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服部 木綿子(もめ), 浦野 奈美, 上ノ薗 正人, 木下 浩佑, 寺井 翔茉, 高井 勇輝, 長島 絵未 2021.10.01

人々の「偏愛」に光を当て、世界に放つ。
京都・五条のクリエイティブな実験場 COUNTER POINT
[NANDA会インタビュー]

クリエイティブカンパニーとして、多様な視点を持ったメンバーたちが活躍するロフトワーク。創業21年目を迎えた今、企業のブランディングから空間プロデュース、Webサイト、映像、体験コンテンツ制作など、アウトプットの幅も次々と広がっています。

そんな中、メンバーたち自身も捉えることが難しくなってきた「ロフトワークらしいクリエイティブとは何か」を考えるべく発足したのが「NANDA会」です。

「NANDA会」とは

「ロフトワークのクリエイティブってなんなんだを考える会」、通称・NANDA会は、ロフトワークのメンバーがボトムアップで自分たちの提供価値を考え、言語化することを目指すインナーブランディングの取り組み。年に1度、全社から特にチャレンジングなクリエイティブ・プロジェクトを募り、プレゼンテーション大会を実施。全社員の投票とディスカッションを通じて、最も評価された6プロジェクトを表彰します。

NANDA会とは? 活動の経緯

本シリーズでは、2021年4月にNANDA会が企画・開催したプレゼンテーション大会において、受賞を果たしたディレクターたちにインタビューを行い、彼らのクリエイティブの源泉となるマインドや思考態度を探ります。

今回話を聞くのは、FabCafe Kyotoを舞台にプロジェクト・イン・レジデンスプログラム『COUNTER POINT』を運営しているロフトワーク京都ブランチのメンバー。COUNER POINTでは、入居者が3ヶ月間、FabCafe Kyotoという場を活用して自身の「偏愛と衝動」にフォーカスしたプロジェクト活動を実施。ロフトワーク・FabCafeのメンバーのサポートやメンタリングを受けながら、他の入居者や地域の事業者などとさまざまなコラボレーションを生み出しています。

ロフトワーク京都ブランチは、このCOUNTER POINTを完全な自社プロジェクトとして運営しています。その背景や取り組みの内容、そして、メンバーが活動にかける想いについて聞きました。

企画:高井 勇輝 (loftwork クリエイティブDiv. シニアディレクター)
松永 篤 (loftwork クリエイティブディレクター)
長島 絵未 (MTRL クリエイティブディレクター)
執筆:佐々木 まゆ
編集:岩崎 諒子(loftwork.com 編集部)

話した人

服部 木綿子(もめ)

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

浦野 奈美

株式会社ロフトワーク
マーケティング/ SPCS

Profile

上ノ薗 正人

株式会社ロフトワーク
京都ブランチ共同事業責任者

Profile

木下 浩佑

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto ブランドマネージャー

Profile

寺井 翔茉

株式会社ロフトワーク
取締役 COO

Profile

高井 勇輝

高井 勇輝

株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター

長島 絵未

株式会社ロフトワーク
バイスMTRLマネージャー 

Profile

個人の偏愛を応援し続けられる、手触り感のあるエコシステムをつくりたい

NANDA会 高井 勇輝(以下、高井) COUNTER POINTはアーティスト・イン・レジデンスでもなく、アクセラレーションプログラムでもない。「プロジェクト」のためのプログラムと伺いました。

NANDA会 長島 絵未(以下、長島) もめさん、どんな活動なのか説明してもらってもいいですか?

