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基 真理子 2025.02.19

桃太郎の鬼退治から学ぶプロジェクトマネジメント
~見えない道を共に歩むために~

あなたは今日、どんなプロジェクトに向き合っていますか?

新しい商品の開発、チームの立ち上げ、週末の引越し準備——。私たちの周りには、大小さまざまな「プロジェクト」が存在しています。宇宙開発やインフラ建設といった大規模なものから、日常的な計画まで、プロジェクトは私たちの生活に深く根づいているのです。

プロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK®(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)」では、プロジェクトを「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期性の業務」と定義しています。つまり、「新しい価値を生み出すこと」と「期間が定められていること」、この2つの要素を持つ活動は、すべてプロジェクトと言えます。

しかし、その道のりは決して平坦ではありません。予期せぬトラブル、メンバー間の意見の不一致、限られたリソース——。プロジェクトには常に「未知」と「不確実性」が伴うのです。

プロジェクトマネジメント(以下、PM)は、こうした課題に向き合うための羅針盤といえます。それは単なる管理手法ではなく、先人たちの経験から紡ぎ出された知恵の結晶なのです。

2025年1月に開催した「PM Lesson Osaka」では、3人のメンバーがそれぞれの実践知を紹介しました。また桃太郎の鬼退治をプロジェクトとして捉え、経験値や組織を超えて学び合う実践的なワークも大盛況となりました。本記事では、その学びと発見をレポートします。

基 真理子

Author基 真理子(HRディレクター)

兵庫出身、京都在住。フリーター時代にWebの世界に魅了され独学を始める。その後、百貨店系クレジットカード会社のWeb担当者として、サイトのフルリニューアルなどを推進。書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』との出会いをきっかけに、2018年ロフトワークへディレクターとして入社。教育機関や企業の大規模Webリニューアルから、イベントの企画運営など幅広い領域に携わる。また大学でのPM特別授業講師、KJ法勉強会など、多様な「学び」のデザインにも従事する。2021年に罹患した病をきっかけに「健やかに働くこと」をより深く考え、HRディレクターに就任。採用業務全般から、育成プログラム開発まで「人」に関わる業務を担っている。2024年米国PMI®認定PMP®,PMI-ACP®取得。合言葉はENJOY NOISE。アカハライモリと暮らす。

Profile

PMの真価は、管理でなく導くこと

「PM Lesson」とは、ロフトワークが主催するオープンなPM勉強会です。これまでも渋谷、京都で複数回開催し、組織、業界を超えた様々な人たちと学びやナレッジをシェアしてきました。

大阪での初開催となった今回は、登壇者がそれぞれの視点から「PMの本質」に迫りました。

TAMのディレクター・北川氏は、身近な「カレー作り」を例に「スケジュールマネジメント」を解説。柔軟性を持ちながら人と協働していく重要性を、参加者の腹に落ちる形で示してくれました。

ロフトワーク京都ブランチの共同事業責任者・上ノ薗は、プロジェクトの初期フェーズに焦点を当てました。「プロジェクトのはじまりとは、言葉の意味や使い方について、人々の間で共通認識を築いていく、その作業をデザインすること」という指摘は、多くの参加者の心に響くものでした。

これらの講演を通じて見えてきたのは、プロジェクトマネージャーの本質的な役割です。それは人を管理することでも、独りで奮闘することでもありません。対話を通じてチームを導き、見えないものをみんなで見える形にしていくこと——そこにこそ、PMの真の価値があるのだと感じました。

スケジュールマネジメントのポイントを、身近なカレー作りになぞらえて紹介した北川さん
先人の知恵の集大成である PMBOK®を手に、PMの原理原則を熱く語る基

物語で紐解くPMの全体像

後半は、PMの全体像をより直感的に理解するために、物語を活用したグループワークを実施。題材は、誰もが知っている「桃太郎の鬼退治」。これによって組織や経験に関係なく、参加者全員が共通の視点を持ち、議論を深められる場をつくりました。

鬼退治をPMの視点から捉え直すと、前人未到の高難易度プロジェクトだといえます。ステークホルダーや必要なリソースも多様です。このように、物語をプロジェクトと見立てながら、新たな視点を得たり、PMの役割について考えるきっかけを提供。多様な視点から意見を交わし、それぞれの経験に基づいた洞察を得ることを目指すワーク設計にしました。

誰もが知っている物語をプロジェクトと見立てることで、全体感を共有しながらグループワークを行った

きび団子の材料不足から、鬼との共生会議まで

ワークショップでは、PMBOK®の知識エリアとプロセス群をガイドに、「鬼退治プロジェクト」の成功戦略を検討していきました。最も興味深かったのは、各チームから生まれた戦略の多様さでした。

あるチームは、プロジェクトの本質的な目的を問い直し、「鬼との平和的な共生」という革新的な解決策を提案。別のチームは、「仲間の裏切り」というリスクを想定し、その対策を綿密に練り上げました。こうした発想の違いからは、「そもそも、このプロジェクトにおける成功とは何か」という根源的な問いが見えてきます。

当日紹介された PMBOK®に掲載されている知識エリアとプロセス群の図。こうしたツールを活用することで全体を俯瞰してみることができる

以下に、各チームから生まれた特徴的な視点をご紹介します。

1. プロジェクトのゴールは何か?(スコープ・統合管理)

