株式会社セブン銀行 PROJECT

子どもの動機を紐解き、継続利用へつなげる。
金融教育サービスのUXリサーチ

Outline

情緒的な価値から、継続利用につながる体験へ導くには

新学習指導要領に金融教育が導入されるなど、社会全体で子どもの金銭リテラシーを育むことへの関心が高まっています。一方で、親世代の多くは体系的な金融教育を受ける機会がなく、「子どもにどう伝えればいいかわからない」という切実な声もあがります。安全な金銭感覚の学びの場を設計することは、社会的な急務といえるでしょう。

株式会社セブン銀行は、こうした課題に向き合うべく、個人向け金融教育サービスの開発に着手。子どもの金融リテラシー向上を支援する新サービス「money ring(マネーリング)」を開発。お金のやり取りを通じて非認知能力(※1)を育てながら、親子の信頼関係をも育むべく、2026年7月にサービスをリリースしました。

※1 非認知能力:物事に対する考え方、取り組む姿勢、行動など、日常生活・社会活動において重要な影響を及ぼす能力を指す。テストなどでは数値化することの難しい、内面的なスキルにあたる。

ロフトワークは、本サービスで今後予定される、セカンドリリース以降に関わるUXデザインパートナーとして伴走。「子ども視点の体験価値」を探るUXリサーチを行い、機能拡張やプロモーション戦略の方針策定を支援しました。

「money ring」は、単なるおこづかい管理ツールではなく、教育機会を提供しながら、親子の信頼関係構築を育むサービスです。目指しているのは、サービスの主役である「子どもたち」の視点に立った体験設計を行っていくこと。そこでセブン銀行が抱えていた課題は「親子のコミュニケーション創出」や「教育体験」という情緒的価値を、ユーザーの継続利用につながる体験としてどう具体化するか? というものでした。ロフトワークはUXリサーチを通じてこの課題に共に向き合い、その実装に向けたプロセスを構築しました。

Challenge

子どもの本音を捉え、動機の設計に変換する

BtoB中心のビジネスモデルで培った知見を活かし、サービス開発の要件定義を進めてきたセブン銀行開発チーム。しかし、その設計はサービスを選ぶ「親」側の視点に偏りがちでした。

「子どもが『このアプリを自分で使いたい』と考える動機の設計を、より深めていきたい」というセブン銀行側の思いを受け取ったロフトワーク。サービスの主役である子どもの視点に立った体験設計を問いの起点に据え、リサーチを進めていきました。

しかし、その体験設計にあたって最大のリスクだったのは、アプリ上での「親が利用履歴を確認する」という行為が、子どもにとっての「見守り」ではなく、「監視」として受け取られてしまうということでした。この課題を乗り越えるために必要だったのは、サービス利用における子どもの心理的ハードルを可視化すること。「子どもたちは何を望み、何に誇りを感じ、どんな瞬間に自信を持てるのか?」 といった彼らの本音を捉え、ビジョンを言語化し、機能とUX設計に活かすことが重要だと考えました。

Process

上記のように子どもの視点に立った体験設計を検討するため、本リサーチプロジェクトは4つのフェーズで構成されました。

今回のリサーチのプロセスが描かれた図版。リサーチ設計、リサーチ実行、リサーチ内容の統合と具体化、レポーティングという流れでリサーチが進んだことが示されている

リサーチ設計/仮説立案

プロジェクトチームははじめに、リサーチの進め方を検討・設計するフェーズを実施。関連資料の整理と社内開発MTGへの参与観察を通じてプロジェクトの文脈を把握し、外部専門家3名へのインタビューをもとに初期仮説を構築しました。

そして、初回のワークショップでセブン銀行チームと仮説を共有・精緻化し、次のリサーチを的確に設計する基盤を整えました。

リサーチ実行/一次データの収集

ユーザーである「子ども」の視点を得るため、中学生から大学生の14名を対象に、独自設計のデプスインタビューを実施。対話型のアプローチにより、彼らの小学生時代の本音を客観的に掘り起こしました。

並行して、機能のベストプラクティスを探る事例調査やプロモーション方針に向けた情報整理も進め、リサーチの成果が機能アイデアとプロモーション施策の両方に活かせる状態を整えました。

リサーチ統合/インサイト抽出

インタビューから得られた膨大な定性データをKA法(カード化・グルーピングによる構造化手法)(※2)で整理・言語化し、6つのインサイトと子ども目線の提供価値を定義しました。

