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伊藤 望, 古田 希生, 谷 嘉偉, 中圓尾 岳大 2022.07.13

アート作品を通じて、事業創出のアイデアを「飛ばす」
常識の壁を打ち破るアイディエーションプログラム

こんにちは。ロフトワーク渋谷クリエイティブDiv. シニアディレクターの伊藤 望です。

ロフトワークでは、創業間もない頃からアーティストとのプロジェクトを進めてきたほか、YouFabなどの国際的なアワードを通じて、日本だけでなく世界各地のアーティストとのネットワークを築いています。

アーティストたちの作品は、いつも私たちの想像を超える可能性を秘めています。そして、ロフトワークの得意領域は、そんな彼らとクライアントの企業の皆さんの課題や目指す未来とを結び、新しい価値を生み出すことにあります。

そこで、今年4月に新しく創設されたデザインリサーチを得意とする僕のチームのメンバーとともに、アーティストの作品分析を通じて、サービスや事業に関する新たなインプットの気づきを得る、一風変わったワークショッププログラムを作成しました。

これを試用してみると、数々のワークショップやアイディエーションを経験してきたメンバー全員が「いつも以上に面白い、事業開発のアイディエーションができた!」と実感し、大きな手応えと可能性を感じるものだったのです。十分なファシリテーションスキルがあれば、このワークは、より自由で楽しく、可能性を秘めたアイディエーションにつながるのではないか、と考えました。

こちらの記事では、このワークショッププログラムの具体的な内容やポイント、また実際にやってみての気付きについてご紹介したいと思います。

伊藤 望

Author伊藤 望(VU unit リーダー)

2018年ロフトワーク入社。機会発見のためのリサーチや、リサーチに基づく新規事業開発、未来洞察、新たなコンセプトを生み出すためのフレームワーク開発、アイデアソンなどのプロジェクトに従事。人がアイデアを思いつく仕組みについて研究中。2023年よりトランジションデザインと出島型開発を通じた事業開発を支援するVU unitの立ち上げ支援を行うチームを立ち上げ。足立区東京2020大会記念協創提案型事業審査委員長など。文房具探しと書店めぐり、サウナ通いが生きがい。

Profile

今回はこのメンバーで試してみました。

古田 希生

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

谷 嘉偉

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

中圓尾 岳大

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

デザインリサーチを得意とする「VU」チームの詳細はこちら

VU | 「VU」CAな時代に、未来を見通す「View」を提供する

プログラムの概要と利点を紹介

まず、このワークショッププログラムの概要を説明します。

このプログラムは、アート作品についての自由な解釈を通じて、今までできなかった発想のジャンプを生み出すものです。特徴として、アート作品のもつ「問い」から未来に視点を広げてアイデアを生み出すことが挙げられます。製品・サービスとしての実現性も最終的には検討しつつも、まず常識の枠を外して多様な可能性を模索できるのがこのワークショップの強みです。

実際にやってみたところ、以下のような効果がありました。

  • 枠外の発想、ジャンプのあるアイデアがどんどん生まれる
  • そもそも正解が存在しないため、参加者のスタンスとして既存事業の延長線上にアイデアが縛られることがなく、また「正解探し」に陥ることがない

これは、幅広い事業領域で新規事業開発に取り組んでいるみなさんにとってポジティブな効果が見込めると言えるのではないでしょうか。

ワークショップの具体的な流れについて

では、実際にワークショップの具体的な流れを説明していきます。
まず、仮想のクライアントとテーマを設定しました。今回設定したのは「BtoC向けの食品事業を営む企業」の「2050年を想定した新たな事業・製品コンセプト創出」です。また、仮想の背景として

  • 主力事業は好調だが、今後も順調であるとは限らない
  • 昨今では代替肉はじめ食におけるイノベーションも出てきているものの、会社としてはまだ昔の製品に頼っている
  • 全社として新規製品や事業への注力が不十分であり、現場社員のボトムアップ型で次の柱となる事業や製品の仮説を立てたい
  • 一方で、既存のデザイン思考やアイデア発想研修ではありきたりなアイデアしか出てこず、課題を感じている

