成安造形大学 PROJECT

最小規模の「商い」で小さく試し、早く学ぶ
PBLで得る実践知

Outline

「個人的な問題」を商いを通して解決する特別授業を実施

課題解決型の授業を通してデザイン思考や企画提案力を養う、成安造形大学の総合領域。同大学の「学外での実践経験を通して、学びを深めてほしい」という考えの下、ロフトワークは2019年から毎年、総合領域の特別授業を実施してきました。デザイン思考やPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)が働く現場でどう結び付き、どのように生かされるのかを、社会人からの授業を通して学生に学んでもらう取り組みです。

6年目を迎えた2024年の授業のタイトルは、「NOT MY BUSINESS??」。「『個人的な問題』からはじめる商いのデザイン」をテーマに設定し、あまたある社会課題と向き合うことの重要性を誰も無視できない時代に「個人的な問題」を考えることで、学生自身の手と目が届く範囲の課題を発見し、最小規模の「商い」を通してその解決策を実践するプログラムを実施しました。

プロジェクト概要

  • クライアント:成安造形大学 
  • プロジェクト期間:2024年4月-2024年6月
  • ロフトワーク体制
    • プログラム設計・講師:クリエイティブディレクター 太田 佳孝
    • ファシリテーター:FabCafeKyoto 山月 智浩、筒井 みのり、高田 幸絵
    • プロデュース:プロデューサー 山田 富久美、FabCafe Kyoto ブランドマネージャー 木下 浩佑
  • パートナー

執筆:野村 英之
編集:横山 暁子(loftwork.com編集部)

Program

授業はFabCafe Kyotoを舞台に全3回で実施。期間中に実践とアップデートを繰り返すことができるよう、授業と授業の間にトライアル期間を長めに設けています。

Points

最小規模の「商い」を通して課題解決を実践

授業のテーマは「『個人的な問題』からはじめる商いのデザイン」。「現代は」「日本人は」「女性は」「男性は」「Z世代は」——大きな主語で括ることで、何かをごまかしたり、見なかったことにしたりすることがたくさんあるのではないかという視点から、授業では「個人的な問題」に注目。学生は、自身の手と目が届く範囲の課題を発見し、最小規模の「商い」を通して課題解決を実践しました。

授業は、1チーム4名の計3チームで進行。企業などの既存の取り組み事例を紹介したうえで、学生が行う商いには共通フォーマットとして屋台を採用しました。屋台をコミュニケーションツールと捉え、仮説を立て、他者とのコミュニケーションを通してそれを検証することに重きを置いたプログラムです。
商いにおいては、金銭的な利益を出すことを目標として設定せず、プロジェクトを通して何を得るのかも各チームで設定しました。

屋台の実践者としてご参加いただいたカモメ・ラボ 今村謙人さんによるインプットトークの様子。

FabCafe Kyotoで行われたプログラムの様子

据え置き型の「大屋台」と、首からぶら下げるサイズの「駅弁屋台」を使用。実際に屋台と共に街に繰り出し、”商い”に挑戦。

「おすすめのお店」という“情報”を売り買いする企画をしたチームでは、売買価格を設定せず「情報の交換」という商いの形が生まれました

「やって終わりにしない」仕掛け。振り返りまでをプログラムに

成安造形大学の先生方から求められていたのは座学だけでは得ることができない「社会に出たときの実践知」が得られること。全3回の授業では、商いをイベント的にただ体験するのではなく、学生が学外からフィードバックをもらうことを大切にしました。

実践知を得るために、「小さく試して、早く学ぶ」ことにも重点を置いています。コスパ・タイパの価値観が広がる昨今、正解を効率的に得ようと考える人もいる中、授業では失敗を避けるのではなく、「やってみて失敗すること」「まずはやってみること」を奨励しました。学生がトライ&エラーを繰り返せるように、2回目の授業後に3週間の期間を設ける工夫をしています。期間中に各チームが好きな形で実践できること、「やってみる」を通して細かな気付きを得て、アップデートを繰り返すことを狙いました。

また、3回目の授業では、各チームの取り組み共有を行うのみならず、振り返りの時間を大切にしています。知らなかったことに取り組んだり、非日常を味わったり、たくさんの失敗をしたり……さまざまなことをイベントとして「やりっぱなし」にするのではなく、経験から何を学んだのかを考え、言語化するところまで行うことで、社会に出たときの実践知を得ることができるからです。

FabCafe内や大学、駅前など場所を変えたり、実験や商品のアップデート、顧客とのコミュニケーションツールの改善などの打ち手を検証したり。さまざまなアクションをとり、3週間を有意義に使いました

FabCafe Kyoto主催のイベント「Fab Meetup Kyoto」に出店

Members

太田 佳孝

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター / FabCafe OSAKA 準備室

Profile

山田 富久美

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

山月 智浩

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto チーフわくわくオフィサー

Profile

筒井 みのり

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto,Fabコミュニケーター

Profile

木下 浩佑

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto ブランドマネージャー

Profile

高田 幸絵

高田 幸絵

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto カフェマネージャー

メンバーズボイス

“作品制作の授業では、表立って扱わない「商い」という言葉。
当初は教職員含め戸惑いもありましたが、個人の経験や感情を結びつけながら小さくシンプルに考えていくことで、先行イメージにとらわれることなく解釈が広がっていったように思います。
自分や誰かにとっての価値を作ることは、どんな些細なものでも商いとして成り立つ可能性があること。実はとても許容範囲の広いテーマであることに気付かされました。

そしていつの間にか試作をして試販を繰り返す学生たち。屋台というコミュニケーション装置の活用もあり、積極的に行動へ移す姿を見ることができました。
実践から得るリアルなフィードバックが原動力となっているのでしょうか。短期間ではありますが、今回も圧倒的な出会いと気付きが得られる時間でした。”

成安造形大学 特任講師 宮永 真実

“「社会課題」と聞くと「うっ」となってしまうことがあります。
もちろん私たち一人一人がいわゆる社会課題と呼ばれる事柄に関心を持つことは重要ですし、事業や活動を通して現にそれに向き合っている方達にはリスペクトしかありません。
一方で、「これが今の社会における課題だ」と私たちが言葉にするとき、その社会と「私」の間に埋めがたい隔たりが生まれてしまうようにも感じます。顔の見えない大きな何かを傘にして言葉上のもっともらしさをまとい、本当に向き合うべきことや大切にすべきことをごまかしてしまっているのかもしれません。
私たちの毎日の行動は、何かを始めるきっかけは、そして商いは、もっと等身大の「私」に根差したものでよいのではないか。
「私」の中にある不安や欲望や偏愛をもっと大事にしてよいのではないか。
そんな自戒と祈りを込めて今回の授業のキーワードを「個人的な問題」としました。
ほんの数時間の授業でしたが、限られた学生時代の時間を割いて受講してくださった学生のみなさんが今回のプロジェクトを通して何か感じたり気付いたりしてくださったのであれば嬉しい限りです。”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 太田 佳孝

Keywords

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