服部 木綿子(以下、服部):はい!COUNTER POINTは、個人の衝動や偏愛に突き動かされ生まれたプロジェクトを、FabCafe Kyotoが全力で応援し共に育てる活動。ロフトワーク京都メンバーと入居者が互いに好奇心を刺激し合う、いわば「実験場」です。

COUNTER POINT について

「COUNTER POINT」は、FabCafe Kyotoが提供するプロジェクト・イン・レジデンスのプログラムです。
「組織を頼らず自分たちの手で面白いことがしたい」「本業とは別に実現したいことがある」そんな好奇心と創造性に突き動かされたプロジェクトのための、3ヶ月限定の公開実験の場です。
流浪する河原者たちが新しいスタイルの芸能”歌舞伎”を生み出した京都・鴨川の近く、築120年を超える古民家をリノベーションしたFabCafe Kyotoを舞台に、個人の衝動をベースにした新たなエコシステムの構築にチャレンジしています。

COUNTER POINT by FabCafe Kyoto

上ノ薗 正人(以下、上ノ薗) アーティスト・イン・レジデンスとの違いを言うと、アーティストでなければいけないという制約もないし、どこかの拠点で長期間滞在して制作する形でもない。入居者が「3ヶ月間でどんなプロジェクトを推進するのか」にフォーカスしています。

高井 COUNTER POINTはロフトワーク京都ブランチの自主活動なんですよね。この取り組みが始まった背景を教えてもらえますか?

上ノ薗 FabCafe Kyotoでは、これまでいろいろなクリエイターのみなさんとイベントを開催してきました。でも、クリエイターとの関係という点では、イベントの間の一過性のものでしかなく、継続的な関係を作れていなかったんです。

例えば、FabCafeのイベントをきっかけにクリエイター同士が知り合い、意気投合して新しいプロジェクトが立ち上がったとする。それは、イベント主催者冥利に尽きることですよね。でも、後日彼らに話を聞いたら、イベント時の盛り上りを最高潮に「その先でフェードアウトしてしまって…」となってしまう状況もしばしばあって。僕たちがもし、彼らに対して関わりしろを持って支援できていたなら、その先も取り組みや関係を継続できていたかもしれない。FabCafeを「クリエイターたちが通過する場所」で終わらせてしまうのは、もったいないと感じたんです。

寺井 そうだね。それに、クリエイターとの関係づくりが「属人的」になりすぎていたというのも、課題だったかな。これまではFabCafe Kyotoの責任者である木下くんが、クリエイターとの繋がりを丁寧に紡いできてくれていた。でも、極端な話をすると、もし彼が明日からいなくなってしまったら、これまで築いてきたクリエイターとの関係が分断されてしまう。だから、仕組みとしてもっといろんなメンバーを巻き込むことで、京都ブランチの誰もがクリエイターとの関係を育める枠組みを作ろうと思ったんだよね。

様々なクリエイターが集まるFabCafe Kyoto

寺井 あとは、FabCafe Kyotoという場が向かうべき「次のステップ」を考えたかった。
僕たちが普段のクライアントワークで取り組んでいる「イノベーション」や「未来」を考えることとは違う真逆の道をあえて選んでみたかった。メンバーとディスカッションをしていく中で、しっくりきたのが「社会の役に立つことや儲かることよりも、一人ひとりの発想を大事にした手触り感のあるプロジェクトをつくること」だったんだよね。

上ノ薗 さらに話を詰めていって理想を言語化した結果、FabCafe Kyotoで出会った人・生まれたものと並走し続けながら、「持続的な応援」ができるエコシステムをつくることにしました。

そのためには、これまで木下さんが主導してきたプロセスのなかにある暗黙知を形式知化し、誰でも運営にコミットできる仕組みに変えること。そして、ロフトワークのみんなが持っているスキル、「プロジェクトマネジメント(PM)」と「ディレクション」を活かしてプロジェクトを育てていくことにしたんです。

長島 FabCafe Kyotoとして関わる人の「個性」にフォーカスし、運営のサイクルを円滑に回せる状態を構築したうえで、FabCafeを取り巻く人々との長期的な関係づくりを目指したんですね。

入居者、ロフトワーカー、街のあいだに生まれた変化

高井 京都ブランチでは、COUNTER POINTをどんな体制で運営しているんですか?

