経済産業省 PROJECT

デザイン意識を育み、地域ブランドの礎を築く
『HOKKAIDO TO GO』

Outline

観光消費拡大のための取組み創出と持続的な地域ブランドの確立をめざす

北海道胆振東部地震からの観光復興をテーマにした経済産業省の企画公募をきっかけに、『HOKKAIDO TO GO』プロジェクトの挑戦が幕を開けました。

地域ブランディングの豊かな経験とデザインに関する知見をもつロフトワークに期待されたのは、北海道ブランドがサステナブルに成長していくための、「デザイン」を通じたブランドづくりの実践と、事業者にデザインを活用する価値を実感してもらうことでした。

2018年12月から2019年3月中旬までの3.5ヶ月というショート・タームで、地元メーカー6社とお土産パッケージのプロトタイピング、観光スポットや商品・サービス情報とともにプロジェクト全体の情報発信を担うWebサイト立ち上げ・運用を行いました。

「地域プロジェクトを打ち上げ花火で終わらせたくない」「取り組みの種を未来につなぎたい」という、北海道の内と外から集まったプロジェクトメンバー全員の思いを原動力に走り抜けた本プロジェクトのプロセスと展望をご紹介します。

HOKKAIDO TO GO Webサイト
HOKKAIDO TO GO Webサイト

Challenges

事業者とデザインとの「関係づくり」

2018年9月に発生した北海道胆振東部地震の影響で観光客が減少し、観光産業に大きな損害が生じていました。北海道の観光消費を回復させることを目指した本事業の中でも、このプロジェクトでは「未来につながる取組みの種をまくこと」を主眼に設計されました。

2018年5月に経済産業省・特許庁が発表した「デザイン経営」宣言は、企業はデザインを効果的に活用することで、ブランド力は向上し、その結果競争力の高いサービス・製品を提供し続けることができると指摘しています。これは一部の大企業の話ではなく、中小企業や自治体においても同様です。

『HOKKAIDO TO GO』は、デザイン経営の試行、すなわち、地元企業にデザイナーとともにコンセプトから製品化までを並走してもらい、その価値を実感し、継続して取り組んでいくことも目指しました。

しかし、地域の事業者に「デザインが大切である」とただ伝えるだけでは、行動に繋がらないのが現実。短期間で価値を実感してもらうために、下記をポイントとしています。

  • デザインプロセスのフレームワークを理解してもらい、それに沿ってプロジェクトを進める
  • 事業者とデザイナーのコミュニケーションを丁寧に行い、短期間で密な関係をつくり、維持する

ロフトワークの地域デザインプロジェクト

ロフトワークはこれまでも、地域の事業者とデザイナーとともに地域産業「ならでは」の価値をデザインの力で発信するプロジェクトに取り組んできました。諏訪市の「SUWA デザインプロジェクト」、石垣市の「USIO design project」がその代表事例です。共通するのは、デザイナーと事業者の二者がチームを組み、対話しながら二人三脚でデザインプロセスを進める設計。
このプロセスに価値を見出した事業者の中には、プロジェクト期間終了後に自己資金でデザイナーとの協働を進めたケースもあります。事業者はデザインの力をビジネスに活用する価値を発見し、デザインへの取組みがサステナブルに続いた事例といえます。

Process

札幌の「次の観光地」である3都市が舞台

今回、対象エリアとして旭川、釧路、余市の3都市を選定。いずれも、道内で一番人気の観光地・札幌の「次」の北海道観光の目玉となりうるポテンシャルを持った地域。旭川は木工などものづくり、釧路は釧路湿原や阿寒湖などの雄大な自然があり、余市はウイスキーとワインが注目されています。それぞれ人気が高まりつつある地域です。

余市-HOKKAIDO TO GO
釧路-HOKKAIDO TO GO
旭川-HOKKAIDO TO GO

“HOKKAIDO TO GO” に込めた思い

プロジェクトのタイトルは、“HOKKAIDO TO GO” ー持ち帰りたくなるお土産品(“To go”)と、現地でしかできない体験(“To go to~”)をかけて作りました。北海道の内と外からヒト・モノ・コトを交差させ、新しい価値が生まれ・発信されるプラットフォームになりたいという思いを表現しています。

