南海電鉄と描く、大阪なんばの未来
新サービスの社会的インパクトとロードマップを設計
Outline
新事業の社会的インパクトを設定し、道筋を描く
大阪から和歌山・高野山方面をつなぐ鉄道会社、南海電気鉄道株式会社(以下、南海電鉄)は現在、デジタルきっぷを用いた新サービスの事業化に向け、検討を進めています。これから実証実験を行うにあたり、より多くの社内外のステークホルダーを巻き込んでいくフェーズを迎えています。
社会に必要とされる事業に育てていくため、事業の実現可能性を考えると同時に、事業や活動の結果として社会的、環境的にどのような状態をつくっていきたいのか、ユーザーに提供する価値や、目指す世界観を改めて言語化する必要性を感じていました。
そこで、南海電鉄とロフトワークは新事業の社会的インパクト*を設定し、道筋を描くためのワークショップを実施。新サービスを展開した結果、ユーザー、そして社会にどのようなインパクトをもたらしたいのか、そのためにどのような活動が必要なのかロジックモデルを用いてロードマップを設計しました。
プロジェクト概要
プロジェクト期間:2022年3月
クライアント:南海電気鉄道株式会社
体制:
- プロジェクトマネージメント:クリエイティブディレクター 䂖井 誠
- プロデュース・プランニング:プロデューサー 小島和人(ハモ)
- イラスト制作:スケラッコ
*社会的インパクト:短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム
(引用元 一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ https://simi.or.jp/social_impact/about)
Process
Step1)南海電気鉄道を取り巻く、環境の未来予測図を描く
現在検討中の新サービスはどのような社会・生活者のための事業なのか、また、なぜ南海電鉄がやるのかを言語化するため、長期的なロードマップを作成。現在から2030年における、南海電気鉄道を取り巻く環境変化をプロットし、新サービスが実装される将来、業界や社会、人々はどのように変化していくのか、仮説を立てました。
Step2)新サービスがもたらす社会的インパクトとロードマップを設計する
社会に必要とされる事業に育てていくため、経済的な事業性を検討するだけでなく、新サービスを展開したその先に、どのような社会的インパクトをもたらしたいのかを言語化する必要があると考えました。そこで、活用したのがロジックモデルです。
短期・長期の視点でユーザーや社会にもたらしたい変化と、変化を起こすために必要な活動やリソースを洗い出し、ロジックモデルに落としこみました。
ロジックモデルとは
ロジックモデルとは、事業が成果を上げるために必要な要素を体系的に図示化したもので、事業の設計図に例えられます。一般的なロジックモデルの図は事業の構成要素を矢印でつなげたツリー型で表現され、「インプット」「活動」「アウトプット」「アウトカム」と4つの要素で図示されます。
プロジェクトを通じてどのような社会・景色を実現したいのか?関わるメンバーで共通認識をもち、推進しながら活動内容をアップデートさせていくための航海図のようなものです。
ロジックモデルで描いた世界観「大阪なんばの"にぎわい"」を表現
Interview
本プロジェクトを推進する南海電気鉄道株式会社イノベーション創造室 新規事業部 中川和幸さん、ワークショップに参加した南海電気鉄道株式会社まち共創本部グレーターなんば創造部 福井良佑さんにお話を伺いました。
ーーなぜ、ロジックモデルを用いたロードマップ設計が必要だと考えましたか?
南海電気鉄道株式会社 中川和幸さん(以下、中川) 新サービスの事業化を考える際、継続的に利益を生み出すことを企業として求めなければなりません。約2年前から新規事業部で取り組んできた経験則では、利益ばかりに目が行き、社会に目が向いていないと事業化できないということでした。サステナブルな事業として成立させるためにも、社会や業界の課題を解決するサービスに仕立て上げることが不可欠であり、このプロジェクトに関わる社内外の人たちがその共通認識を持つことが重要だと考えました。そんな折、以前より交流のあったロフトワーク小島さんとお話しをしていたときにロジックモデルについて教えて頂き、「これだ!」と思いました。
ーー共通認識を醸成するために、ロジックモデルを描くことが最適だと考えたのですね。では実際にワークショップを実施しての感想や、ロジックモデルを描いたことで、明らかになった点や気づきについて教えてください。
南海電気鉄道株式会社 福井良佑さん(以下、福井) 参加者の立場からお話します。仕事の中で日常的に様々なことを感じ、考えていると、思考が内向きになったり、硬直することもしばしばあります。今回、自分と異なる立場の方と議論したことで、頭の中の整理・言語化ができたことはもちろんのこと、考えが独りよがりじゃなかったと確信に近づけることができました。また、自分にはない観点で発される言葉がとても新鮮で、言葉のキャッチボールをし合うことで、創造性が高まっていくのを感じました。
ロフトワークのみなさんが、思考の領域が広がるような環境づくりやディレクションをしてくださったおかげで、頭がクリアになり、心地よい時間を過ごせました。
中川 私はワークを通じて、新サービスは単なる交通サービスの新たな形態を実現しようとしているのではなく、社会に新たな価値をもたらす可能性があることを改めて感じました。そして、そのためにはこのサービスに取り込むべき要素やパートナー様がまだまだ足りていないことにも気付きました。
また、ロフトワークさんとのディスカッションを進めることで思考が自然と「アウトプット」→「アウトカム」→「インパクト」という一連の流れになり、サービス単体ではなく社会全体で、しかも長期視点で考えられるようになりました。
ーー南海電鉄さんはすでに多くのパートナーの方々を巻き込んでいらっしゃいますね。パートナーを巻き込む際のポイントや心がけていることを教えてください。
中川 弊社は事業の特性上、多くのパートナー様からお力添えを頂いています。しかし、その多くの関係が深く長いものであることから、社内には「当たり前の存在として双方の役割をピン止め」してしまう傾向があり、その結果、パートナー様がお持ちのポテンシャルを活かした新たな取組みには発展させることができずにいました。
新サービス・新事業を創出するためには、まずは思考を遠くに飛ばすことが必要です。しかし、上記のような社内風土の中では、奇抜とも思えるアイデアを生み出すことは困難だと感じていました。そのため、街づくりに携わる福井をメンバーに加えるなど社内で異なる業務に携わる者に協力を依頼しました。その上で、「止められたピン」を外して外に出て、「遠くの知と結合」することが必要だと考えています。自らの知見を一旦は横に置いといて、パートナー様の知見を最大限発揮してもらえるような環境づくりを心がけています。
ーーでは最後に福井さん、大阪なんばのまちづくりについての想いをお聞かせください。
福井 なんばの建物開発に関わってきて10年、なんばの人々と関わってきて5年が経ちます。なんばの人々と触れ合う中でわかったことは、大都市のなかの中心地であってもたくさんの人情味あふれる熱い想いが湧き出ていることです。その人々の想いに触れながら、なんばの皆さんと共に、もっと魅力的なエリアにしていきたい、という想いが日々の仕事のモチベーションになっています。
なんばは知れば知るほど深く・複雑な場所です。それだけ場所のコンテクストが豊富なこの街には未来があると確信しています。
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