会社員の私たちと、普段着の私たちを共に楽しませよう!
ー実現したいワークスタイルを探る、神戸ショートトリップ。
こんにちは。クリエイティブディレクターのもめ(服部)です。今、まさに進行中のプロジェクトで、クライアントである中央復建コンサルタンツ株式会社(以下、CFK)の皆さんとパートナーのクリエイターであるetoa studioさんと共に神戸を訪れました。
CFKは新大阪駅から徒歩5分ほどの位置に8階建てのオフィスを構え、ワークスタイルやオフィス空間のアップデートを検討中。特に、社内外のコミュニケーションをドライブする共有空間の在り方を私たちロフトワークも一緒になって構想を練っている最中です。
自分たちのことを考えるためには、外を見よう!オフィスの中のこと考えるためには、外へ出よう!…ということで、CFKの皆さんとの旅先はどこがいいかしら…ロフトワークプロジェクトメンバーで作戦会議!
実は、今回のロフトワークのプロジェクトメンバーの構成自体がちょっとユニークなんです。リーダー(プロジェクトマネージャー)は、渋谷が拠点で、今回のような空間案件をメインに取り組むLAYOUTユニットに所属しているへいへい(松本亮平)。普段は基本的にLAYOUT内で(まれに渋谷オフィス内で)チーム編成することが多いのですが、多様なワークスタイルを探るためには、まずは己のチーム編成から!と企んだ首謀者。ものづくりが得意なフィンランド帰りの岐阜県飛騨在住くろちゃん(黒田晃佑)と、コミュニティ運営の現場に関わってきた京都在住の私がディレクター陣としてアサインされました。プロデューサーは、現代美術家でありながら会社員の仮面をかぶって社会を面白くしてやろうと企んでいるハモさん(小島和人)。渋谷、京都、飛騨とエリアを跨ぎ、得意分野もバックグラウンドも多様なメンバーです。
フィールドワークのリサーチ先は、神戸に決定。CFKのオフィスがある新大阪からもご近所で、今後も関係性を築いていけるところとにしよう、ということで、私が前職でお世話になった神戸R不動産の代表を務める小泉寛明さん(有限会社Lusie)を訪ねることにしました。チームメンバーのバックグラウンドや得意もどんどん活かす、これも弊チームの特徴です。
今回訪問した場所は、3箇所。KITANOMAD、清山荘(屋上菜園を行うアパートメント)、ROKKONOMAD(泊まれる森のシェアオフィス)。まずは神戸の街中エリアにあるシェスペースKITANOMADからスタートです。
活動は、FOR-PROFITとNON-PROFITの両輪が大切。
KITANOMADは、神戸の北野エリアにあるビンテージマンションの1階と2階部分をリノベーションしたシェアスペース。一部はシェアオフィスとしてクリエイターが入居したり、一部は料理人のアトリエ、ナチュラルワインやチーズのお店、編集者が営む本屋&ギャラリースペースなどとして利用されています。1階にあるFARMSTANDは、店の企画運営自体を小泉さんの会社で担っています。
KITANOMAD全体にいろんな人や店が集まっていますし、各々の店、例えばFARMSTANDには、何組もの農家や料理人、加工事業者が関わっています。10年以上まったく使われていなかった暗がりのマンションの一角とは思えないほど、人の気配がし、いい空気が漂っています。
不動産仲介業を営む小泉さんですが、KITANOMADの運営を含む多くは、必ずしも儲かることを目的とはしていないと言います。FOR-PROFITな営みと、NON-PROFITな営みは相互に作用し、共に大切です。ロフトワークに置き換えてみると、レジデンスプログラムであるCOUNTER POINTはまさにNON-PROFITな営み。FOR-PROFITなその他の営みに価値を還元しています。参加されている皆さんも、この話題は心に残ったポイントの一つだったようです。
ビジョンがあれば大丈夫。「食」が加わると、趣味嗜好の境界線をゆるやかに崩す。
多分野、他部署…人を混ぜたい時、「ビジョンがあれば人は勝手に集まってくる」と小泉さんは言います。小泉さんのビジョンの一つは「REBUILDING LOCAL ECONOMY」、つまり近くの関係性を生かしてあるものでつくっていくこと。ビジョンは本人が明確に言葉にしている部分もあれば、活動の積み重ねなど、場から滲み出て、他者が勝手に受け取っている場合もありそうです。私もKITANOMAD周縁の持つ「ビジョン」たるものに引き寄せられた一人。仕事を変えた今も、KITANOMAD周縁の農家やクリエイターの友人らと寄り集まって遊んだりしています。そして集まる時は、いつも何か美味しいものが近くにある気がする…。小泉さんも「食」が媒介すると、趣味嗜好や思想などの境界線をゆるやかに崩してくれる、と話されていました。