その後、セブン銀行メンバーとのワークショップで議論を重ね、最終的に13点の機能アイデアを導きました。

※2 KA法:ユーザーインタビューや行動観察から得られた定性データを分析し、「出来事」「心の声」「価値」の3つのステップでユーザーの真のニーズを導き出すUXリサーチ手法

方針策定/レポーティング

これまでの調査分析をベースに、UXリサーチレポートとプロモーション方針書を作成。機能アイデアを踏まえた具体的なユースケースやプロモーション企画の提案、今後のロードマップも含め、最終報告を実施しました。

各フェーズを通じ、ロフトワークは「なぜその手法を取るか」の意図を常にクライアントと共有しながらプロセスを設計しました。専門知識と子どもの生の声を掛け合わせ、社内の要件定義を「管理視点」から「動機設計視点」へと段階的に転換していった取り組みだったといえます。

Approach

対話設計とエキスパート知見で子どもの本音を可視化する

自身の感情や金銭感覚を客観視することが難しい小学生の「隠れた本音・真のニーズ」を、高い解像度で引き出すにはどうすればいいのか?それが、本プロジェクトのリサーチフェーズにおける出発点であり、困難なポイントでした。子どもを「調査対象」としてではなく、一人の主体として向き合うためにどうすればいいのか。

今回ロフトワークが採用したのは、「未来の視点から過去の体験を紐解く」という独自の対話アプローチでした。小中学生時代を客観的な距離感を持って振り返ることのできる中学生から大学生14名を対象に選定し、当時の金銭体験・感情・親との関係性を丁寧に掘り起こすインタビューを実施しました。

さらに、このアプローチに先立ち、3名のエキスパートインタビューを実施しました。「能動的な失敗の重要性」「見守りと監視の境界線」という体験仮説を精緻に構築した上で臨んだ今回のリサーチ。KA法(※2)による徹底した定性データの構造化を経て、インサイトをチームで共通言語化しました。

そうした調査の結果、「親への透明性を自ら保つことで、真の自由(裁量)を勝ち取りたい」といった、驚くほど成熟した子どものインサイトが浮かび上がることに。「応援・承認」と「自律」を核心に据えた6つのインサイトが抽出され、その後の動機設計の根拠として機能しました。

年齢・属性ではなく、子どもの心理状態や時間軸に沿った分析で、機能アイデアを導く

動機設計の根拠となるインサイトを見出した後、これを具体的な機能アイデアへと変換していくプロセスも、リサーチにおいて重要なポイントでした。

成長による変化の幅が大きい「子ども」がユーザーである本サービス。体験設計を検討するにあたって課題となったのは、「特定のユーザー像の設定が難しい」という点でした。そこで私たちは、ユーザーの属性を分類するのではなく、サービスを使用する際のユーザーの「心の動き」による分類を検討しました。

ロフトワークは、子どもの行動を“単発の行動”としてではなく、時間の流れとともにある一連の心理状態の変化として整理。ひとつの買い物をめぐって子どもの心の状態がどう変わっていくのか、4つに分類して捉えました。

子どもの行動を一連の心理状態の変化として整理し、「ワクワク」、「計画」、「決断」、「振り返り」などの4つの状態に分類した図
出会ったものに価値を見出し、欲しいと感じる「ワクワク」、親に交渉しながらお金をもらうまでの「計画」、欲しいと感じてからお金を払うまでの「決断」、使ったお金を確認し、親への報告と干渉のバランスを取りながらも自分らしさを確認しようとする「振り返り」など、子どもの行動を時間によって変化する4つの心理状態に分類

4つの心理状態には、それぞれ「この状態のときに、こんな体験が起こりうる」という体験の仮説がひもづきます。

これらを可視化することにより、どの場面で子どもの金融学習にとって意義のある体験が多く生まれるのかを比較でき、注力すべき体験の領域が見えてきました。

具体的な機能アイデアを検討する上で、さらに必要となったのは具体的な体験フローの想像と可視化です。UXとは、ユーザーが商品やサービスを利用する間だけのものではありません。「利用前」「利用中」「利用後」「利用時間全体」と細かく分けて捉えることで、より具体的なユーザーの時間軸を想像することができます。

子どもたちの行動における「心理状態」の分類と、より細分化されたサービス体験フローを組み合わせて考えることで、インサイトやサービス体験のアイデアをより詳細に検討・整理。独自性と重要性の観点から、money ringとして最優先で届けるべき価値と体験を議論・選定しました。

