「Loftwork Camp 2023」in 長野県上田市
“FabCafe Ueda”をつくるための二泊三日の合宿レポート
ロフトワークの伝統行事といえば「合宿」! 15回目となる今回は、各拠点から総勢120名が参加しました。これまで、飛騨、大分、台湾など、さまざまな場所で地域の人々と触れあいながら滞在し、サービスアイデアの立案やメイカソンなど、毎回異なるテーマに取り組んできました。実に4年ぶりの開催となった合宿の舞台は、長野県上田市。毎回、プロジェクトやパートナーと縁のある地域で開催するのが恒例ですが、今回は、上田市を拠点に古本買取や異業種と協業してさまざまなプロジェクトを展開しているバリューブックスさんのご協力により開催しました。
そして、今年のワークプログラムのテーマは、「FabCafe Uedaを作るならどんなカフェ?」。二泊三日で地域を巡り、多くのプレイヤーが有機的に繋がり合って街をおもしろくしているエネルギーに大いに刺激を受けました。そこで出会った人たちとの語らいや体験を通して私たちが見つけたものをレポートします。
“体験と学び” を重視したスタディツアーを自前で計画
合宿は、3ヶ月かけて、現地でのワーク設計や予算管理、バスや弁当の手配、宿泊先の調整など、すべて実行委員のメンバーがオーガナイズします。滞在先でどんな体験と学びを得られるのかを丁寧にリサーチして、プログラムをつくっています。滞在先やテーマは毎回変わりますが、「なぜやるのか?」という目的は変わりません。
- 「コミュニケーションの活性化」
部署、チーム、プロジェクトを横断してメンバーの関係性を深める - 「緊急度は低くても重要度の高いことについてじっくり考える」
普段の仕事をいったん離れて、大切なことを考える - 「ただの旅行者ではなく、訪れた土地と向き合う」
訪問先の地域、文化、人との出会いを大切にする
なかには、初めて会う拠点のメンバーや、普段なかなか一緒に仕事をする機会が少ないメンバーもいます。拠点も部署も違うメンバーがチームを組み、現地での体験と学びを通して発表を行います。
【過去の合宿記事】ロフトワークの社員研修合宿 in 台湾
2014年に初めて海外で合宿を開催。その裏側として、旅行代理店を通さずに80人の合宿をプロデュース&オーガナイズしたワケを詳らかにしています。
今回の合宿テーマ: FabCafe Uedaを作るならどんなカフェ?
開催地が上田に決定した後、実際に合宿委員が下見に行き、地域の魅力にたくさん触れました。そこでは、自然資源や文化財だけでなく、上田には複数のプレイヤーが集まり有機的につながることで街をおもしろくしていることに気づきました。上田という街がまるで一つのプラットフォームで、小さなプロジェクトがたくさん生まれている。そんな予感から、上田にFabCafeを作るとしたらどんなカフェなのかを考えてみたいと思いました。
上田の人、物、場所を掛け合わせてポテンシャルを引き出す
今回は事業計画を立てるのではなく「FabCafe Ueda」のコンセプトを設計し、具体的な展示やイベントを企画することを目指しました。そこで、地域の人々や地域資源を掛け合わせてプランを考えるヒントを探るための、3つのコースを用意。メンバーが気になる場所を決めて、それぞれ訪れました。
コース1 : 本の循環に取り組む「バリューブックス」
バリューブックスは、本の買取と販売を行い、現在およそ150万冊におよぶ古本の在庫を保有しています。その数は、国内で最大級の規模。「日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える」をミッションに掲げるバリューブックスの想いは、寄付により集められた本を、買取相当のお金に変えて社会へと還元する「チャリボン」や、販売できなかった本を保育園や小学校、福祉施設などに贈る「ブックギフトプロジェクト」など、様々な取り組みとして形になっています。本だけではなく人も「循環」させるために、様々なタッチポイントをつくっている同社の視点を学ぶために、今回は、上田原倉庫と、2014年に上田市にオープンした、バリューブックス初の実店舗である「本と茶 NABO」(ネイボ)を訪れました。
バリューブックスが運営するブックカフェ「本と茶 NABO」のNABOは、デンマーク語で”隣人”の意味があり、街や人の隣によりそう本屋になりたいという想いが込められています。古本を扱うバリューブックスらしく、新しく建物をつくるのではなく、築100年以上の建物をリノベーションしています。
コース2 : 消費文化を“問う” わざわざが仕掛ける「問 tou」と「よき生活研究所」
