で、社内や業界内のクライアントへのPRは足りていません。今後は業界内の盛り上げを行ない、業界の内外をつなぐ行動が必要だと思います。計画はまだ始まったばかり。業界の未来を作るために、このプロジェクトを活かしていきたいです。

Member

小野 真

小野 真

株式会社ASNOVA
事業企画室 室長

国広 信哉

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター / なはれ

Profile

堤 大樹

堤 大樹

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka(仮)準備室

Profile

基 真理子

株式会社ロフトワーク
HRディレクター

Profile

圓城 史也

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

大森 誠

大森 誠

株式会社ロフトワーク
テクニカルグループ テクニカルディレクター

安藤 大海

安藤 大海

株式会社ロフトワーク
テクニカルディレクター

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若手人材と足場業界をつなぐメディア構築