創造的なチームをつくる「ゆるくて深い」リーダーシップ
〜前編:ジャズセッションのように、自由に働く
こんなリーダー、アリかもしれない
プロジェクトチームにおいて、リーダーに求められる役割とは何でしょうか? ビジョンと強い意志を持ってチームを牽引すること。あるいは、体制を組み、ゴールに向けて着実にプロジェクトを進めることも必要でしょう。
ロフトワークには、15年以上続く「社内勉強会」の文化があります。社員自身が企画・運営を行うこの社内勉強会において、半年間リーダーを務めたクリエイティブディレクター 山田麗音(やまだ・れのん)は、その中で実験的なチーム運営を行いました。それは、リーダーが会議を仕切らない、積極的に決断をしない。それなのに、なぜかチームメンバーから自然とアイデアやクオリティの高いアウトプットが生まれるという不思議なもの。
一体、何が起こっていたのでしょうか? 勉強会の運営チームに参加したディレクター2年目の飯澤絹子(いいざわ・きぬこ)とともに、その秘密に迫りました。
執筆:中嶋 稀実
編集:loftwork.com 編集部
話す人
山田 麗音(写真左)/クリエイティブディレクター。企業のブランディングから新しいムーブメントを仕掛けるプロジェクトまで、幅広いプロジェクトのクリエイティブディレクションに携わっている。 Profile
飯澤 絹子(写真右)/クリエイティブディレクター。入社2年目で、企業や官公庁などのデザインリサーチプロジェクトに携わっている。 Profile
ロフトワークの社内勉強会について
ロフトワークの社内勉強会「Creative Meeting(クリエイティブミーティング)」では、社員それぞれがプロジェクトを通じて得た経験や知見をプレゼンテーションしたり、さまざまな領域のプロフェッショナルから学んだりしながら、広義の「クリエイティブな学び」を共有しています。
レポート:
「もっと楽しい時間にできる」という思い
−− 麗音さんは、自ら社内勉強会(以下、勉強会)の運営リーダーに手を挙げたんですよね。どうしてですか?
麗音:僕は入社して4年になるんですが、その頃の勉強会はディレクターが担当したプロジェクトの成果を紹介するプレゼン大会のような場でした。でも、なぜか、気がついたらここ1年くらいは自分が参加したいと思えるものではなくなっていたんです。
飯澤:私はその頃に勉強会を運営していたメンバーの一人でした。若手のメンバーだけで企画運営していましたが、自分自身としてはあまりうまくできなかったと感じています。
−− なぜ、そのように感じていたんですか?
飯澤:やりたいことがあっても自分だけで判断できないので、いろいろな先輩に相談していました。そのうちに、「難しそう」「予算がない」というふうに、どんどん自分で可能性を狭めてしまっていた気がします。
麗音:僕は、クライアントと話す場であろうと、社内のメンバーとの場であろうと、自分が関わる時間をできるだけ楽しいものにしたいんです。勉強会についても、もっとできることがある気がしたので「この時間を僕にくれませんか」とマネジメントに相談したところ、「いいね、やってみてよ」と言ってもらえたんです。
プロジェクトの中に偶発性を設計する
麗音:勉強会を再構築するために、まず、僕と同じ世代のディレクター4人に声をかけました。それから、僕がまとめた勉強会の10箇条を全社に向けて提示し、運営チームに参加する有志を募集したんです。結果、クリエイティブからコーポレートまで、さまざまな部署を横断したメンバーが加わってくれました。
Creado of Creative Meeting
- キャリア2年以上の中堅層が発散・発信できる機会であること
- 若年層にとって中堅層の視点やスキルを学べる場であること
- 全6回を通してロフトワークの「クリエイティブ」を探求できる計画であること
- 発表者の「その人がその人でしかない面白さ」がちゃんと滲みでること
- 発表者の「これが面白い」という素直な気持ちを表明できる場であること
- 毎回新しい実験や体験(プレゼンテーションの技術開発)にチャレンジすること
- 定期的に外部(LW社外)の視点を取り込み、社会的な視野と接続できること
- 予期せぬイベントが起きる余白が設計されていること
- 「ナレッジ」は聞き手が自ら学び感じ取るものとし、「ナレッジの伝達」を登壇者に強制しないこと
- 運営チームは有志で構成されていること
−− 「9:『ナレッジ』は聞き手が自ら学び感じ取るものとし、『ナレッジの伝達』を登壇者に強制しないこと」とは、どういうことですか?
