地域の魅力を世界へ届ける新しいエコシステムを開発
京都市観光協会 インバウンド向け多言語サイト構築
Outline
施策特定のための調査から自走する仕組みづくりまで一貫してデザイン
日本版DMO法人として、京都市の観光に関わるさまざまな事業者の支援を行なう京都市観光協会。「持続可能で満足度の高い国際文化観光都市」を実現するためにターゲット像の明確化や価値観の理解、それらを踏まえた情報発信への進化が求められていました。
そこで、ロフトワークはオンラインでの訪問意向調査を実施。デザインリサーチの手法を用いた定性調査を通じて5つのアーキタイプを導き出しました。その上で、それぞれのアーキタイプに該当する人々を対象に世界11カ国で定量調査を行い、観光客が持つ京都のイメージや、旅において大切にしている体験や価値観を明らかにしました。
調査の結果を踏まえ、外国人観光客向けの多言語サイト「Kyoto City Official Travel Guide」のサイトリニューアルを実施。京都が持つ伝統や文化的な魅力をさまざまな角度から世界に発信できるよう、質の高い情報を発信している全国の民間メディアと連携する仕組みをつくりました。同時に、多言語翻訳管理システムの導入とCMSによる効率的な業務フローを構築することで、柔軟かつ迅速な多言語コンテンツの運用が可能になりました。
また、閲覧場所に応じて表示する情報を自動で切り替えることで、必要な情報が最適なタイミングで提供されるようなUI/UX設計を実施。国外からアクセスした際には旅行計画のモチベーション醸成に役立つ記事コンテンツが、国内からのアクセス時にはマナー啓発や交通情報などがタイムリーに提供できるようになりました。
プロジェクト概要
- 支援内容
・京都観光訪問意向調査
・訪日観光客向け多言語Webサイトリニューアル(各種調査,企画,デザイン設計,機能実装,システム・フロー構築等) - プロジェクト期間
・2019年6月〜2020年3月(リサーチ)
・2019年8月〜2020年3月(Webサイト構築) - 体制
クライアント:公益社団法人 京都市観光協会
プロデューサー:篠田 栞
プランナー:寺井 翔茉
プロジェクトマネージャー:上ノ薗 正人(リサーチ)、入谷 聡(Webサイト構築)
ディレクター:松下 恵里花
テクニカルディレクター:小野村 香里、大森 誠
コンテンツ制作:ANTENNA
リサーチパートナー:SynoJapan
Webデザイン:株式会社パノラマ
コーディング・開発:株式会社ネクストページ
関連プロジェクト:
Outputs
Webサイト「Kyoto City Official Travel Guide」
今もなお進化し続ける、文化芸術都市・京都の魅力を伝えるWebサイトへ。
京都の魅力は「歴史」だけではありません。歴史の深さは世界に誇ることができる大きな魅力ではありますが、京都の魅力は、過去の文化だけではなく、現在進行形で常に新しく文化が生まれ続けていることにあります。過去と未来が交差し新たな文化が生まれ続けていることこそが魅力であり、そこへ惹かれた人々が世界中から集まりインスピレーションを持ち帰っています。
今回のWebサイトリニューアルでは、従来からイメージされてきたオーソドックスな「観光地」としての京都ではなく、「新旧が融合し新たな文化が生まれ続ける都市」としての京都の魅力を発信しています。グローバルに活躍する文化や芸術への感度の高い人々が京都を訪れ、京都の過去と現在をより深く理解し、尊敬の念とともに中長期的に滞在したり、関係人口化するための礎えとなるものを目指しています。
だからこそ、オフィシャルなコンタクトポイントである、このWebサイトでは、京都の歴史的な背景や文化、京都の暮らしなどを丁寧に発信している民間メディアと連携することで、情報発信をすることが必要だと考えました。
京都観光 訪問意向調査レポート
より質の高い観光体験の実現に向けて効果的な施策を特定するため、国内外の人々を対象とした訪問意向調査を実施しました。定性調査によって今後ターゲットとすべきアーキタイプを作成したうえで、世界11カ国約6000人の人々を対象に定量調査を実施。これまでの旅行経験や、旅における価値観、世界の観光地に対して抱いているイメージなどの傾向をタイプ別に導き出しました。
Process
11カ国の定性調査から5つのアーキタイプを導く
これからの京都観光施策の検討において大切なのは、京都の歴史的な観光資源のみに着目するのではなく、新旧が融合されながら日々更新されていく今の京都の文化も丁寧に伝えていくこと。そのためには、文化への理解力や共感力の高い人々がキーパーソンとなり得るのではないか、という仮説が、プロジェクトの仮説形成フェーズを通して得られました。そこで、世界11カ国で活動する人々を対象にインタビューを実施。5つのアーキタイプを導き出しました。
