京都発、地域経済のための共創拠点
金融機関が担う場の在り方と価値基準を描く
Outline
共創拠点の「価値基準」を定義する
2028年春、京都駅至近に誕生する「共創HUB京都(仮称)」。起業家・事業会社・大学など多様な主体が集い、社会課題の解決に向けた新たな価値創造や事業創出を支える、産学金連携の複合型イノベーションハブです。京都信用金庫、龍谷大学、大阪ガス都市開発によるコンソーシアムが主導し、この場所で60年以上にわたって共創が生まれ続けることを目指しています。
ロフトワークはコミュニティ・バンク京信*(以下、京信)から依頼を受け、京信が担う区画の運営方針と支援体系の企画設計に約1ヶ月間伴走しました。
AI活用があたりまえとなった今、プロジェクトメンバーが対峙すべき問いはなにか。大きな投資が伴う場の運営を、どのような価値に繋げるのか。また大きな館のなかで、京信はどんな役割を担うのかー。運営方針・支援方法を整理したエコシステムを設計しました。
*コミュニティ・バンク京信は京都信用金庫のブランドネームです。
共創HUB京都(仮称)について
共創HUB京都(仮称)は、JR京都駅近く(京都市立芸術大学隣接地)に2028年春の開業を目指す、産学金連携の複合型イノベーションハブです。京都信用金庫、大阪ガス都市開発、龍谷大学が連携し、スタートアップ支援機能、サテライトキャンパス、交流型住宅を一体化させ、社会課題解決と新たな価値創造を目指す拠点です。
Approach
「問い」を中心にした設計
京信はすでに「QUESTION」という共創施設を運営しています。共創HUBでは、そこで培ってきた知見をベースに、より大規模・広域なステークホルダーとの連携を視野に入れた、新たな運営の形を模索する必要がありました。
新たな拠点をオープンする際、「図面は完成したが、中身のメニューやアクティビティが定まらない」「大きなコンセプトワードだけが先行している」といった焦りから、「どんなプログラムを実施するか」「どんなターゲットを呼ぶか」という議論になりがちです。
そこでロフトワークが重視したのは、プログラムを決めることではなく、「京信は何ができ、どのタイミングで関わるのか」という視点です。対象を職種や年代などの属性ではなく「関係性」で捉え直し、相談・構想・実行といったフェーズに応じた支援の在り方とその循環を描いたエコシステムへと転換しました。
さらに「共創」と京信の強みである「金融」がゆるやかに接続される構造を整理。必要なタイミングで自然に金融支援へと移行される体制を構築しました。京信がこれまで積み上げてきた活動をエコシステムという枠組みで可視化することで、プログラムとは「対話を通じて何度でも更新し続けるもの」として再定義されました。
Points
本質的な対話を生み出すための、AI活用アプローチ
短期集中型プロジェクトにおいて重要なのは、スピードと解像度の両立です。AIの活用は議論の整理や仮説構造の可視化を高速化します。ただし、AIを「答えを出す装置」としては使わず、「ひと」の対話の時間をいかに確保できるか。そこを起点にプロジェクトを組み立てています。
意図的に「迷う時間」を設計する
組織における意思決定は、往々にして「早く決めること」が良しとされます。しかしロフトワークは、本質的な決断には「迷うプロセス」こそが必要だと考えています。プロジェクトの中に意図的に”もやもやする期間”を組み込んだのは、不確実な状態に耐える力、いわゆるネガティブ・ケイパビリティをお互いに許容するためです。
「ここから」の判断軸をつくる
60年以上続く拠点に必要なのは、完璧な計画ではなく、更新可能な判断軸です。市場の変化、技術革新、社会課題の移り変わり。その都度「自分たちはなぜここにいるのか」を問い直せる構造があってこそ、拠点は長く機能し続けます。今回のエコシステムや運営方針は、そのための「問い直しの起点」として位置づけています。
Process
人の視点に重きをおき、本質と向き合うためのAI活用
本プロジェクトは、約1ヶ月という極めて限られた期間で進行しました。この短期間で最大限の成果を出すため、AIを用いて”キックオフの時点で、プロジェクトの最終ゴール(成果物)を予測・提示する”というアプローチを採用しました。

