ワーケーションを契機に地域と都市の交流を創出
富士吉田市「SHIGOTABI」プログラム開発
Outline
新しい生活様式が定着しリモートワークが加速する今、都市生活者は自身の働く環境や生活の拠点について考える機会が増えています。なかでも、普段とは違う場所に滞在しながら働く「ワーケーション」は、自治体や地方企業から、新たな観光業の切り口としても注目されています。
ロフトワークは、2020年から都市と地域の関係づくりを促進するワーケーションプログラム「SHIGOTABI(シゴタビ)」を、山梨県富士吉田市の委託のもと、SARUYA HOSTEL(株式会社DOSO)と共同で推進。
都市生活者にも関心の高い「ワーケーション」を軸に、地元ゲストハウスと外部クリエイターの協働企画のもとツアープランを企画・運営。さらに、ターゲットと地元観光産業の双方に向け、SHIGOTABIのブランディングとコミュニケーションデザインを行いました。
富士吉田市の魅力を体験するとともに、暮らしや働く場所の第二拠点や移住先として富士吉田市に関心を持ってもらうことで、一過性の観光を超えた継続的な交流を促し、地域の関係・交流人口の拡大を目指しました。
プロジェクト概要
- プロジェクト期間:2021年5月〜2022年3月
- プロジェクト名:SHIGOTABI
- クライアント:山梨県富士吉田市
- 体制
執筆:宮本 明里・名川 実里(株式会社ロフトワーク)
編集:後閑 裕太朗(loftwork.com編集部)
Challenge
地元住民と都市生活者、クリエイターがワーケーションを起点に、能動的に交わる新しい滞在体験を実装
SHIGOTABIプロジェクトの2021年度の取り組みは、大きく以下の4つの軸で実施されました。
- プロジェクト全体を一貫するコンセプトやタグラインの策定
- Webサイト制作による発信基盤の整備と、各種クリエイティブ制作
- 認知拡大を目的としたWebサイトやポッドキャスト、SNSでの情報発信
- 地元ゲストハウスとクリエイターの共創による、5つのツアープランの企画・実施
ワーケーションを軸としたツアープランで、能動的な関係人口を創出
新型コロナウイルス感染症の拡大により大きな打撃を受けた観光産業。今もなお、全国的な観光需要は落ち込んでいます。もともと外国人観光客の往来が多かった富士吉田市もその例外ではなく、従来の観光とは異なる形で、市外の人々との関わり方を模索していました。
そこで、本プロジェクトがターゲットとして着目したのは、新たな暮らし方・働き方に関心が高く、アートやデザインといったクリエイティブな活動への感度が高い都市生活者。彼らに対し、アーティストやクリエイターと共同開発した富士吉田市ならではのワーケーションのツアープランを提案しました。
ツアー参加者に暮らしや働き方への再考を促しながら、地域の人々との交流や地域の深い魅力を体験してもらい、新たな活動・居住拠点としての富士吉田市のプライオリティーを高めること、その結果として、地域に継続的な交流や更なる活動が生まれ、関係人口を増やしていくことを目指しました。
都市生活者と地域在住者の両方を巻き込むコミュニケーションデザイン
SHIGOTABIプロジェクトの2021年度の取り組みでは、参加ターゲットである都市生活者と富士吉田市在住者の両方に向けた、コミュニケーションのデザインにおいて、以下の3点に力を入れています。
- Webサイトの刷新による情報発信の基盤の整備
- ロゴやタグラインの策定によるブランディング強化
- 地域住民やクリエイターを情報発信に巻き込み、共創を促進
都市生活者に対しては、新たなWebサイトを情報発信の基盤とし、コラム記事やポッドキャストなどのコンテンツを数多く更新。また、Twitterでプログラムの様子を伝えるなど、多様なタッチポイントを設定しました。ロゴやタグラインに紐づくSHIGOTABIの世界観と、SHIGOTABIに関わる「人」の魅力を情緒的に伝え、訴求力を高めています。
さらに、富士吉田市内のゲストハウス運営者や、プロジェクトに参画するクリエイターをポッドキャストのゲストやインタビュイーとして招へい。コンテンツの制作に巻き込むことで、SHIGOTABIプロジェクト全体の一体感を強め、ツアープランの協働企画をはじめとする「共創」が、より促進される状態を目指しました。
