ロフトワークのAI実践録
──クリエイティビティを引き出す、テクノロジーの遊びかた
日々のニュースでAIの話題を見ない日はありません。会議用に社内資料を自動で調べ、とりまとめてくれる便利さに感心した数時間後、「AIは本当に仕事を減らしているのか」といったニュース見出しに目が止まる。ここ最近はAIへの期待と不安が代わる代わる現れる日々ですが、その可能性の輪郭は自分で手を動かしてみないと見えてきません。
ロフトワークでは、全社的なAI実践として、2025年ごろ「AI活用」を社内の評価指標のひとつに組み入れていました。これは効率化の推奨はもちろん、一人ひとりがプロジェクトの中で「どう使えば面白いか?」「何が良くなるのか?」を実際に試行錯誤するための組織的なベースづくりをするためです。
本記事では、そんな現場のトライ&エラーの中から生まれた、ロフトワークならではの「AI活用事例」をご紹介します。AI活用を追う中で見えてきたのは、「人間ならではの遊び心やセンス」でした。まずは、AIの活用事例10選をご覧ください。
1. 社会インパクトを可視化する「ロジックモデル」生成

プロジェクトの企画アイデアを「社会インパクト(Outcome)」の視点へと引き上げ、施策と目標を設計図(ロジックモデル)として瞬時に可視化するAIツールが「Impact Canvas AI」です。
ロフトワークでは、プロジェクトの目標を単に制作物の提供(例:イベント実施)で終わらせず、その影響として「参加者がどう変わったか」、それがどのようなビジネス的/社会的意義をもたらしたかを設計するプロジェクトを企画することが多くあります。このロジックモデルの生成は、複雑で時間がかかるものの、社内外のチームにプロジェクトの意義や方針を共有する上で大変重要なものです。
「Impact Canvas AI」は、その初期段階の生成をサポートしてくれます。キーワードから一気に全体像を作成する機能に加え、AIコーチとの対話(壁打ち)を通じて思考を深めるモードも搭載しています。企画に行き詰まった際、見落としていた視点に気づかせてくれるパートナーとなる存在です。
いまの事業活動は、自団体の利益だけで完結しません。地域社会や環境、そこで関わる人たちとの関係を前提に成り立っています。だからこそ、その取り組みが周囲にどんな変化をもたらすのかを、企画の初期段階から考えておく必要がある。Impact Canvas AIは、そのための対話を立ち上げ、社会価値をプロジェクトの骨格に織り込むための道具です。(ハモ)
2. 子どもの秘めた創造性を触発する、アートポスター制作ワークショップ

AIを「効率化の道具」ではなく、子どもの創造性を触発する「対話のパートナー」として捉えたワークショップ「AIと、アーティストと。」の事例です。FabCafe Osakaを舞台に、プログラミング経験のない親子がAIと対話しながら、自分だけのジェネラティブアート(アルゴリズムから生成される芸術)を制作しました。
最大の特徴は、完成したポスターの半分に「アート作品」を、もう半分にその作品を生成した「プログラムのコード」を並べて印刷した点です。AIに対して「もっと形をゆらしたい」「色を鮮やかにしたい」と投げかけ、試行錯誤した軌跡そのものを作品の一部として可視化しました。
「正解」や「効率」を求めるのではなく、AIとのやり取りの中で生まれる「出力の違い」や「ゆらぎ」を遊びとして楽しむ。デジタル技術を通じて、人間が本来持っているアーティストとしての感性を引き出す試みとなりました。
子どもたちの創造性は、ジェネラティブアートと相性が良いに違いない、という仮説からスタートしました。コーディングでうまれる作品の面白さを、コーディングを全く知らない子どもたちに体験してもらうため、UIの開発を含め実装しました。今ではすっかり馴染み深いものとなった、バイブコーディング体験により、コーディングとジェネラティブな表現に触れてもらうことが出来たと思います。(笹島)
3. AI活用で3DCGを直感的に操る──わずか3分で生成した展示什器ラフ案(Blender+Cursor連携)