あえてスタート時に仮のゴールを可視化した目的は、単に効率を求めるためではありません。あらかじめ完成図を共有することで、チームの議論を「何をつくるか」という手法の検討から解放し、「なぜそれが必要なのか」「60年後にも価値を持ち続ける構造とは何か」という本質的な問いにシフトさせるためです。これにより、プロジェクトの初期段階からメンバー全員が組織の垣根を越え、一つのチームとして同じゴールに向き合う土壌を整えました。AIの活用法は多岐にわたりますが、共創の場を生み出し、実際に動かしていくのは「人」です。ロフトワークでは、AIで効率化できる部分は積極的に活用しながら、その分生まれた時間を人間が本質を問い直すことに充てる、というプロジェクト設計を大切にしています。
次に、関係者それぞれの視点での「共創HUBにおける役割」をテーマに、内部・外部へのインタビューを設計。「共創」「金融」「地域」という抽象的な言葉の解像度を上げ、自分ごとにしていくための問いをチームで積み重ねていきました。
ワークショップでは、ジョハリの窓を活用し、「自分たちが認識している特徴」と「外部から見えている特徴」のズレを可視化。ターゲットを単純な属性で区切るのではなく、これまでの関係性や、これから一緒に挑戦したい熱量という軸で再整理しました。
ワークショップではそれぞれの視点での「共創」のイメージを言葉だけでなくさまざまな方法で「言語化」するアプローチを実施
ゲストには連続起業家の井口 尊仁氏も参加、その場で共創HUBにおける事業アイデアがいくつも生まれた。
こうしたプロセスを通じて、設計の焦点は「何をするか」というプログラムの枠組みから、「どう在りたいか」という関わり方の本質へと移行。互いの視点を丁寧にすり合わせることで、短期間ながらも計画の輪郭が鮮明になっていきました。
キックオフ時からプロジェクトの終盤まで、チーム全員が安易な答えに逃げず、一人ひとりが悩み、考え抜くという姿勢を貫きました。この熟考のプロセスを経て実施された全メンバーへのヒアリングが、最終的に「運営計画ガイドブック」の完成へと結実しています。
Outputs
共創HUB京都 運営計画ガイドブック
「共創HUB京都 運営計画ガイドブック」は、共創HUB京都において京信が担う機能・運営方針・コンセプトを定義した資料です。単なる施設の運営計画にとどまらず、「京都信用金庫の中にすでにある哲学」を言語化し、60年スパンで施設を運営していくための「価値基準」を示しています。
コンソーシアムのパートナーや地域のステークホルダーとの対話の場に持ち込み、「京信はここで何者でありたいのか」を共に議論し、仲間を増やしながら磨き続けていく。そのための資料として設計しています。
エコシステム図
京信がこれまで地域で築いてきた関係性や支援の積み重ねを、エコシステムという枠組みで可視化したものです。鳥の目(長期俯瞰)/ 虫の目(伴走実装)/ 網の目(信用・接続)の3軸で、京信ならではの関与の在り方を設計思想として言語化しました。
運営が本格化するなかで生まれる新たな議論や状況の変化に対して、「自分たちはなぜここにいるのか」を立ち返るための共通言語として機能します。

Member
メンバーズボイス
“コミュニティ・バンク京信は「人と人」、「事業と事業」を繋ぐことを主眼としている中で、起業家支援に特化した施設として共創HUB京都の指針を定めていくことは非常に大変でした。この施設で行いたいこととなぜ我々が行うのか。抽象的な「共創」という概念を、誰の心にも刺さる具体的な言葉へ落とし込む作業(言語化の壁)。 既存のイメージに甘んじず、この地から発信する「未来の価値」をどう差別化するか(京都や京信の再定義)。 ロフトワークの皆さんと一緒に正解のない問いに対し、様々な角度から積み上げていき、妥協を許さないプロセスを踏むことができたことが心地いい疲労感であり、次のステップに繋がる醍醐味を感じることができました。”
京都信用金庫 共創HUB京都開設準備室 室長 足立 憲昭
“正解を出すのではなく、正解を探し続けられる構造をつくったプロジェクトでした。