服部 私がコミュニティマネージャーとして全体を見ています。主に入居者とのコミュニケーション窓口ですが、それ以外のこともいろいろあります。例えば、今やっているのは運用マニュアル作りで、理想のエコシステムを誰もが運営できる状態を目指して、入居者やロフトワークのメンバーとのやり取りを通じてチューニングしています。

入居時のみならず、入居後もプロジェクトの進捗状況や困った時の相談などに対応する。

服部 あとは入居が決まったプロジェクトに対して、京都のメンバーを適材適所にアサインすること。例えば、プロジェクトの方向性に迷ったときは(浦野)奈美さんに相談したり、展示内容で困ったときは木下さんのお力を拝借したり。

寺井 COUNTER POINTには、もめさんのPM力とディレクション力がめちゃくちゃ発揮されてるよね!

長島 確かに。入居者の課題に対して、ロフトワークのどのメンバーにどうサポートしてもらうのか、ディレクションの妙だと思います。

入居者の方との協働の中で、印象的だったエピソードってありますか。

木下 第一期で入居して、「人の前世を漫画に描く」というプロジェクトを立ち上げた漫画家 みかんありささんは、COUNTER POINTを通じて仕事の幅が広がり、作風にもいい影響が生まれましたね。

浦野 彼女は入居を決めてから、前世誘導の師匠を探して弟子入りして。前世を見るスキルをちゃんと身につけて、それを活かしながら新しい仕事をつくった。それだけじゃなく、他の入居者が開催したイベントでグラフィックレコーディング*を担当したことがきっかけで、新たな仕事のスタイルを確立したそうです。

*グラフィック・レコーディング:議論、セミナー、インタビューなどの内容を、イラストや図、文字を用いて、リアルタイムで記録し、まとめていく手法。

みかんありささんが、イベントでグラフィックレコーディングしている様子。

浦野 あとは、もともと京都への移住を検討していた人が、COUNTER POINTの活動期間中にいろんな人との繋がりを作っていて。そのことが、移住を決める後押しになったと聞きました。

高井 すごい! COUNTER POINTの取り組みが、一人ひとりの人生に少しずつ影響している。

木下 街との関係性も変わってきているよね。京都新聞にこのプロジェクトの記事が掲載されて、今まで接点がなかったようなおじいちゃんがFabCafeを訪れてくれたり、近隣のホステル(Len)と連携して遠方の人も入居できる仕組みの開発を始めたり。COUNTER POINTがハブとなって、いろいろな物事が起き始めているね。

高井 京都ブランチのメンバーにも、何か変化はありましたか?

浦野 みんな、クリエイティブや仕事との向き合い方が少しずつ変わり始めているんじゃないかな。ロフトワークのメンバーは、常に担当した案件で成果を出すことに全力投球している。それは大事なことだしエキサイティングでもあるけれど、同時にプレッシャーでもあるよね。一方で、COUNTER POINTの活動は、みんながクリエイティブを純粋に・自由に楽しめる場になっているんだと思う。

第2期メンバーとして参加したテディベアデザイナーの宮尾さん(中央)。これまで彼女自身の発想でさまざなまテディベアを生み出してきたが、CPでは新たなスタイルに挑戦。フィールドリサーチやインタビューなど外部からのインプットを通して、5種類のテディベアを新たに開発、展示を行った。

服部 そうですね。社外の案件の特性は、期限があっていつか終わりがきます。だから、限られた時間の中で、どれだけクリエイティビティを高められるかを考える必要があります。

COUNTER POINTでは、連綿と続くようにクリエイティブを育てていくことを意識します。どちらか一方だけではなく、行ったり来たりができるからバランスが取れる気がしますね。

上ノ薗 最近のロフトワークの案件では、イノベーションやクリエイティブをどんどん洗練させていく傾向があると思っていて。そのせいか、僕個人としては粗かったり、ざらついていたり、不純であったりというものの魅力が、めちゃくちゃ高まっているように感じるんですよね。

その分かりにくさや複雑さを、信じて歩み続けたい。だから僕は、このプロジェクトにとことん向き合い続けていく覚悟をもってやっていますね。これも個人の偏愛なのかもしれません。