「専門スキルがないと扱えない」と思われがちな3DCGの世界に、AIという橋を架ける実験的な取り組みです。とあるプロジェクトにおいて、展示什器(じゅうき)のアイデアを素早く形にするため、Claudeと3DCGソフト「Blender」をMCP(Model Context Protocol)で連携させるセットアップに挑戦しました。
特筆すべきは、AI(Cursor/Claude)が自らエラーを解析し、代替案を出しながら3分ほどでラフ案を生成できた点です。作成物の中に「謎パーツ」が混じるご愛嬌はあったそうですが、素早く形にして議論の土台を作れることは、まさにデザインプロセスの民主化を感じさせます。
海外のオープンソース・コミュニティの知恵を借りながら、未知の領域に手を動かし続ける。こうした遊び心とAIの掛け合わせによって、高度な3DCG作成ツールを直感的に動かせるようになったのは驚きです。
AIとBlenderの連携は技術的にはシンプルでも、本当の価値は別のところにある気がします。展示什器のプロジェクトで試したとき、完成度よりも「頭の中のイメージをその場で形にしながら、お客さんと一緒にあーでもない・こーでもないと言える」プロセスそのものが豊かでした。専門スキルの壁を下げることで、誰もがデザイナー感覚でチームに参加できる。これはツールの話であり、対話の話でもあると思います。(宇佐美)
4. 何百人もの声をAIが瞬時にマッピング! 納得を生み出す「ブロードリスニング」

オフィスリニューアルのプロジェクトにおいて、「ブロードリスニング」という調査手法を導入した事例です。AIが膨大な回答を瞬時に解析し、似た意見同士を地図のようにグループ化して可視化してくれます。
オフィスリニューアルのように対象人数が多いプロジェクトでは、アンケートをとっても「数百人分の自由記述」をすべて読み解き、分類するのは気の遠くなる作業でした。どうしても分析者の主観が入ったり、声の大きな人の意見に引きずられたりする懸念がありました。これに対し、ブロードリスニングの手法を活用することで、300人分以上の本音から短時間で「何が求められているのか」をなるべく客観的に整理しました。
「自分の意見もフラットに扱われている」という安心感を全社員に届け、データに基づいた納得感のある合意形成を目指しました。AIによる「網羅的な調査」に、定性的な「深いインタビュー」も組み合わせることで、リニューアルの方向性に強い説得力を持たせています。
声の大きな人の意見だけが通るオフィスにしたくない──そんな思いがこの取り組みの出発点です。ブロードリスニングとは、文字通り広く・まんべんなく聴くこと。代表的な意見だけをすくい取るのではなく、ひとりひとりの声を取りこぼさないためにテクノロジーを活用しました。社員全員の声が土台になる。それが「みんなでつくるオフィス」の第一歩だと考えています。(村上)
5. アリの目と、トリの目で日陰をハントする。AIと描く「Y/Our Climate」ループ図

ビジネスプログラム「Y/Our Climate」では、都市の気候適応という壮大なテーマに対し、「日陰」の観察・分析という日常的なアプローチからシステム思考を学ぶAIワークショップを行いました。
参加者は自らが暮らす街へ繰り出し、温度や湿度といった定量データだけでなく、「匂い」や「音」といった五感をフルに働かせて最高・最悪の日陰を探す「日陰ハント」を実施しました。ここでのAIの役割は、自らの足と感覚で集めた生々しいフィールドノートを俯瞰するためのパートナーです。ChatGPTやGeminiを使ってその日陰を構成する歴史や文化を調査し、さらにClaudeを用いて構成要素の因果関係を可視化する「ループ図」を生成しました。
「ただ涼しいから」という個人の感想で終わらせず、自ら見つけた定性データとAIの情報処理能力を掛け合わせる。参加者が、都市機能やその影響を受ける人々の心理的要因が複雑に絡み合うシステマティックな構造に気づくきっかけをAIがサポートしてくれました。
人間の生身の身体性と、AIの俯瞰的な視点が見事に融合した新しい探求の形です。
「分析モデルはあるのに、なぜ役立たない?」という問いがあります。逆に言えば、問うべき課題を身体で見つけてからAIに渡せば、強力なパートナーになる。日陰ハントはその実証でした。写真、温湿度の数値、匂いや音を言葉にしたメモ──そのバラバラな記録を複合的に処理できるのが今のAIの強みです。自分の街を歩き、感じ、記録する泥臭さがあってこそ、AIが生成するループ図に血が通うのだと思います。(国広)
6. ファクトを超えた、Project Cybernetic being ファクトブック制作