というクライアントの課題を想定しました。(過去にご一緒した様々なクライアント企業さんの課題感を混ぜているので、仮想ではありますが現実感のある課題になっています 笑)

次に、ワークの手順について解説します。このワークショップは、大きく①鑑賞 ②解釈 ③抽出の3つのステップを通じてアイデアを生み出します。

まずはアート作品をじっくりと眺め、鑑賞すること。次に鑑賞する中で自分なりの解釈された気づきや問いを書き出すこと。なお、このプロセスはチームで、そして繰り返し行います。最後に、これらの気付きや問いをもとにアイデアを抽出していくことを行います。

詳細なプログラムの手順

準備に必要なこと

  1. テーマ設定(今回は「2050年における食のあり方」)
  2. アート作品収集(食にまつわるアート作品を中心に12点)

実施のプロセス

  1. 鑑賞:作品をじっくりと眺める
  2. 解釈①:作品を得られる中で生まれた発見を書き出す(オレンジのPost-it) ※この段階では、作品のキャプションを読まずに実施
  3. 解釈①の共有
  4. 解釈②:他人の解釈から、新たに自分の解釈を上乗せする ※2回目の解釈パートでは、キャプションを読んでもいい
  5. 解釈②の共有
  6. アイデアの抽出(黄緑のPost-it):メンバーの解釈を議論しながら、サービスのアイデアや、サービスのアイデアにつながる気づきを抽出していく

実際にワークを行ううえでは、ちょっとしたポイントがあります。

ひとつは、「問いやキーワードのような形で書くこと」。もう一つが「正解を求めたり、他人の解釈を否定してはいけない」ということです。

最終的に導くのはアイデアや機会領域なのですが、それらを書く前に、まずは作品の解釈をもとに問いやキーワードの形で書く、というステップを踏む必要があります。作品と自分が向き合うことで、多様な視点やより良いアイデアにつながる豊かな可能性に気づくことが重要です。そして、このワークで重要なことは正しいアイデアを導くことではありません。まずはいろんな可能性に気づくことから始めてみましょう。

ワークから生まれる、アイデアのジャンプ

上記のプロセスを通して、僕たちのワーク内で実際に生まれたアイデアを紹介します。

  • 食好きのための細かな味覚の差異を理解するトレーニングサービス
  • 可食領域ギリギリを探求するレストラン
  • フードプリンターでつくる乳幼児向けおもちゃ
  • 客とシェフが一緒に作って食べる共料レストラン
  • 最高に美味しいけど翌日絶対お腹が痛くなる食中毒食
  • 昆虫食ネイティブのための離乳食

このように、30分でたくさんのアイデアが生まれました。どれもユーザーの課題視点から発想する通常のブレストでは生まれないような、自由度の高いアイデアだと思います、そして現実的にありえないアイデアでもない。

「可食領域ギリギリを探求するレストラン」のアイデアも、既に世の中には近い視点のものが実装されています。例えば、過去に世界一のレストランの称号を得た、北欧のnomaは、現地の自然を表現するために、生きた蟻をお皿にまぶした料理を出して話題になりました。他にも「フードプリンターでつくる乳幼児向けおもちゃ」も、サービスとして存在していてもおかしくない。安全性を配慮した食べれるLEGOをフードプリンターでつくる、などの画期的な事業アイデアにもつながり得ます。

まだ世の中にないアイデアを生み出すことは簡単ではありません。しかし、このワークショップはそうした優れたアイデアたちに近づくヒントが得られる、そんな可能性を感じられました。

実際にやってみてのメンバーの感想は、以下のようなものでした。

  • 過去のワークショップよりもジャンプのあるアイデアが生まれた
  • 正解がないから最初は不安になるけど、正解のないアイデア発想の重要性を再確認した
  • 想像していなかったアイデアが出てきた
  • とにかくやっていて楽しい