ロゴは、多様なテーマやコンテンツを受け入れる包容力と、北海道らしいスケールの大きさと力強さを兼ね備えたシンプルなデザインです。

ロゴは、長年ロフトワークの地域プロジェクトで多くのデザインを手がけてきた、MOTOMOTO 松本健一さんがデザイン。
ロゴは、長年ロフトワークの地域プロジェクトで多くのデザインを手がけてきた、MOTOMOTO 松本健一さんがデザイン。

デザイン経営をインプットする、4泊5日の合宿

今回のプロジェクトでは、事業者とデザイナーの双方にむけてデザイン経営の基本とデザイン思考をインプットし、ユーザーリサーチを実践してもらうために4泊5日の合宿を敢行。プロジェクトに採択された旭川、釧路、余市でお土産品を製造している6事業者と、パッケージとWebコミュニケーションを担当するデザイナーがそれぞれ3人1組でチームを組み、勉強会とユーザーリサーチに参加しました。

デザイン思考のアプローチは、ビジネスオーナーが作りたいものではなく、「ターゲットユーザーが求めているもの」に応えるプロダクトやサービスをつくるための実践的な手法を提供します。そこで、プロジェクトに参加するデザイナーは北海道と東京の人材に加えて、北海道への観光客が多い台湾、中国のバックグラウンドを持つ人材にも参加を呼びかけました。

正しい課題解決のためのダブルダイアモンドモデル。(特許庁:デザイン経営プロジェクトレポート より抜粋)
正しい課題解決のためのダブルダイアモンドモデル。(経済産業省・特許庁:デザイン経営プロジェクトレポート より抜粋)

合宿では、以下の行程でユーザーリサーチからリデザイン方針立案まで実践しました。

  • 1日目…デザイン経営とデザイン思考の勉強会とワークショップ。
  • 2日目…チームごとに札幌市内で観光客を理解・観察するためのユーザーリサーチ。
  • 3〜4日目…各チーム、事業者の地元(旭川、釧路、余市)に移動してユーザーリサーチ。リデザイン要件定義。
  • 5日目…札幌に移動。リサーチのラップアップ、リデザイン方針共有会。

5日間で、札幌と各都市を往復しながらリサーチとリデザイン方針案を進める強行軍。メンバー全員の頑張りにより、最終日ですべてのチームのリデザイン方針が出揃いました。

東京から北海道へ、膝を突き合わせながらチームを深める

プロトタイプ制作フェーズは、重要な局面で必ず「生で」コミュニケーションすることにこだわりました。メールやオンラインチャットで意思疎通することに慣れている事業者は、まだまだ少数派。また、チームメンバーが離れて仕事を進める中で、合宿で設定したリデザイン方針が見失われないよう、できる限り直接対話の機会を設けました。

釧路の「菓子処松屋」と洋菓子店「フランダース」のデザインチームをコーディネートしたディレクターの室諭志は、プロトタイプ期間をこのように振り返ります。

今回、要件定義、デザイン制作、プロトタイプ制作と、それぞれのフェーズでチーム全員が膝を突き合わせて話し合いました。デザイナーと事業者の二者が話し合いをする中、ロフトワークの僕は一歩引いた立場で両者のコミュニケーションが円滑に進むよう調整したり、アウトプットが合宿で設定したインサイトから離れていないかを見定めていました。他にも、チームの合意形成や、パッケージのコスト管理などをサポートしました。

チームとしては全部で3回の釧路訪問。極寒でしたが、集まるたびにメンバーの関係が濃くなっていくことを実感しました。

全チームが2ヶ月のプロトタイプ期間を完走

3月15日に札幌で開催された最終報告会では、関係者に向けたプロトタイプのお披露目とチームによるプレゼンテーションを実施。地域ブランディングやマーケティングに精通するアドバイザーからのフィードバックを得て、プロトタイプ制作の全行程が終了しました。

合宿からお土産品パッケージとWebコミュニケーションのプロトタイプ制作まで、実質2か月という短期間にもかかわらず、6組すべてのチームがプロジェクトを完走しました。

札幌で開催された最終報告会の様子

プロトタイプは3月に東京で開催されたJapan Brand Festivalでもお披露目

プロトタイプは3月に東京で開催されたJapan Brand Festivalでもお披露目

プロトタイプは3月に東京で開催されたJapan Brand Festivalでもお披露目

プロトタイプは3月に東京で開催されたJapan Brand Festivalでもお披露目

事業者が得たデザインへの眼差し

プロジェクトから未来につながる具体的な動きも生まれています。プロトタイプを制作した菓子処松屋の「釧路湿原紀行」と、余市はまなすの「りんごパイ」は、商品化に向けたチャレンジが始まりました。