一人ひとりの熱量が「ええ空気」をつくる

ロフトワーカーが入居者の壁打ち相手となることも

高井 COUNTER POINTは、今年のNANDA会でたくさんのロフトワークのメンバーから取り組みを評価されて、「ええ空気で賞」を受賞しました。

「NANDA会」の「賞の名前」について

全社員参加型のオンラインプレゼンテーション大会・NANDA会では、受賞プロジェクトが決定する過程にちょっとした仕掛けがあります。

前プロジェクトのプレゼンが終わったら、投票により6プロジェクトを選出。その後、ロフトワークのメンバーがそれぞれ選出されたプロジェクトごとのブレイクアウトルームに集まり、ワークショップをしながら「賞の名前」の候補を複数案考えます。最後に、受賞したプレゼンターがどの名前がいいかを選んで賞が決定。
「賞の名前」を考えるプロセスは、「プロジェクトのクリエイティブなポイントを、ロフトワークのメンバー自身が考え・言語化する」という、NANDA会にとって重要な意義を持っているのです。

高井 入居者、地域、社内のメンバーを巻き込み、ポジティブな変化や相互作用を生み出す活動が評価されたのかなと思います。賞の名前を聞いてどんな第一印象を持ちましたか? プレゼンターを務めたもめさん、どうでしょう?

服部 言い得て妙というか(笑)。私はCOUNTER POINTの魅力を、「関わる人同士が対話をし続けて、共鳴しあっていく姿」だと思っています。だからこの賞の名前は、プレゼンテーションをした私自身が切り取ったCOUNTER POINTに対して、みなさんが「ええ空気だな」と感じてくださったのかもしれませんね。

でも他のメンバーが語ったら、また違った言葉が出てきたのかなとも思います。それは運営メンバーそれぞれにも偏愛があり、プロジェクトにかけている思いが違うから。今後も関わる一人ひとりが自分の言葉で語りたくなるような場を目指していきたいですね。

長島 確かにCOUNTER POINTって多角的に語れる懐の深さがありますね。一方で、この取り組みを「COUNTER POINTたらしめている」価値があるんじゃないかと思います。その「らしさ」とは一体何なのでしょうか?

上ノ薗 日々、濃密なコミュニケーションが起こっているロフトワーク京都オフィス・FabCafe Kyotoという場の存在は大きいですよね。

「大人が本気で苦しむ場所」をみんなで目指していく

各タームが終わるタイミングで開催されてきたCOUNTER SESSION。過去の参加メンバーやゲスト、次期メンバーも参加して、3ヶ月の振り返りを共有するとともに、新しい繋がりを作っている。

高井 現在、第6期メンバーの募集が10月4日までなんだよね。関わる人が続々と増えている中で、今後のCOUNTER POINTってどうなっていくんでしょうか?

寺井 集まる人の好奇心が作用しあって、場がグルーヴしていくようなプロジェクトに育てていきたいな。

長島 そのために、メンバー内で大事にしていきたいことってありますか。

木下 僕ら一人ひとりがクリエイティビティを信じ続けるスタンスを大事にしていきたいよね。あとは、「マネタイズ」や「成果」に囚われない動きをどれだけ振り切ってやれるかを、常に自分たちに問い続けていきたい。

上ノ薗 個人の偏愛に向き合い続ける姿勢は、変えずにいたいですね。

高井 入居者とのやり取りが多い、浦野さんと服部さんはどうですか?

浦野 「大人が本気で苦しむ場所」を目指していきたいですね。衝動をもとに、どこまで足掻けるか。チャレンジし続ける姿勢や、きれいにまとまらなくて試行錯誤している姿を目撃し続けたいし、一緒にもがきたいです(笑)。

服部 個人の偏愛に対しては共感を持ちつつ、整いすぎた計画書やその人「らしさ」が出ていない企画に対しては、批評的な視点でどんどんものを申す立場でいれたらなと。

この立場はロフトワーカーだからこそできることなんですよね。いろんな業種の仕事、クリエイティブを作る環境に身をおいている状況を活かして、私たちも足掻いていきたいなって思います。

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The KYOTO Shinbun’s Reportage
京都新聞論説委員が見る京都ルポ「課題の価値」