  • 鬼を倒すのではなく、共存する道もあるのでは?
  • 鬼を倒した後、村人は本当に幸せになるのか?
  • どこまでが作業対象範囲なのか?宝を持ち帰る?鬼を倒す?
  • どういう状態になれば、撤退するか

2. ステークホルダーをどう巻き込むか?(ステークホルダー)

  • 依頼主は村人なのか? それとも桃太郎の祖父母なのか?
  • 猿の得意分野は何か? もしかして交渉力があるのでは?
  • おばあさんとおじいさんへのヒアリング、協力依頼
  • 交渉役の鬼はいないのか
  • きび団子は誰が生産するのか

3. 必要な資源をどう調達するか?(調達管理・資源管理)

  • 鬼ヶ島にたどり着くまでの食材調達
  • 犬、キジ、猿に求めるアサイン要件は?
  • 動物たちの生態を学ぶ
  • 船や武器の調達は誰が?

4. 予測不能なリスクへの対策は?(リスク管理)

  • きび団子の供給が足りなくなったら?仲間が離脱するかも
  • 鬼が予想以上に強かったら?
  • 宝を得た後、チームがバラバラにならないか?
  • 手にした宝が重過ぎて運べなかったら?

これは当日出てきた付箋の、ほんの一部です。しかし、どうでしょう?

知識エリアとプロセス群の図を見ながら、全体俯瞰し、みんなでディスカッションすることで、見えないことが共有され、成功確率がグンとあがったと感じませんか?

変化は今日から起こせる!成功のポイントとは?

ここからは私自身が、本イベントを通じて感じたプロジェクトを成功に導く5つの視点を紹介します。

1. 正解は一つじゃない、だからこそ選択理由を共有する

チームごとの発表を聞いていて、印象的だったのは解決方法の多様さです。進め方も、成功の定義も、チームによって大きく異なっていました。でも、その違いこそがPMの面白さであり、難しさなのです。

プロジェクトに決まった正解はありません。その時々の状況に応じて、最適な方法を選んでいく必要があります。だからこそ、「なぜこの選択をしたのか」を言葉にして共有することが大切になってきます。

2. 「気になったことを言える」場をつくる

「プロジェクトの始まりは、チームメンバーの共通認識をすり合わせること」——上ノ薗のこの言葉をメモを取っている方も多くいました。大切なのは、経験や年齢ではありません。誰もが安心して意見を言える環境があってこそ、リスクやチャンスに早めに気づくことができます。PMの役割は、まさにそんな対話の場をつくり、チームの力を引き出すことにあるのです。

3. 迷ったときは立ち止まって、全体を見渡してみよう

プロジェクトに深く関わっていると、つい目の前のタスクに気を取られがちです。でも、時には一歩引いて、全体を見渡してみることが大切です。

PMBOK®は、そんなときの道しるべになってくれます。定期的なミーティングや振り返りの機会を設けることで、今の方向性が正しいのか、軌道修正が必要なのか、チームで確認することができます。

4. 困ったときの道具箱を持っておく

PMには、先人たちの知恵が詰まった様々なツールが用意されています。ステークホルダーマトリクス、WBS、品質管理手法など、状況に応じて使いこなすのがPMの腕の見せどころです。

まるで「ドラえもん」のように、必要なときに必要なツールを取り出せる——それがPMの理想の姿かもしれません。そのために、日々新しい知識や手法を学び続けることが大切です。

5. その先にある「より良い世界」を思い描く

プロジェクトを進めていると、ついつい目先の成功だけを考えてしまいがちです。でも、その先には必ず人がいて、社会があることを忘れてはいけません。

「なぜ、このプロジェクトに取り組むのだろう?」

「これが終わった後、どんな未来を作りたいんだろう?」

こんな問いかけを大切にすることで、チームの雰囲気も、仕事への向き合い方も変わってくるはずです。プロジェクトは、より良い世界を作るための一歩なのです。

馴染み深い物語も、PMの視点でみると見えていないことがたくさんあることに気づく

管理でなく共に歩み、より良い世界へ導くPMへ

「PMをとても身近に感じた」「自分の仕事や人生にも活かせそう」

——イベント後の交流会では、参加者からそんな声がありました。

プロジェクトマネジメントは、決して特別な人のための特別なスキルではありません。それは、不確実な道のりを、仲間と共に歩むための実践的な知恵なのです。その知恵は、大規模プロジェクトだけでなく、私たちの日常に潜む小さな挑戦にも活かすことができます。

変化は今日から始められます。PMの視点を持ち、目の前のプロジェクトに向き合うことで、きっと新しい可能性が見えてくるはずです。見えない道も、共に歩めば、必ず切り開けるのです。

私にとってのPMは、誰もが持っている可能性を引き出し、より良い世界を作るための道具。そんな愛すべきPMを推しながら、世の中に一つでも良いプロジェクトが生まれるきっかけを作れれば本望です。

PM Lessonは今後も継続開催予定!興味がある方はお気軽にLoftworkまでご連絡ください

汎用的課題解決スキル、そして未知にポジティブに立ち向かう姿勢こそPMの本質です。
LoftworkではPMを学び、実践できる環境があります。共に働き、成長していきませんか?

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自律性を”仕組み”で育てる
──リーダーに頼らずとも成長するチームのつくり方