子どもの心が動く状態の分類と、その体験が生まれる細かなタイミング。この2つを重ねることで、どの心理状態の、どのタイミングで、どんな体験を生み出したいのかを明らかにしていきました。さらに、セブン銀行が本サービスとして、最優先で届けるべき価値は何か、という視点でも議論を行い、機能アイデアを抽出。このようなプロセスを通じて、子どもが自ずと使い続けたくなるサービスの実現を目指しました。

ロフトワークとセブン銀行のプロジェクトメンバーが机に向かい、子どもたちにとって重要な体験が何かを書き出している様子
サービス利用を通して得られる体験のうち、どういった体験が子どもにとって重要なのかを検討。セブン銀行、ロフトワークのメンバーそれぞれがアイデアを出し合った
メンバーそれぞれから洗い出された「子どもの体験」がポストイット形式で整理されている様子
⽇常の何気ないお⾦のやり取りを親⼦の「学び」と「思い出」へと変換させるためのアイデアを検討。最終的に、セブン銀⾏ならではのユニークな13点の機能アイデア提案に繋がった

Output

UXリサーチから得られたインサイトや、そこから導き出された体験設計のフレーム、具体的に実装に落とし込む際の機能アイデア、プロモーション方針と企画案を取りまとめたレポートを制作。今後のサービス開発の判断材料とするために、セブン銀行に共有しました。

体験設計のフレームを示した図
抽出したインサイトを具体的な体験へ落とし込むため、体験設計のフレームを整理。土台に課題解決の指針となるコンセプトを置き、サービスを使い続ける中で親子に起こってほしい行動変容=マインドシフト、最終的になってほしい姿=ビジョンの順に構造化した
リサーチを経て抽出したユーザーのインサイトを6つに分類したスライド

リサーチを経て抽出したユーザーのインサイトを6つに分類。お金を手に入れる際の「対等なパートナーとして親に認められたい」という欲求や、お金を使う際の「他社との一体感を得るためにお金を使う」という価値観など、おこづかい体験を通して子どもたちが抱く核心的な欲求を言語化した

抽出したインサイトと、気づくきっかけとなったインタビューの内容を紹介するスライド

抽出したインサイトと、気づくきっかけとなったインタビューの内容を紹介。サービス設計を考える上で重要となる「子どもの本音」を捉えている

子どもが自ら考え、試行錯誤できる状態にあるために親が持っておくべきマインドを言語化したスライド

子どもの成長を支えるサービスであるために、親側に必要な意識変容についても考えた今回のリサーチ。子どもが自ら考え、試行錯誤できる状態にあるために親が持っておくべきマインドを言語化した

サービスの利用を通じて、子どもたちに起きてほしい内面の変化を整理したスライド

サービスの利用を通じて、子どもたちに起きてほしい内面の変化を整理。サービス設計に活かすための具体的な指針となるよう、3つのマインドシフトに取りまとめた

日常のお金のやり取りを親子の学びと思い出に変換するために提案された、機能アイデアの一覧スライド

リサーチで得られたインサイトやマインドシフトなどの成果をもとに、日常のお金のやり取りを親子の学びと思い出に変換するためのユニークな機能アイデアを提案した

Outcome

本リサーチの成果として、子ども自身の感情や行動の背景にあるインサイトを得たことで、社内でのプロジェクト理解が深まり、UX体験設計の方針についても自信を持って検討を進められるようになりました。

また、「情緒的価値を探求し、子どもを一人の人間として向き合い、その体験を設計する」というプロセスを経たことで、子ども一人一人の文脈や思考に対するリスペクトと、サービス対象への視点の変化が得られたといいます。

プロジェクトを通じて培った非認知能力・教育領域の学術専門家や家族の体験にまつわるUXのスペシャリストとのネットワークは、セブン銀行内の資産として蓄積され、他の新規事業プロジェクトでも活用される好循環が生まれています。

Credit

ロフトワーク体制

プロジェクトマネジメント/クリエイティブディレクション 吉田 日菜子
クリエティブディレクション 川原田 昌徳, 山本 夏寧, 齋藤 杏菜
サポート 寺本 修造
プロデュース 榊原 理彩子, 棚橋 弘季

Member

吉田 日菜子

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

川原田 昌徳

株式会社ロフトワーク
リードディレクター

Profile

山本 夏寧

株式会社ロフトワーク
テクニカルグループ テクニカルディレクター

Profile

齋藤 杏菜

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

寺本 修造

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

榊原 理彩子

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

棚橋 弘季

株式会社ロフトワーク
執行役員 / CPO(Chief Produce Officer)

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