余白のある空間が、関わる人の「やりたい」を実現させるステージに。
もう一人、ゲストに招いたのは、建築家の髙橋渓さん。私が時折、美味しいモノと共に集う友人の一人。彼は「SKY CULTIVATION 」という屋上に畑をつくる活動を仲間と共に行っています。髙橋さん自身が借りたオフィスに屋上がついていて、自分で食べる野菜くらいつくってみようと始めたのがきっかけ。
今回訪問したアパートメント清山荘では、SKY CULTIVATION の活動を知ったオーナーから、「うちでもやって!」と言われたことをきっかけに活動を開始。清山荘の下には神戸で愛される有名レストランがあり、そこの料理人たちもこの場を活用し始めたそうです。レストランは普段は子どもの入店をお断りにしているので、子どもも来れる屋上での料理イベントを企画したら、大盛況だったとか。
屋上の半分は、プランター、葡萄が育つ棚、桜の木などが配置されていますが、半分は何も置いていません。強度的な理由もあったそうですが、この余白が、時にはパーティー、時には映画上映会など、関わる多様な人たちのやりたいことを実現させるステージとなっています。余白のステージ、めっちゃいい。メモメモ。
ノリではじめちゃえ、失敗したってプロセスが楽しい!
ところで髙橋さん、本当に野菜づくり素人だったの?と疑うほど、街のあちらこちらにプランターをつくっては、野菜を育てるお手伝いをしています。農家の友人から土をもらったり、教えを請うことはあるものの「思っている以上に、野菜は勝手に育ってくれるから、植物の力に委ねている」とのことです。水をやるとか、それくらいだよ、と。専門家じゃない人が部活動的に楽しそうに実践しているから、自分もやってみようと思う人を増やしていっているのかもしれませんね。
活動が周囲に広がり、神戸の漁師さんと共に海の側でお米を育てることになり、米づくりの経験がある農家の友人と共にバケツプランターにトライアル。農家さんもバケツでの稲作は初とのこと。良かれと思って入れた有機肥料が原因で腐敗し、あえなく失敗…。バケツの中には有機物の分解者がいなかったのが原因。今度はミミズを入れよう、という学びを得たそうです。SKY CULTIVATIONではこんなトライ&エラーの繰り返し。「失敗したって別にいいんですよ、そのプロセス自体が楽しいから」。
頭でっかちに悩みすぎないで、小さく実験しちゃえばいいんですね。
完璧に仕上げなくてOK、途中経過もオープンに。
午後は場所を変えて、六甲山にあるROKKONOMADへ。車で山道をぐるぐる上がって駐車後、山道を散策して到着。「あえて山道通った方がいいかな」と、小泉さんの粋な計らい。
神戸の海まで見える気持ちの良い山の中のデッキで、ミーティングタイムです。今回、空間づくりのプロフェッショナルとしてプロジェクトに併走してくださっているのは、建築ユニットetoa studioのお二人。etoa studioのお二人とは、私がつい先日まで取り組んでいた別のプロジェクトからのお付き合い。関係性を引き続き耕している感覚があって、個人的には仕事で得る喜びの一つです。
今回のプロジェクトも、既に1ヶ月ちょっとの間にオンライン上や、CFKオフィスでリサーチやディスカッションを繰り返してきました。神戸でのフィールドワーク直前に、etoaさんがアイデアを図面にスケッチしてロフトワークメンバーに見せてくれました。CFKの屋上の活かし方がテーマのスケッチだったので、せっかくだからROKKONOMADで皆さんに見せて、小泉さんも交えてざっくばらんに会話しよう!ということに。
etoa studioさんのスケッチをきっかけに、CFKのメンバーが、ワークスタイルに関するアイデア、想いをあれこれと話します。完成度を高めた提案書をクライアントにプレゼンしてジャッジをされる、といった一方通行の関係性ではなく、粗くても想いやアイデアを吐き出して共につくっていくことを私たちは大切にしています。クリエイター(今回で言うとetoa studioさん)は、形にするプロフェッショナル。プロトタイプでもモノがあると、紙面上で話し合う以上にイメージがしやすく、話し合いは具体的になります。今後もこのプロジェクトでは、オフィス空間上にプロトタイプを設置しながら、ワークスペースについてディスカッションしていく予定です。楽しみ!