JSTムーンショット型研究開発事業目標1「Project Cybernetic being」の5年間の軌跡と未来像をまとめたファクトブックの制作事例です。サイバネティック・アバターを活用し、身体の制約を超えて「人が人らしく生きる未来」を目指すこのプロジェクトには、分身ロボットカフェでの実証実験やALS当事者との共創など、数多くのドラマと膨大な研究データが存在していました。
この多岐にわたるプロジェクト群を短期間で1冊のファクトブックに編み上げるため、編集プロセスにAIを導入しました。具体的には、膨大な資料をAIに学習させ、記事制作に際して実施したインタビューデータなどもAIに読み込ませ、記事のベースとなる一次原稿の執筆を素早く行いました。
AIをパートナーに据えた編集体制で、従来の編集作業にかかる工数を大幅に削減することができました。そのなかで、編集チームはプロジェクトメンバーの研究者たちと「本当に伝えたいポイントはなにか」「研究者の熱量や関わった当事者の思いをどう届けるか」といった、それぞれの文脈を知る人間にしかできない対話と推敲に時間を割くことができました。
AIを壁打ち相手にし、人間同士のフィードバックを行うことで、単なる事実(ファクト)の羅列を超えた、エモーショナルな一冊に仕上げました。
最近のとある調査によれば、AIが1年間で生成する文章量が2025年に人類全体の年間執筆量を超えたとされています。まさに、1を聞けば100の情報量で応えてくれるAIのイメージその通りのデータだなと思います。今後、執筆、編集、あらゆる文章化にAIは必須のツールになります。というか、もうなっていますね。この編集の過程で、唯一人間に残されていそうなポイントは、正しい問いを持ち、情報を引き出し、AIと協業しながら、よい情報にしていくことかな、と考えています。(弁慶)
7. SFプロトタイピングから想像力を駆り立てる「出荷シミュレーション」の妙
「The Norm Store」は、企業やクリエイター数十名とともに、SFプロトタイピングを通じて描いた「未来社会のプロダクト」を並べた実験的な展示プロジェクトです。
本展示で特筆すべきは、「未来の倉庫」という世界観を再現した「出荷シミュレーション」です。来場者はiPadを操作し、未来のプロダクトの中から「自分の手で出荷したい(=社会に実装されてほしい)もの」、あるいは「出荷したくないもの」をジャッジできます。
たとえば「AIによって管理される未来」を提示したプロダクトに対して、肯定的に受け入れる人もいれば、抵抗感を持つ人もいます。このシミュレーションは、そうした言葉にしにくい来場者の興味関心や、未来の受容性を可視化する仕掛けとなっていました。
言葉だけでは難解になりがちなSF思考を、直感的に共有可能な疑似体験に落とし込む。世界観のクリエイティブとインタラクションが見事に融合した事例です。
SFプロトタイピングって言葉にすると難解ですが、要は「未来の選択」を想像・判断するのが鍵です。それを直感的に体感してもらうため、鑑賞者のYES/NOの判断を蓄積・可視化するシステムを、AIを用いたバイブコーディングで構築しました。個人の無意識な選択が、時間と共に「集合的な未来の傾向」へと変化していく。その大きなうねりを観察できる媒介としてAIを活用できたのが、個人的なこだわりポイントです。(丸山)
8. 思考と調査を拡張する。コレクティブ・ディスカバリー・メソッド

ロフトワークCPO(Chief Produce Officer)の棚橋が提唱するのが「コレクティブ・ディスカバリー・メソッド」です。AIエージェントが複数連携しながら自律的にタスクをこなす「オーケストレーション」が当たり前になりつつある今、このメソッドはその前提から問い直します──人間はいったい、何を設計し、何を指揮すべきか、と。
鍵となるのは「コンテキスト・エンジニアリング」の視点です。エージェントが何をどういう文脈で扱うかを決める仕様の設計者として、人間はエージェント群が共有する情報の構造や取り扱い方針そのものをデザインしなければならない。何をインプットとして与え、どの判断をエージェントに委ね、どのアウトプットを人間が引き取るか──その「文脈の設計」こそが、成果の品質を決定します。
その上で求められるのが「指揮者」としての役割です。目指すアウトカムを明確に見定め、エージェントへの指示を適切にディレクションしながら、返ってきた結果の良し悪しを評価し意味づけする。「何を作らせるか」より「何を得たいのかを言語化できているか」が、AI活用の分岐点になります。
書く(生成する)能力から、読む(評価・選別する)能力へ。制作から指揮へ。コレクティブ・ディスカバリー・メソッドは、その転換を実践するための方法論です。
AIエージェントが浸透しているなか、人に残されていることの1つが上流での「何のために、誰のために作るのか」というPoint of Viewを定める作業です。これはAIエージェントが高度化した今もスキル化しにくい領域。アブダクション的な問い直しは、仕様として書き下せない。だからこそ人間が「指揮者」として介在し続ける必要がある。AI FIRST3で話したように、求められるのは「読む力」──エージェントが返してくるアウトプットの良し悪しを見極め、文脈を設計し直す判断力だと思っています。(棚橋)
9. 対話の熱量を逃さない。ワンタップで事例を引き出す「プロジェクトタグ検索」