Output
ブランドロゴ・タグラインビジュアル制作
都市生活者への訴求を高めるために、SHIGOTABIの根幹となるメッセージを伝えるタグラインを刷新。さらに、SHIBOTABIの認知とブランディングを促進するためのロゴとメインビジュアルを制作しました。また、タグラインやロゴの制作により「SHIGOTABI」プロジェクトに一貫した世界観を設けました。
ロゴ
メインビジュアル
タグライン
ポスター
Webサイトとポッドキャスト、SNSを組み合わせたPRコミュニケーション
ワーケーション利用のターゲットとなる都市生活者や、活動に巻き込みたい地元の観光産業従事者に向けてSHIGOTABIの情報を発信するため、Webサイトのリニューアルとコンテンツを制作。さらに、ポッドキャスト、Twitterの運用など、複数の公式SNSの立ち上げから運営までを支援しました。
Webサイト
ターゲットである都市生活者への訴求度を高めるため、Webサイトをリニューアル。写真をはじめとしたSHIGOTABIのコンセプトに共感したクリエイターの創るコンテンツを軸に世界観を表現するとともに、富士吉田市に住む人や豊かな自然の魅力を印象付けています。
また、制作ツールとしてノーコードで開発が可能なWebデザインプラットフォーム「STUDIO」を採用。サイトの開発工数とコストを抑え、限られた予算とスケジュールの中で、印象的なコンテンツ体験と利便性の高い運用を実現しました。
また、同サイトは「STUDIO DESIGN AWARD 2021」にて「いいね!」賞を受賞しました。
SHIGOTABIラジオ
「これからの働き方と旅」をテーマに、合計15本のポッドキャストを更新。富士吉田に関わるゲストハウス運営者やクリエイターをはじめとするゲストとともに、SHIGOTABIや地域の魅力、そして、これからの働き方について語り合いました。
SHIGOTABI「コラム」
Webサイトに掲載される、SHIGOTABIラジオを再編集したコラムと、オリジナルコラムコラムを計14本制作。富士吉田市に暮らす人・訪れる人へのインタビューや対話を通して、仕事や生活拠点としての魅力を伝えました。
SHIGOTABI公式Twitter
公式Twitterは、富士吉田市の日常的な風景や活動報告を中心に、1日1投稿を継続。プロジェクトに関わるゲストハウスやクリエイターが投稿をシェアすることで、コミュニケーションが広がる起点となりました。
地域と都市生活者の深い交流を促す、5つのツアープログラム
ツアープランの企画から実施までは、富士吉田市内のゲストハウスと外部クリエイターの共創によって執り行われました。ゲストハウス・クリエイター・事務局の3者でフィールドワークや議論を重ね、「富士山信仰」「水とサーキュラーデザイン」「食と地域交流」など、富士吉田市の深い魅力を実感できるテーマのもと、特色あるツアープランが開催されました。また、参加者の感性や主体性が発揮される参加型の滞在体験を提供することで「次も富士吉田市に来たい」という気持ちの醸成を目指しました。
「時間が濃くなるまち 〜富士吉田・短歌合宿〜」
富士山の麓・富士吉田を散策しながら、短歌を作るツアー。歌人・伊藤紺さんをゲストに、ゲストハウス・Hostel Mt. Fuji-FUKUYAにて開催。短歌の上達をゴールにするのではなく、自分のなかに生まれる気分や感情をじっくりと言語化していくなかで、自分と向き合う濃密な体験を生み出しました。
ゲストクリエイター:伊藤紺
歌人/コピーライター。2019年歌集『肌に流れる透明な気持ち』、2020年短歌詩集『満ちる腕』を刊行。ファッションブランド「ZUCCa」2020AWムックや、PARCOオンラインストアの2020春夏キャンペーンビジュアル、雑誌『BRUTUS』『装苑』等に短歌を制作。2021年浦和PARCOリニューアルコピーを担当。過去連載に写真家・濱田英明氏の写真に言葉を書く、靴下屋「いろいろ、いい色」。
https://www.instagram.com/itokonda/