会社員の自分も、普段着の自分も楽しませてあげたい!
お昼は、FARMSTANDで取り扱っている神戸野菜のランチBBQ。私が以前働いていたお店の野菜なので、どの生産者さんの何という野菜か大体分かり、テンション上がって焼き担当。そんなことをノリノリでしていると、会社員の自分と普段着の自分は両方同時に楽しませることもできるんじゃない?(と言うか、たった今出来ているんじゃない?)と気付きました。私は週5日、毎日8時間勤務の会社員という道を選んだ今、小泉さん、髙橋さんなどのライフスタイルからは遠くなっちゃったのではないかとどこかで思ってました。「会社員だしな」と、何かが出来ない理由の一つにしていたと。だけどこの日はむしろ、会社員だからこそ出会えたCFKの皆さん、etoa studioさん、そして同僚のメンバーを引き連れて、めちゃめちゃ楽しんでいるやないかい、と。この感覚、胸の引き出しの手前に閉じ込めよう。CFKの皆さんと検討するワークスタイルやオフィス空間も、「会社員の私たち」が「普段着の私たち」をどこまで連れてこれるかが肝かもしれない。それが必ずしも正解ではないとは思うけれど、この日参加したメンバーの多くが、「自分自身を楽しませたい」と口にしていたのですから。
最後に、フィールドワークを振り返った弊リーダー、へいへいの振り返りコメントを紹介しておきます。
僕は、「会社員の自分と普段着の自分が混ざったり溶けあっていて、さらにそのことを周りの仲間と互いに尊重できる環境」が、生産性と創造性が高い状態なのではないかと、今回のフィールドツアーを終えて改めて感じました。仕事の時間にサボれとか、プライベートな時間を仕事に割けと言う意味で「混ぜる/溶かす」と言いたいのではなく、シンプルに、普段着の自分をもっと会社の周りの人に知ってもらったり、そこから自分が試してみたいこと、挑戦してみたいことを、仕事の中に良い意味でねじ込んだり、盛り込んだりして、仕事場を自分の「やりたいことの実験場」として使いこんじゃうと良いのでは?と思うのです。そんな風に会社の環境の“元を取る”社員を、これからの会社は喜んで受け入れる時代だと思います。個人的なチャレンジをあちこち試していたり、社内外でいろんな人と交流していることは、必然的に会社にとっても財産となるからです。と言っても、いきなり「会社に何か還元できるポイントはあるか」なんて視点は特に必要なく、まずは自分自身を楽しませるために、自分の機嫌を自分で取るために、何したらオモロそうか?ニヤニヤできるか?を、考えてみることからはじめてみるのだけで良いはずです。
ちなみに、この記事の執筆自体、誰に頼まれたわけでもなく、私が書きたいから勝手に書いています。つまり「まずは自分自身を楽しませるために、自分の機嫌を自分で取るために、何したらオモロそうか?」をこの記事執筆を通じてやっちゃってました。
私たちはこの感覚を大切に、引き続きプロジェクトに関わっていこうと感じたショートトリップでした。
プロジェクトメンバー
ロフトワーク
メンバーは渋谷・飛騨・京都の3拠点から構成されている珍しいチーム。多様なワークスタイルを持ち合わせ、実践しているこのメンバーで、ノリと生真面目さと平和な空気を持ち合わせた絶妙なグルーヴ感で取り組んでおります。
松本 亮平
株式会社ロフトワーク
Layout Unit シニアディレクター
etoa studio
etoa studioは住友恵理と河合晃により設立され、東京と大阪を拠点に活動する建築デザインユニット。「AR技術を取り込んだ新しいデザイン手法」と、「手を動かし、感じながらつくること」の両面のアプローチから見える、ロジカルな思考だけでは到達できない新しいデザインを志向。
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