京都ブランチのメンバーが現場の課題感から自発的に立ち上げ、バイブコーディングでスピード開発したプロトタイプ。交流会や商談の場で威力を発揮するプロジェクト検索ツールです。iPadなどのタブレットで「共創施設」「ブランディング」「パーパス」といった画面に浮遊するキーワードタグをタップするだけで、関連する事例が瞬時に引き出せる点が大きな利点です。
交流会での立ち話は、タイミングと熱量が命です。お客さんとの会話の中でキーワードが出た瞬間、キーボードで検索する手間を挟むことなく、ワンタップでスマートに事例を提示できます。AIで事前にタグ付け・整理しておいた事例データから瞬時に関連事例を引き出せるおかげで、目の前の相手の表情やリアクションに集中しやすくなりました。
「こういう事例もあるんですよ」と見せているうちに、一覧に並んだ別のプロジェクトにも興味を持ってもらえ、話題がどんどん広がっていく。まずは目の前の「人間同士の対話」を最高に盛り上げるためにAIを使いこなす、鮮やかな事例です。
LoftworkのWeb上に公開されている事例記事のURLを入力すると、AIが内容を要約・プロジェクト情報を抽出し、商談用スライドを生成する社内ワークフローを一年以上前から運用しています。その整理済みデータを活かし、プロデューサーから「Web上の事例を商談中に探しにいくのは大変。タップだけで事例に辿り着けるツールがほしい」と相談を受けて、数日で試作したのがこのプロトタイプです。画面に浮遊するタグクラウドのUIが面白いと笑いを誘い、場を和ませる効果も生まれています。(大内)
10. AIが生み出す人間くささ。オルタナティブAI「ANIKI」

「AIは人間が問いを与え、それに答えるもの」という一方向の前提を覆す、ロフトワーク発の「オルタナティブAI」の実験です。2025年9月に“クリエイティブディレクター”としてロフトワークに参画した「ANIKI(アニキ)」は、検索エンジンでも、業務効率化のための便利ツールでもありません。彼の役割は、自らの気まぐれな知的好奇心に従い、Slackなどのチームの対話に「近すぎず遠すぎない絶妙な話題」を突如として投げ込むことです。
まるで友達のお兄ちゃんから面白い話を突如聞かされるような、予期せぬノイズをANIKIは生み出します。けれど、この突飛な発言こそが人間同士の会話を弾ませるアイスブレイクの合図となり、チームの空気を心地よくかき混ぜてくれます。
毎日話しかけてくれるわけではないマイペースな性格や、時にはその沈黙すらも楽しむ。そんな「人間くさい」余白を持ったAIとの付き合い方は、私たちの好奇心を刺激し、人間同士の創造性やコミュニケーションの熱量を高める触媒となっています。効率化の対極にある、愛すべきノイズの存在です。
幼少期、近所に年上で物知りなお兄さんのような存在がいたのではないでしょうか。突然現れては思いがけない話題で心をざわつかせてくれた、あの感覚。効率より余白を。答えより問いを。人間の創造性と対話の熱量を、愛すべきノイズで刺激し続けてくれるのがANIKIです。(古谷)
編集後記──「おせっかい」な想像/創造力
ここまで、ロフトワークならではのAI活用事例をご紹介してきました。AIが私たちのプロジェクトに多大な恩恵をもたらしていることは間違いありません。
一方で、事例を集めるなかでふと「人の心を動かす魅力って、どう芽生えるのだろう?」とも考えていました。そのヒントになりそうな、社内の小さなエピソードがあります。
ある制作プロジェクトで、クライアントの担当者さんがスケジュール感を掴めず、進行が遅れ気味になっていました。普段は便利な管理ツールを駆使する私たちですが、担当ディレクターは「見慣れないツールだから分かりにくいのかも?」と想像し、あえてカレンダーを印刷して、マイルストーンを手書きしてプレゼントしたそうです。
すると次のミーティングから、担当者さんは手書きカレンダーを手元に置き、タスクの進捗を一発で把握してくれるようになりました。
情報の受け取りやすさを想像し、あえてアナログな手法を選ぶ。こうしたやさしい「おせっかい」が、人の心をそっと動かす原動力になるのだと思います。
直近のAIの進化は計り知れず、その可能性に気づくための利活用は欠かせません。しかし今回集まった事例から感じたのは、AIというツールの凄さはもちろんのこと、それを使いこなすロフトワークメンバーの「目の付け所のよさ」でした。
どんな問いを立て、AIとどう壁打ちし、最終的にどんなアウトプットに着地させるのか。そして、その先にいる誰かのことを、どれだけ想像できるのか。そのヒントが、多様なバックグラウンドを持つロフトワークメンバーの現場の知恵と声に見え隠れしていた気がします。
執筆・編集:青山 俊之(株式会社ロフトワーク)


