ゲストハウス:Hostel Mt. Fuji-FUKUYA
http://hostel-mtfuji.jp/
「バーチャル奉納ツアー 〜精神の脱皮編〜」
富士信仰の町として450年以上の歴史を紡ぐ、富士吉田。富士信仰を支え続けた御師の家とアーティストの内田聖良さんによる「奉納」を軸としたツアープラン。思い出の品の3Dスキャン・実際の神社での祈祷、バーチャルでの奉納、…等、バーチャルとリアルを交互に行き来する新たな「奉納」体験を通して、新しい自分への「脱皮」を試みました。
ゲストクリエイター:内田聖良
埼玉生まれ、青森拠点。情報科学芸術大学院大学卒業。コンセプチュアルパフォーマンス・アーティスト、リサーチャーであり、自身をポスト・インターネット時代のベンダー(Bender)と称する。AmazonやYouTubeなど既存のシステムを用いながら、それら回路の秩序を変容させてしまうようなアプローチを行い、日常生活に浸透する価値観や与えられた使用法に問いを投げかけている。デザイナー清水都花との「凡人ユニット」としても活動。
https://sesseee.se/
ゲストハウス:御師のいえ《大鴈丸》fugaku wood works x hitsuki guesthouse & cafe
https://www.instagram.com/fugakuxhitsuki/
「てとてと食堂 in 富士吉田〜観光じゃない!“ヘン人”と出会う旅〜」
富士吉田に在住している、「好きなことに情熱を捧げ、自分なりに追求し続ける“ヘン人”(偏人、編人、変人)たち。「働く」と「暮らす」が近い“ヘン人”たちに会いにいきませんか。完全予約制のホームパーティー「てとてと食堂」を通じて“ヘン人”たちと交流することで、暮らしや働き方について見直すきっかけを提唱しました。
ゲストクリエイター:てとてと
二人で過ごす時間をもっと充実させたくて、2017年に夫婦で「てとてと」というユニットを組み、 料理が得意な夫、企画が好きな妻。二人の特技を生かしたホームパーティーを東京の自宅にて開催。そのホームパーティーはさまざまな人の交流の場となり「てとてと食堂」という名で、年間100回以上開催。その後、夫婦二人の会社であるTETOTETO Inc.を設立。「好き」を仕事にすること、自社以外にも日本全国の複数のコミュニティに属しながら豊かにワクワク生きる方法を模索しています。
http://tetoteto.co/
ゲストハウス:Hostel 1889
https://hostel1889.theblog.me/
「サーキュラーデザインワーケーション〜富士山の麓で考える水と環境の未来〜」
社会課題として頻出する「サステナブル」や「サーキュラーエコノミー」を暮らしの中で実践していくには何から始めれば良いのか? 本イベントは、サーキュラー・エコノミーにまつわるサービスや活動に取り組む、mymizu共同創設者のマクティア マリコ氏とともに、富士山麓の豊かな「水」をテーマとして、様々な業種や職種の参加者が環境・社会課題についての対話やサービスアイデアを考え合いました。
ゲストクリエイター:マクティア マリコ
一般社団法人Social Innovation Japan 代表理事・共同創設者/mymizu 共同創設者。ロンドン大学卒業後、中日新聞社ロンドン支局に務め、 2014年に駐日英国大使館の国際通商部に勤務。 日本と英国間のイノベーションを促進すると共に、 2017年よりフリーランスとして社会的企業でプロボノやコンサルティングの仕事を受け始める。同年一般社団法人Social Innovation Japan を立ち上げ、その一環として、 ペットボトルの削減やサーキュラーエコノミーの実現をミッション にした、日本初無料給水アプリ「mymizu」を立ち上げる。 女性起業家としてForbes JAPANやVOGUE に取り上げられる。世界経済フォーラム 「Global Future Council on Japan」カウンシルメンバー。
https://www.mymizu.co/
ゲストハウス:SARUYA HOSTEL