わざわざは、 上田市の隣に位置する東御市御牧原の山の上に佇む小さなお店「パンと日用品の店 わざわざ」の運営など、小売業を主体とする企業です。独自の選定基準で選ばれた食品や日用品、衣類など暮らしに必要な様々なものを販売しています。コンセプトの異なる4店舗を運営し、県内外からファンが訪れるおみせづくりが特徴的です。今回は、芸術むら公園内にある「問tou」と、2023年4月にオープンした会員制の体験型施設「よき生活研究所」を訪ねました。私たちが「よき生活研究所」を訪れたのは、オープンして3ヶ月後でしたが、近畿地方から週1回で通われているファンも既にいると言います。地域の人々だけではなく、県外からも人を呼び込むための仕掛けについて探りました。
「パンと日用品の店 わざわざ」が“日常”ならば、「問tou」は“非日常”。生活に必ずしも必要ではないけれど、心を満たすものを求めて、地域の人々だけではなく県外から、山の上にあるこの場所を目指して来る秘密がわかった気がします。
「問tou」から車で7分ほどの場所に、今年4月にオープンした「よき生活研究所」は、「パンと日用品の店 わざわざ」でお買い物をしたもので埋め尽くされた空間で、訪れる人はここで好きなように過ごすことができる体験型施設。美術館のような品格がありながら、わざわざが提案する生活を丸っとお試しできる“暮らしのミュージアム”のようでした。
コース3 : 小さな仕掛けで広がる裏通りカルチャーを育む
上田駅から歩くこと10分。市街地の裏通りには歴史ある建物が立ち並び、古着屋やクラフト雑貨店といった個人商店がいくつも点在しています。裏通りカルチャーを育む震源地の一つが「26bldg.」という場所で、運営する石井工務店の宮嶋絵美子さんは様々な仕掛けをしています。実は、長野県は全国的に見ても空家の割合が高いエリア。宮嶋さんは建物利活用の立役者として、数々の物件を手がけ個人店の開業を支援してきました。路地裏を盛り上げる3つの事業者を巡り、点ではなく線でつながり合う事業者同士の連携についてお話を伺いました。
元銭湯の倉庫をリノベーションした「26bldg.」
「26bldg.」の宮嶋さんが建物利活用の事業を進めるなかで集めた日用品や家具を店頭で扱ううちに評判になり、2021年に「古道具にろく」を仲間とオープン。
文化を“つくる”、福祉を“ひらく”「リベルテ」
特定非営利活動法人「リベルテ」は、福祉事業と文化事業を通して、地域の中に障害のある方の活動を支える場をつくっています。就労支援や相談支援の他に、絵を描いたり創作物を作る施設を2つ運営しています。この場所を「アトリエ」と呼び、通っている方たちを「メンバー」と呼んでいます。「路地の開き」と名付けられたこの場所で、地域の方と交流するイベントを企画することで、障害のある方を地域に開いていく活動を続けています。ユニークなのは、その日にやるプログラムが決まっていないこと。そのときやりたいことに取り組めるようにしたことでメンバーの個性を尊重し、自己決定できる自由を大切にしています。
店づくりも服も地域も“編集”する「EDISTORIAL STORE」
「EDISTORIAL STOR」は、1階にベイクショップとギフトラッピングスペース、上階はスタイリストの小沢宏さんが営むセレクトショップです。このビルは、地元のお菓子屋さんの建物だったものを最低限のリノベーションを施して、街に馴染むように設計しました。実は、26bldg.の宮嶋さんが物件の仲介を手伝っています。小沢さんが40年ぶりにUターンしてオープンしたこの店のコンセプトは、「再生」と「循環」。店の大きな特徴は、扱う商品のほとんどが、メーカーが倉庫に眠らせている数年前の商品だということ。雑誌編集者とスタイリストで磨いた視点で商品をピックアップして蘇らせることから「ライブストック」と呼んでいるそう。
宮嶋さんをはじめ、裏通りで活動する人々のうねりは、まちなかで開かれる市場「261(にーろく市)」として盛り上がりを見せています。3ヶ月に一度開催され、26bldgを中心に古道具や古着、クラフトや美味しいものなどが集結。車社会の地域ですが、261が開かれている日は街を歩く人たちでにぎわっているそうです。
発表の舞台は、100年の歴史を誇る「上田映劇」
合宿2日目は、1日目に巡った事業所やそこで出会った人たちから得たヒントを元に、「FabCafe Ueda」の企画をチームごとに設計しました。中には、FabCafeを一緒に立ち上げたい企業に突撃電話取材を敢行したり、ローカル電車の終点まで足を運んで往復の電車の中でアイデアを練るチームなど、制限時間を目一杯つかって、上田だからこそ実現できるFabCafeとは何か? を徹底的に考え抜きました。
発表は、全17チームを3つのブロックに分けて、まずは予選を行いました。みごとブロックで勝ち抜いた10チームが、最終発表にのぞむことができます。FabCafe Uedaを作るなら、地域の誰を巻き込むのか、どんな人たちに集まってもらいたいか、場所はどこかといった内容を盛り込み、様々なアイデアをぶつけていきます。
最終発表に進んだ10チーム、結果は......!?