これまで「ことば」や「計画」だけではなく「実践」「行動」をしてきたコミュニティ・バンク京信のみなさんのおかげでできたプロジェクトだと思ってます。おかげさまで、これまでも多くのプロジェクトに関わらせていただきましたが、我々にとっても「挑戦」を問われるような、関わる意味があった、と強く感じたプロジェクトになりました。
”
ロフトワーク クリエイティブディレクター 䂖井 誠
““声を頼りに道標を立てる”
山々がいくつも連なる山脈を越えるような、60年という果てしない道のりを、京信の皆さんはこれから歩んでいかれます。そこで今必要となるのは、目的地への地図(運営計画)そのものではなく、運営計画を検討する際の拠り所、いわば道に迷ったときの目印となる“道標”でした。
今回のプロジェクトでは「とにかく言葉にしてみること」を重視し、本計画の周辺にいる当事者たちの声を直接聞き、プロジェクトメンバーと何度も対話を行い、過去・現在・未来といったあらゆる視点から生まれる言葉を集めていきました。
山の向こう側にある景色は、目の前の山を実際に登ってみるまで誰も知ることはできません。同じように、新たな拠点の未来の景色も、当事者にしか生み出すことはできません。
対話やインタビューを通して集まった山を登るための道具や、道標を立てるための技術、そして、コミュニティ・バンク京信のみなさんが築き上げてきた実践力と行動力によって、これから新たな道が開かれていくかと思います。
共創拠点という大きな山脈に立てられていく道標を頼りに、多くの人が集まり、その山の向こうに誰も見たことのない景色が生み出されることを願っています。
”
ロフトワーク クリエイティブディレクター 國米 翼
“「1年の計は元旦にあり」と言いますが、プロジェクトのキックオフで「100年の計を立てて、共創HUBの存在意義を考えよう」とチームで話しました。個人では考えつかない程の大きな投資と、壮大な時間軸の新規事業。60年前から"日常の当たり前"が様変わりした以上のスピードで、次の60年の世界は移り変わっていくでしょう。一方でAIは当座の解決策は教えてくれますが、長期視点の生き様を示唆してくれることはありません。そんな時代に、京都信用金庫が、京都の地に根ざし、事業を通して地域に貢献するとはどういうことかー。存在意義を問われるプロジェクトでした。身に余る問いと対峙するタスクフォースの皆様のプレッシャーは計り知れません。そんな問いに対して1ヶ月という期間は短すぎましたが、この濃縮された期間に「誰よりも考え抜いた」という自負が、覚悟や熱量となり大きな渦の中心点へとつながっていく、そんなきっかけのプロジェクトになれば嬉しく思います。”
ロフトワーク プロデューサー 山田 富久美
Credit
プロジェクト基本情報
プロジェクト期間:2025年11月〜2025年12月
体制
- ロフトワーク
- プロジェクトマネージャー:䂖井 誠
- ディレクター:國米 翼
- プロデューサー:山田 富久美
- サポート:上ノ薗 正人
- 制作パートナー
- 伴走/レビュー:井口 尊仁(般社団法人Tomorrow Never Knows 代表理事)
- レビュー/アドバイス:椙山 泰生(椙山女学園 理事長)
- コピーライティング/レポーティング:高橋 マキ
- メインビジュアル制作:赤山 朝郎(有限会社オフィス ティ)
- ディレクションアドバイス:塩谷 啓悟
Contact
建物は建つ。しかし、その中身は自然には立ち上がらない。
私たちは、構想が固まっていない段階から、組織の「判断軸」を共に設計します。「外部から与えられた正解ではなく、内部で醸成された自分たちが語りたくなる判断軸」が生まれる瞬間を何よりも大切にしています。「共創」「イノベーション」という言葉が空洞化する前に、問いを立て直す必要があります。
ロフトワークは、構想段階から伴走し、組織の「判断軸」を共に設計するパートナーです。
もし今、「建築・建物は決まっているが中身が定まらない」、「議論が拡大し、抽象的な言葉が増えてきている」そうした課題・状況にある方、ぜひお問い合わせください。