また、商品化に進んでいる2社に限らず、多くの事業者がリサーチやデザイナーとの協働を通じて商品の魅力を高められることを実感したといいます。自社の強みや持ち味を改めて認識したり、今後の商品開発の展開を考える道筋にもつながったという声もあり、デザインに対する意識が着実に変化しています。

有限会社マルコウ福原伸幸商店の代表、福原江太さんは、このように語ります。

顧客層をきちんと捉えて整理し、デザインのトーン&マナーを決定していく一連のプロセスを体感できたことは学びでした。また、自分たちにとって当たり前だったことを、デザイナーの視点を通じて改めて価値として捉え直せました。

ただ、商品は売れるか売れないかが重要。プロジェクトの効果は、実際に商品を販売してはじめて評価ができると思います。今後は自社のブランディングも含めて、デザイナーと取り組んでみたいです。

有限会社マルコウ福原伸幸商店 代表 福原江太さん(右から2番目)と同社・福原洋里さん(一番右)。(左から順に)デザインを担当した、PORT 大竹雅俊さん、大竹雄亮さん。
有限会社マルコウ福原伸幸商店 代表 福原江太さん(右から2番目)と同社・福原洋里さん(一番右)。(左から順に)デザインを担当した、PORT 大竹雅俊さん、大竹雄亮さん。

Outputs

6つのお土産品プロトタイプ

マルコウ福原伸幸商店『BAKU BAKU NISIN』

マルコウ福原伸幸商店『BAKU BAKU NISIN』
パッケージデザイン:大竹 雅俊(PORT)
Webデザイン:大竹 雄亮

余市はまなす『りんごパイ』

余市はまなす『りんごパイ』
パッケージデザイン:森川 瞬
Webデザイン:大竹 雄亮(PORT)

日本醤油工業『カレーなるサラサラマサラ』

日本醤油工業『カレーなるサラサラマサラ』
パッケージデザイン:厳 研(株式会社大宇宙醸)
Webデザイン:中村 明史(スタジオスプーン)

ササキ工芸『名刺ケースパッケージ』

ササキ工芸『名刺ケースパッケージ』
パッケージデザイン:静電場 朔
Webデザイン:中村 明史(スタジオスプーン)

フランダース『霧のプリン、釧路。』

フランダース『霧のプリン、釧路。』
パッケージデザイン:佐藤 健一(AMAYADORI)
Webデザイン:金木 馨

菓子処『釧路湿原紀行』

菓子処『釧路湿原紀行』
パッケージデザイン:野田 久美子
Webデザイン:金木 馨

自前のWebメディアでリデザインの取組みと観光情報を発信

プロジェクトの最終ゴールは、それぞれの地域のブランディングとプロモーションを通じて、観光消費拡大につなげること。そこで、プロジェクトのWebサイトは期間限定のキャンペーンサイトとしてではなく、北海道全体のプロモーションをもカバーできるポテンシャルを持った観光メディアとして設計。国内のみならず、中国・台湾に向けてプロジェクトの情報を広く伝えることを目指しました。

コンテンツは、日本人だけでなく台湾や中国のデザイナー、インフルエンサーの視点から制作。2ヶ月間で、デザインやカルチャーの切り口からの記事を16本制作・公開しました。FacebookページとInstagram も開設し、プロジェクトのプロモーションを自走させる土台を整えました。

HOKKAIDO TO GO

台湾の創作ユニット「男子休日委員会」による、釧路取材記事。台湾のフォロワーから大きな反響がありました。

台湾の創作ユニット「男子休日委員会」による、釧路取材記事。台湾のフォロワーから大きな反響がありました。

Message

HOKKAIDO TO GOの先にあるもの

HOKKAIDO TO GOは、ロフトワークが運営するプラットフォームとして、これからもデザインを通じて北海道のまだ知られていない魅力やユニークなものづくりに光を当てる取り組みを続けていきます。プロデューサーの二本栁は、プロジェクトの今後についてこのように語ります。

プロジェクトが終わってからも、社内外両方のメンバーから『次はここまでチャレンジしたい』というアイデアがたくさん上がっています。プロジェクトの期間は終わりましたが、僕たちとしては変化の種をまいたところ。これからがスタートという気持ちがあります。

