PROJECT

デザインの力で、地域産業のバトンを未来につなぐ。
ロフトワークが実践する地域プロジェクトの現在地

ロフトワークはこれまで、地域産業の課題に取り組むために、様々なデザインプロジェクトを行ってきました。自治体とのブランディングやプロダクト開発といった具体的な施策を行うことあれば、事業者に向けてIT・デジタル活用や知財、海外進出などの手法をハンズオンするプログラムの実施運営、さらに「デザイン経営」の導入支援など。

私たちが一貫して問い続けているのは、「日本の地域産業のバトンを未来につなぐために、デザインの力ができることは何か」ということ。そのために必要なあらゆる手立てを考え、現地の方々や有識者、クリエイター、他の企業などと連帯しながらプロジェクトを実践してきました。

ロフトワークでこれらの「地域プロジェクト」を精力的に推進してきたのが、「無所属」という異色の肩書きを持つ二本栁友彦(にほんやなぎ・ともひこ)。日本全国の自治体や事業者とコミュニケーションを続けながら、ライフワークとして地域産業の課題と向き合っています。本記事では二本栁が、経営の上流から川下まで多岐に渡る「ロフトワークの地域プロジェクト」を振り返りながら、その視点とアプローチを紐解きます。

二本栁 友彦

Author二本栁 友彦(ゆえんユニットリーダー)

1977年大阪府岸和田生まれ。千葉大学工学部デザイン工学科卒。大学在学中から様々なアートイベントの運営に携わり、建築設計事務所勤務を経てIID世田谷ものづくり学校を運営する株式会社ものづくり学校に入社。企画ディレクション、企画室長・広報を担当。姉妹校「隠岐の島ものづくり学校」「三条ものづくり学校」の立ち上げにも関わる。2014年にロフトワークに入社。「経済産業省 JAPANブランドプロデュース支援事業 MORE THAN プロジェクト(2014-2016)」のプロデュース・ディレクションをはじめ、「SUWAデザインプロジェクト」「Hokkaido to Go」「ふるさとデザインアカデミー ichi」「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」などを手がけている。官公庁や自治体のプロジェクトを中心に、場所を問わず、クリエイティブコラボレーションを軸に展開している。

Profile

ロフトワークの地域プロジェクト

クリエイティブ×地域資源のコラボレーション

ロフトワークはこれまで、様々な地域でものづくりや観光などの切り口から、クリエイティブコラボレーションを軸としたデザインプロデュースを手がけてきました。例えば、ブランディングやプロダクト開発、コミュニケーションデザインなどを支援しています。こういった地域プロジェクトのアプローチの原点となるのが、越後妻有アートトリエンナーレとの共同プロジェクトとして実施したRoooots 名産品リデザインプロジェクト(2009~2013年)」や、石垣市と取り組んだUSIO Design Project(2014~2016年)」です。これらは、いずれも私がロフトワークに入社する前に実施されたプロジェクトですが、今でも息の長いプロダクトとして販売されているものが多くあります。

USIO Design Projectでリデザインされた、地域の名産品たち
クリエイターや作家など、多彩なバックグラウンドを持つ人々と地域の知られざる魅力を発掘

これらのプロジェクトの経験から、ロフトワークの地域プロジェクトでは、以下のような基本的なプロセスと体制ができました。

  • 現地で丹念なリサーチを行い、地域ならではの本質的な魅力や特色を発掘すること
  • チャレンジをする意欲と体力のある地域の事業者と出会うこと
  • 事業者とクリエイターやデザイナーなど多彩な外部人材とを引き合わせながら、ワンチームとして協働し、魅力あるアウトプットを引き出すこと

もちろん、これらのアプローチは、自治体の担当者や地域のみなさんと緊密に連携をすることが前提となります。

「海外進出」という高い壁を越えるために、横で繋がり切磋琢磨する

私がロフトワークに入った2014年、経済産業省からの補助を受けてプロデュースとディレクションを担当したのが「MORE THAN プロジェクト」です。日本の地域・文化を生かした商材をもつ中小企業とプロジェクトマネージャー、デザイナーがチームを組んで、海外販路拡大のために行う市場調査、商材改良、PR・流通活動を支援しました。

採択された事業者に補助金を提供するだけにとどまらず、より確実に実績を生み出すためのプログラムを設計、運営しました。その内容は、海外への情報発信を得意とする有識者からのメンタリングを受けたり、流通業者とのビジネスマッチングをするためのイベントを開催したり、全国の事業者やクリエイター、行政といった人々とつながる機会を持つなどです。プロジェクトは3年間運営され、全部で41の事業者の海外進出プロジェクトを支援しました。