最終発表は、1917年に開業した老舗の映画館を特別にお借りして開催しました。惜しくも予選通過が叶わなかったチームも聴講者として参加し、劇場の席は満席です。つい24時間前までは、拠点も職種も異なるメンバーが「初めまして!」を交わしたばかりでしたが、この瞬間、同じ舞台に立って軽やかにマイクパスを繰り広げる姿は、何年も一緒に仕事してきたようなチームワークを感じました。
残念ながら受賞できなかったチームは悔しい思いをしましたが、この合宿で出会った人たちとの繋がりや、各所で受け取ったエネルギーは、また違った形で実を結んでいくのではないかと思います。
3つのチームに賞が贈られました
上田 Welcome賞 : 関係性と流通のファブリケーション
FabCafeでものをつくるのではなく、ものごとに文脈と意味を与え、その意味を交換する。上田電鉄別所線を活用した意味交換のプラットフォーム。上田駅を出発して、各駅で展示やコーヒーや景色を楽しみながら、別所温泉駅を目指す。
選出:バリューブックス
オーディエンス賞 : 素材集めのさすらい FabCafe
「FaBus」は最新テクノロジーと蕎麦を乗せて旧街道をさすらいながら、各地のFabCafeで特色ある素材を収集しアップサイクルを行う。各地でそばを振る舞い、そばを起点に素材と人の出会いを作る。
選出:全員参加の人気投票
ロフトワーク賞 : HACK UEDA
上田市に点在する空き家をハックする。リペアを得意とするクリエイターや環境ビジネスの担い手、様々なジャンルのアーティストが出会い、交流し、作品やプロダクトを共同で制作する場を提供する。
選出:ロフトワーク マネジメントメンバー
全社合宿の先にあるもの
120名のメンバーが普段の仕事をいったん離れて50時間近く共に過ごすことに、どんな意味があったのでしょうか? 緊急度は低くても重要度の高いことについてじっくり考えるということは、目に見える結果をすぐに生まないかもしれません。でも、いっときのビジターである私たちが真剣に上田のことを考えたり、自分の出身地が抱える課題と重ねてみたり、あるいは、メンバーとの交流で新しいプロジェクトのあり方を見つけることは、いつかの未来に、きっとつながっていくはずです。次は、いつどこでメンバーが一堂に集まるのか分かりませんが、机上の空論ではなく実践を通じて、未来の可能性をかたちにできるような機会をつくっていきたいと思います。
バリューブックスのWebサイトで、ロフトワークがバリューブックスを訪問したレポートを公開いただきました。ぜひチェックしてみてください。
【あとがき】 合宿におけるプロジェクトマネージャーとしての視点
クリエイティブディレクター 橋本 明音
初参加の合宿で初めてPMを担当しました。社内メンバーで構成された合宿委員のメンバーはもちろん、バリューブックスをはじめとする上田市に携わるの方々のおかげで、素晴らしい合宿になりました。ロフトワークは、日頃からクライアントやクリエイターを一つのチームにしてプロジェクトを進めています。今回も、社内外のメンバーが一つのチームになったことで、想像以上にポジティブな化学反応を起こすことができました。大所帯で地域に入っていくと敬遠されることがありますが、今回はスムーズに受け入れていただきました。その理由は、間違いなくバリューブックスの皆さんが橋渡しをしてくださったからです。様々な地域に拠点を持つロフトワークも、地域の中と外を積極的に繋いでいく使命がある……。改めて、合宿からそう感じました。
【番外編】レポートに入りきらなかった上田の思い出
合宿写真
Loftwork Camp 2023 プロジェクトメンバー
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