麗音:9番のことは、特に強く意識していました。本来、イベントは偶発的な「出来事」だし、ある種のハプニングみたいなものが含まれているべきだと思うんです。だから、勉強会を開催する側が「こう感じるのが正しい」とか「ここがおもしろいはずだ」と決めつけるのではなく、参加した人が自由に受け取っていいものにしたかった。それに、イベントの時間だけじゃなく、それらを運営するための会議も偶発的であったほうがいいと考えていました。
−− 飯澤さんは、どうして今回も運営チームに手を挙げたんですか?
飯澤:もともと、みんなが楽しんでいる場をつくることが好きだったんです。麗音さんがリーダーとしてどんな場をつくるのか、運営の立場から見てみたくて。
−− 麗音さんは、自分が指名したメンバーとだけチームを組むこともできたはずですよね。どうして有志を募ったんですか?
麗音:せっかくボトムアップで楽しいことをやろうとしているのに、自分だけでチームを固めるって、なんだか予定調和で嫌じゃないですか。それに本来、勉強会はロフトワーク全社員のために用意されている時間なので、自分の意思一つで染め上げるのはナンセンスだと思ったんです。
−− チームメンバーの顔ぶれにも、偶発性を求めていたんですね。
仕切らなくてもタスクが回る、ジャズセッションのような会議
−− 勉強会の運営は、月に1度の勉強会を実施するために、週1回の定例会議を行いました。なかなか密度の濃い会議体です。でも、飯澤さんは、麗音さんが会議の場で「リーダーなのに仕切らないこと」に驚いたんですよね?
飯澤:そうですね、あまり仕切っている印象はなかったです。たとえば、初めに「今回は、『ワーディング』をテーマにしたいです。みなさん、どう思います?」という感じで勉強会のテーマや簡単な方針を伝えたら、あとはしばらく黙って様子を見ていましたね。会議の間、みんなが沈黙して考えこむ時間も結構ありました。
麗音:僕はきっかけはつくるけれど、勉強会の2時間をどう組み立てるかの答えを用意していませんでした。それに、僕が何かを言わなくても、他のメンバーが「やりたいこと」や「やるべきこと」をすでに具体的に考えていましたよね。「会場をうまく使って勉強会の体験を作ろう」とか「参加者を増やす方法はどうしよう」とか。
飯澤:そうなんです。不思議なことに、そのうちリーダー以外の誰かがアジェンダやプロジェクト管理ツールを用意するようになって。気がついたら、誰かが指示しなくても自然にタスクを引き受けていく流れができていました。私自身、ここにいる理由は自分で作らないといけないと感じて、勉強会参加者に向けたアンケート設計を引き受けた覚えがあります。
麗音:いいですよね、構造がポジティブで。
飯澤:元々、麗音さんが作った「10箇条」に共感して参加しているメンバーということもあるのでしょうか。みんなモチベーションが高いと感じました。
勉強会を盛り上げるためにロゴを制作し、ステッカーやユニフォームに展開したメンバーもいましたね。会場装飾も、テーマや会場に合わせて毎回違うものを手作りしていました。予算が足りなければ、必要な理由を整理してマネジメントを説得して。先輩たちはこうやって仕事をしているんだなと勉強になりました。
アイデアを出す人がいて、得意な役割に手を挙げる人がいて、穴を埋めることに慣れている人がいて。全員が好きなように動いている、ジャズセッションのようなチームでした。
麗音:僕のやりたいことをみんなでつくるのではなくて、チームのメンバーみんなが「私がつくった勉強会」と言えるような状況にしたかったんです。僕は全体の責任者ではあったけれど、同時に他のみんなと同じフラットな存在。それぞれがお互いにやりたいこと、大事だと考えることをやっていけば、結果的にいい勉強会になるだろうと思っていました。
−− チームが自由にやりたいことを形にできる空気があったんですね。後半ではさらに、 麗音さんがリーダーとしてどんなことを考えていたのかを深堀りしていきましょう。
みんなが安心できる場をつくるリーダーの視点とは…?
Next Contents