メンバーの感想を通して、このワークショップは、これまで過去に様々なクライアント企業さんから相談を頂いた課題感と非常にマッチする内容であり、プロダクト/サービス開発時のテーマ探索や、社員の創造性を高めるための研修など、様々な用途での活用の可能性を感じました。

新規事業のアイデアワークでよく挙げられるのが「社員からジャンプのあるアイデアが生まれない」という声。こうした悩みに対して、このワークは効果を発揮すると思います。アート作品からの刺激があるからか、これまで僕たちが実施してきた他のワークショップと比べても、ジャンプのあるアイデアが生まれやすいと実感しました。

また、よく聞くもう1つの悩みとして、サービス開発や事業開発において「既存事業の延長線上で考えてしまう」や「正しいアイデア、求められているアイデアを考えようとしてしまう」という声があります。これについても、アート作品と向き合う中で、そもそも「正解を出そう」というマインドが僕らでさえも吹っ飛んでしまったのと、アート作品を通じて強制的に視点が切り替えられるため、むしろ既存事業の延長線上で考えるほうが難しいなと感じました。

ワークに欠かせない、適切な人材と環境を用意する

一方で、このワークを実施するにあたって、事前に用意しておくべきものや、意識しておくべき点があります。

実施において重要な点

  1. アートからの気づきをビジネスに変換・翻訳するファシリテーター
  2. 作品のリストアップを行う専門家
  3. 突飛な発想を促す環境、雰囲気作り

まず、アートからの気づきをビジネスにも活きる問いや気付きに変換・翻訳してくれるファシリテーターの存在が欠かせません。アートはそもそもビジネスのために作られているものではありません。アートとビジネスという全く異なる領域を横断しながら、両者の文脈をつなげるようなアイデアを言語化するためには、経験の長けたファシリテーターの存在が重要です。

今回は僕をはじめ、ワークショップの実践経験が豊富なメンバーがいたため着地できましたが、慣れない方のみだと、せっかく生まれた気づきをどう活かすのか、指針が見えにくいかもしれません。

2つめに、作品のリストアップも重要です。世の中にはたくさんの優れたアート作品がありますが、その中でもどんな作品をリストアップするのか、という視点も非常に重要です。ここは、アートに関する専門的な知見を持っている人に頼る必要があるでしょう。

3つめに、ワークショップを実施する環境・雰囲気づくりも重要です。このワークショップは、自分たちの常識に捉われず、参加者がアートと向き合う中で生まれる「問い」が重要なため、いつもの会議室でやってしまうと、良い「問い」が生まれにくいと感じました。外部のコワーキングスペースや、晴れた日なら屋外スペースなど、なるべくいつもと違うクリエイティブな環境での実施が望ましいと思います。

まとめ

こう書いてしまうと、なんだか難しいかもと思ってしまうかもしれませんが、簡単な方法があります。それは僕たちロフトワークにまるっと頼んでしまうことです。社内には経験豊富なファシリテーターがいるほか、アート作品を選定できるディレクターもいますし、YouFabなどのグローバルアワードを通じて、社外のアートキュレーターやクリエイターとのつながりも多くあります。また、オフィス内にはクリエイティブなワークショップスペースもあります。

YouFabについて

ここまで読ませておいて提灯記事かよ!と思った方、すみません。笑
ただ、僕らもやってみて、すごく可能性を感じたアプローチです。ぜひやってみたい、試してみたいという企業さんがいましたら、ぜひ気軽にご相談ください。その際にはぜひこの記事読んだよ!と付け足してくれると嬉しいです。

このワークショップに限らず、新たな事業機会やサービスアイデアに悩む企業の皆さんのご相談に乗りますので、ちょっとした悩みでも気軽にご相談ください!

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新規事業の開発や組織の今後を考えるにあたって、ロフトワークが未来を探索・洞察したリサーチの事例をご紹介。これらの案件の中には、これまで企業の事業開発や事業戦略策定のために事例としてご紹介できなかったものも多く存在していました。今回は、そうした取り組みや得られた知見についても、公開できる範囲でご紹介します。

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