https://saruya-hostel.com/ja/
「"みらいの日常" 探求編〜私の暮らしを見つける、芽吹きの旅〜」
富士吉田で暮らす人々から感じられるのは、ささやかな自然との関わりから生まれる、心地の良い暮らしのリズム。朝は富士山を横目に、山道を少し散歩してみる。仕事終わりには、お気に入りの湖畔でぼーっと過ごす。街中にあるご飯屋さんで、山の恵を頂く。このツアーは、春に近づく富士吉田の自然と街、暮らす人々との時間から“みらいの日常”を考えてみる「私の暮らしを見つけるツアー」です。
ゲストクリエイター:村田美沙(植物療法 /植物表現)
「人と植物の関係性」に着目。国内の薬草文化や生産背景を起点にフィールドワークを行い、国産の薬草を用いたフードプロダクト、ワークショップ、執筆活動、表現活動を行う。2019年に立ち上げた、ボタニカルブランドのVerseau (ヴェルソー) では、素直なわたしになる」をコンセプトに自然と共に生きる「みらいの日常」を提案している。
https://verseau-herb.com
ゲストハウス:FUJI MATSUYAMA BASE
https://fuji-matsuyamabase.jp/
Member
メンバーズボイス
“2014年から富士吉田に移住し、地域の活性を目的とし、ゲストハウスやアーティストレジデンスを運営してきました。2020年よりロフトワークとの連携が始まり、同年に新型コロナにより社会が大きく変化しました。観光のあり方が問われ、仕事をしながら旅をするワーケーションを推進するプロジェクトとして始まったSHIGOTABI。
2021年度は、地域の宿泊施設がクリエイターを受け入れ共に企画することに参加できたことで、ゲストハウスが気付きやきっかけを得る機会となったと思いますし、将来の観光の可能性を示唆してくれたと考えています。”
株式会社DOSO 代表取締役 八木 毅
“2020年、「ワーケーション」という新しい働き方の潮流に注目が集まる中で、SHIGOTABIはスタートしました。これまでSHIGOTABIでは、富士吉田にまだ訪れたことのないクリエイターのユニークな視点を切り口にして、富士吉田の新しい楽しみ方、体験を模索してきました。
クリエイターにとっても、はじめてきたのに何故か懐かしい、富士吉田にはそんな魅力が詰まっています。普段まちで暮らし、学び、働く人たちからだけでは気づくことが難しい、当たり前になってしまった景色の中に、SHIGOTABIを通じて新しい視点を加え続け、富士吉田のその後まちづくり、活性化に寄与していきたいと考えています。”
柳川 雄飛
“このプロジェクトは、単なる観光コンテンツの創出ではなく、地域の文脈を再編集する作業だったと感じています。地元ゲストハウスの想いと土地の歴史をクリエイターが感じ、それをツアーとしてアウトプットする。そして、それを別の都市生活者が体験して、また新たな側面を感じとる。
そんな、素敵な関係性と循環を作ることができたのも、ツアー参加者を含め、関わっていただいた方々のおかげだなと感じています。これからも、あたたかいプロジェクトに育っていきますように。”
株式会社ロフトワーク Layout Unit シニアディレクター 宮本 明里
“「何をどうしたら良いのか分からない。」
ゲストハウスの方々とお話する中でよくこの言葉を耳にしました。コロナの影響でゲストハウス利用が減る中、どのように富士吉田の魅力を知ってもらい、来てもらうのか。ゲストハウスオーナーを中心にクリエイターを招いて、全員野球でゼロからツアーを作り実行する。当初はどうなるか不安だったオーナーの顔も、徐々に笑顔が増えていきました。
ツアーの第二弾は、ゲストハウスとクリエイターとで自発的に実行しそうです。つくるひとをつくり、増やし、繋げ、広がる。人と人とが関わり合い、可能性が広がっていくさまに、今後の富士吉田の更なる面白さが溢れてくるように感じました。”
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 名川 実里
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