採択チームメンバーによる、最終成果発表会の様子。

これらの取り組みを通じて、各領域のプロフェッショナルから数多くの実践知を得ることができました。例えば、「海外展開向きな商材と、海外で売れにくい商材の違いは何か」「商品の輸送方法や輸送業者選定のポイント」などは、実際に海外進出に挑戦したからこそ知り得たことです。これらの知見を、採択された事業者の間だけで留めておくのはもったいないと感じました。

そこで、MORE THAN プロジェクトのWebサイトでは、プロジェクトで協働したプロデューサーやデザイナーがそれぞれの立場や経験を元に問い答える「ジャパンブランドが海外進出するうえで考えるべき100の質問」とその回答を掲載することで、その集合知をオープンに共有しました。

このコンテンツは、プロジェクトから5年以上経った今も、広くいろんな事業者やデザインプロデュースを学んでいる方々に活用していただいています。

MORE THAN プロジェクトWebサイトのコンテンツ「100Q」

プラットフォームを通じて、地域産業の成長を促す

足りなかったのは、外部人材との連携

さまざまな地域でのプロジェクトを進める中で痛感したのは、地域産業には外部人材との連携が圧倒的に不足しているということでした。事業者がデザインプロデュースや海外展開に挑戦するには、プロデューサーやデザイナーといった人たちはもちろん、知財戦略や物流、海外市場に精通する人材との協働が欠かせません。これが、地域産業にとって大きなハードルとなっています。

MORE THAN プロジェクトにプロデューサーのひとりとして参加していた、株式会社Culture Generation Japanの堀田さんもおなじ課題感を感じていました。そこで、地域産業の事業者と、ジャパンブランドの発信にコミットしたい多様な専門人材が出会うための新しいプラットフォームを、堀田さんと一緒に立ち上げました。それが「Japan Brand Festival」です。

Culture Generation Japan 堀田さんはJapan Brand Festival 共同発起人であり、盟友。

事業者と多彩な人材が出会い、ともに成長する場所

Japan Brand Festival には、自社事業を未来につなげていきたいという熱い志を持った事業者と、日本のものづくり産業のために自分の知見を役立てたいというプロデューサー、バイヤー、人材開発のプロフェッショナルといった人たちが集まっています。私たちは、彼らが出会い、その知見やノウハウを共有するための場を提供しています。

Japan Brand Festival Webサイト

Japan Brand Festival コンセプト

主な活動として、年に1度、渋谷でジャパンブランドの展示会とプレゼンテーションイベント、商談会を合わせたイベント「Japan Brand Festival」を開催しています。他にも、年に2〜3回、ジャパンブランドに関するホットトピックスについて有識者や実践者から話を聞くイベント「Talk Saloooon」を開催しています。

2020年は、コロナ禍を受けた新しい取り組みとして、オンラインスクール「Knowledge Camp」を実施しました。ここでは、事業者が喫緊で取り組むべき課題を一つずつクリアするための「学び」を提供することを目指しました。公募で選ばれた20事業者に向けて、デジタル・ITの導入や、知財、補助金申請の進め方といった、地域事業者がいま必要としているリアルなノウハウを伝えました。

デザインプロデュースの「その後」につなげる場所

Japan Brand Festival には、これまでロフトワークが携わった地域のプロジェクトも数多く参加しています。私たちが自治体や官公庁の産業支援プロジェクトに関わる場合、その多くが1年から3年で終わりを迎えます。しかし、そこで生まれたデザインプロデュースの種は、その後も事業者自身の手で育てていかなければ、ビジネス成果にはむすびつきません。

年に一度開催される Japan Brand Festival は、プロジェクト一つ一つの成長や成果を継続的に見届ける場でもあります。ただ一年の成果を共有するだけでなく、これから続けていくアプローチに関する発信も行う。これらの取り組みを通じて、ビジネスに繋がる可能性を一つでも多くむすびつけていく場になっており、ロフトワークでオンゴーイングで取り組んでいるプロジェクトでもこの場を活用する事例が増えてきています。

地域で自走を生むための人づくり

デザインを経営に活かすための素地をインストールする

2018年に経済産業省 特許庁から発出された「デザイン経営宣言」を契機に、国内でデザインの考え方や手法を経営に取り入れようという機運が高まりはじめました。ロフトワークでは、2020年3月に経済産業省の委託を受けて、「中小企業のデザイン経営」というレポートをまとめました。