『HOKKAIDO TO GO』は、北海道のすべての地域や事業者とコラボレーションできる場所です。今回つながったみなさんはもちろん、これから新しく出会う方たちとも次の取り組みを仕掛けていきたいです。このプロジェクトにピンときた方は、ぜひ声をかけてください。(二本栁)

Impact

数字で見る HOKKAIDO TO GO プロジェクト

20,000km

プロジェクトメンバーの移動総距離

65人

コラボレーションしたパートナーの人数

6点

プロトタイプしたお土産品の数

16件

公開した記事の数

10人

海外のパートナー数

Member

二本栁 友彦

株式会社ロフトワーク
ゆえんユニットリーダー

Profile

柳田 綾沙

柳田 綾沙

株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター

室 諭志

株式会社ロフトワーク
バイスMVMNTマネージャー

Profile

佐々木 まゆ

佐々木 まゆ

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

林 剛弘

林 剛弘

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

北島 識子

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター / デザインエヴァンジェリスト

Profile

小檜山 諒

小檜山 諒

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

岩倉 慧

株式会社ロフトワーク
バイスFabCafe Tokyoマネージャー

Profile

Partners

プロジェクト・パートナー

ブランディング事業参加事業者

[余市エリア]
福原 江太 / 福原 洋里(有限会社マルコウ福原伸幸商店 )
菅原 佳代 / 馬場 紀恵子(特定非営利活動法人 余市はまなす)
[釧路エリア]
松橋 福太郎(菓子処 松屋)
村上 友一(株式会社Flandars)
[旭川エリア]
浅利 邦章 / 高垣 まゆ美(日本醤油工業株式会社)
佐々木 雄二郎 / 三野宮 雅敏(株式会社ササキ工芸)

 

ブランディング事業デザイナー

[余市エリア]
森川 瞬
大竹 雅俊(PORT INC.)
大竹 雄亮(PORT INC.)
[釧路エリア]
佐藤 健一(AMAYADORI)
野田 久美子
金木 馨
[旭川エリア]
静電場 朔(株式会社大宇宙釀)
厳 研(株式会社大宇宙釀)
中村 明史(スタジオスプーン株式会社)

 

インフルエンサー

奕凱 / Azona / dato(男子休日委員会)
江澤 香織(フリーライター・コーディネーター)
静電場 朔(株式会社大宇宙釀)
丹葉 光宏(株式会社丹葉商会)
林 唯哲(BXG株式会社)
鶴本 晶子(株式会社ナガエプリュス)
DJ SASA

 

事業アドバイザー

丹葉 光宏(株式会社丹葉商会)
鶴本 晶子(株式会社ナガエプリュス)
西谷 雷佐(たびすけ 合同会社西谷)

 

メディアパートナー

片野 孝亮 / 須藤 か志こ / 名塚 ちひろ / 廣谷 奈々美(クスろ)
David Wang / Nicholas Tsai(Pinkoi Japan株式会社)

 

地域パートナー

阿部 弘亨(余市町経済部商工観光課)
芳賀 昌史(余市町経済部農林水産課)
山本 芳和(余市町経済部商工観光課)
伊藤 二朗(一般社団法人余市観光協会)
梶沼 翔太(一般財団法人旭川産業創造プラザ)
後藤 哲憲(旭川市経済部産業振興課)
杉本 啓維(旭川家具工業協同組合)
菅野 隆博(釧路市産業振興部観光振興監)
長山 道憲(釧路市産業振興部産業推進室)
阿部 豊(釧路市産業振興部)
板谷 一希(一般社団法人 大雪カムイミンタラDMO)

 

協力

OMO7 旭川(星野リゾート)
株式会社 北日本広告社
小笹 俊太郎
服部 亮太(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社)
ブライス・モレンカンプ

 

ロゴ、VIデザイン

松本健一(MOTOMOTO inc.)

 

Webデザイン、制作

北川ふくみ(Gear8)

 

図版デザイン

原田 充(libretto works)

 

ライティング

河方 創
田中 勲
中井 涼
林 唯哲(BXG株式会社)

 

カメラマン

寺島 博美

 

翻訳

株式会社メディア総合研究所

Keywords

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地域の産業競争力を高める挑戦。3年目のSUWAデザインプロジェクト