レポートの中では、「デザイン経営を実践する企業『5つの特徴』」として、「ビジョンを更新する」「経営にデザイナーを巻き込む」「組織の変革をデザインする」「競争のコミュニティをつくる」「文化を生み出す」を挙げています。これらによって、経営者自身がデザインを経営に生かすために何を学び、いかに実践するべきかの道筋を整理できたと言えるのではないでしょうか。

前述のデザインプロデュースを実践すれば、地域に新しいブランドや仕組み、コミュニケーションツールなどを作ることはできます。しかし、これらを「作るだけ」ではなく、ビジネスに活用していかなければ意味がありません。これらの「変化の種」を、デザインの視点を持ちながら時間をかけて育てていくことができる人たち、いわゆる高度デザイン人材*と呼ばれる存在が必要です。各地域からそのような人材を輩出することは、喫緊の課題と言えます。

また、地域産業の事業者がデザイン経営を取り入れる際に、「デザイン経営を実践する企業『5つの特徴』」すべてを実践しなければならないわけではありません。これらの中身をしっかりと理解した上で、自社にとって最も必要だと思われるアプローチを見つけることが重要です。

これらの背景から、近年、ロフトワークではさまざまな形で、地域産業の当事者向けて、デザインを経営に取り入れるための「学びのデザイン」と「人づくり」をテーマにしたプロジェクトに携わっています。

*高度デザイン人材・・・デザインを基軸にして事業課題を創造的に解決する人材。

例えば、ふるさとデザインアカデミー ichi(2020年実施、以下ichi)」では、地域の課題解決に取り組む人材「ローカルデザイナー」を育成するために、デザイン経営の基礎学習を含む座学と、具体的な経営課題に取り組むOJTを組み合わせた半年間のプログラムを行いました。

2020年度の取り組みとして行っている「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」では、中小企業経営者が自社のデザイン経営のあり方を探求することを支援するためのプログラムを実施しています。

地域のデザインプロジェクトを、打ち上げ花火で終わらせない

デザインプロデュースを含む地域のデザインプロジェクトはアウトプットの印象が強い分、ともすれば、打ち上げ花火のように関係者の「やった」という満足感だけで終わってしまうことがあります。一方で、私がお会いする地域の方や行政の方たちに伝え続けているのは、デザインプロジェクトにかけたお金や労力は、必ず「より良い未来」につながる資産にするべきだ、ということです。

デザインプロデュースによる変化の種を生み出すこと、多彩な外部人材との繋がりを生み出すこと、地域の中で「変革」を担う人づくりを進めること。泥臭く地味な仕事も多いですが、日本の地域産業を芯から強くするために、今後も様々な地域や人々と連携しながら、時間をかけて取り組んでいきます。

課題感を持っている事業者の方、地域産業を元気にするためにアクションしたい方、ぜひ一緒に対話していきましょう。

3月4日〜7日開催! ジャパンブランドに情熱を傾ける人たちが繋がる 「JAPAN BRAND FESTIVAL 2021」

全国からジャパンブランドが集う4日間。未来につなげるカンファレンス&展示商談会を開催。

ロフトワークが企画・運営に参画しているJAPAN BRAND FESTIVAL(以下、JBF)は、2021年3月4日(木)〜7日(日)にジャパンブランドに情熱を傾ける人々が集結する、年に一度のカンファレンス&展示商談会「JAPAN BRAND FESTIVAL 2021」を開催します。

6度目となる今回は、渋谷ヒカリエ「8/」をメイン会場とし、プレゼンテーションやトークセッションを織り交ぜたカンファレンスや展示などを実施、また、オンラインでもイベントの模様を配信します。

JBFのコンセプトに共感するプロジェクトやプロダクトの開発者、デザイナーや地域の企業、行政や自治体など、様々な事業者のみなさんが日本全国から集います。一般来場も可能です。ジャパンブランドとの連携を行いたい方、興味がある方は、ぜひご参加ください。

開催概要:

名称
JAPAN BRAND FESTIVAL 2021
会期
2021年3月4日(木)〜3月7日(日)
時間
11:00〜19:00
会場
渋谷ヒカリエ「8/」 COURT・CUBE、およびオンライン会場(YouTube) 住所:〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 8F
内容
カンファレンス、オンラインイベント、展示、物販等
料金
入場無料 *一般来場可能
予約
不要 *プログラムによって事前予約が必要になるものもございます。Peatixよりご確認ください。
URL
http://jbfes.com/
Peatix
https://jbfes.peatix.com/

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