5つのアーキタイプ
旅するクリエイター(Cultivator)
アーティストとして活動しており、仕事とオフの境目のない生活を送っている。休日を特別な日として扱わず、取り組んでいるプロジェクトの業務を行ったり、見たい展示会に行ったり、友人とご飯を食べたりする。伝統的なものだけでなく、現代的なものにも興味があり、古いものの「活かし方」に価値を感じている。同業クリエイターや若手作家のためのコワーキング&レジデンススペースを運営しており、日々様々な国籍の人が出入りし、活発なコミュニケーションが行われている。
アマチュア人類学者(Ethnographer)
UXデザイナーとして企業に勤めている。平日は好きなコーヒーを焙煎するところから一日がはじまり、仕事のあとはネットサーフィンやyoutubeを見て過ごしている。休日はジムに行ったり、友人とBBQに行くことも。ゆっくり休むというよりは好きなことをやっている。陶芸を趣味にしており、家で使っている容器の大半は自分で作ったものである。料理も好きで、陶芸と合わせて、その土地ごとのオリジナルの「制作過程」に強い関心を抱いている。
欲張りな社交家(Collector)
クリエイティブな情報メディアの運営を業務で行なっている。平日、休日を問わず、友人との食事やジム、ヨガなどアクティブに活動している。仕事柄、新しいモノ、コトには常にアンテナをはっており、週末は美術館の展示やオープンしたばかりのレストランに足を運ぶことも多い。親しい仲間と過ごす事に楽しさを感じており、また、世話好きなため、周りから頼られる事も多い。
静養する仕事人(Retreat)
企業の広報担当として、ハードワークな日々を過ごしている。土日も仕事をすることもあり、平日も帰宅時は日付が変わっていることもある。つかの間の休日には、散歩をしたり、マッサージを受けたりと、意識的に休息する時間を設けるようにしている。昔は多趣味で旅行もたくさん行っていたが、ライフステージが変化し、昔のように趣味に没頭したりすることはなくなってしまった。
献身的なプランナー(Provider)
平日は仕事に邁進し、休日は友人と趣味に興じることもあるが、家族との時間を大切にしている。また、人に喜んでもらえることが好きで気遣いができるため、周囲から情報をシェアしてもらったりプレゼントを贈られることも多い。他者優先の考えが強く、自身の主張を押し殺してしまうことや、気遣い疲れでつい楽な考えになびいてしまうこともあるが、仲間、家族の喜ぶ顔をみることで自身が癒やされたり、また頑張ろうという気持ちにもなれる。
起業家、アーティスト、学者と議論することで、データの信頼度を強化する
定性・定量調査の結果の検証と分析を行うため、各領域の専門家や有識者とオープンな場で議論する場をデザインしました。そこで開催された「Trip Meetup テクノロジー×不便益×インスピレーションの視点から考える未来の京都観光」です。
当日は、トラベルオーディオガイドアプリを展開するON THE TRIP代表の成瀬勇輝氏が旅における物語の大切さを訴えるとともに、不便益を提唱する京都大学の川上浩司教授からは、不便からこそ生まれる体験の価値があるのではないか?という問いが投げかけれました。さらに、KYOTO EXPERIMENTの共同ディレクターの川崎陽子氏からは、観光産業におけるアーティストの役割が提案されるなど、それぞれの専門分野からこれからの観光に対する展望や期待が投げかけられました。
京都の魅力を世界に届ける、新しいエコシステムによる情報発信
調査の結果を踏まえて、Webサイトのコンテンツ設計を行うにあたり、これからの観光には、観光客が文化や住民生活を理解するために「ローカル目線の情報やコンテンツ」が求められるのではないかという仮説を立てました。それらは、従来の「観光」コンテンツではとらえきれない、民間のメディアが地域住民や国内観光客に向けて発信している情報コンテンツなどを含み、これまで海外に向けての情報発信としてはなかなか目が向けられてこなかったものでした。
そこで、Webサイトの記事制作において、自ら制作するものに加えて、すでに世の中に質の高い記事を発信しているメディアをコンテンツパートナーとして連携し、キュレーションして紹介(一部、翻訳後)するという仕組みを取り入れました。民間のメディアにとっては、日本語のコンテンツが多言語に翻訳され、海外への情報発信力とネットワークをもつ観光協会のWebサイトに掲載されるというメリットが、京都市観光協会にとっては、観光客が有名観光地だけではなくローカルな情報や生活者目線のコンテンツに触れることで、地域や文化理解につながる深い観光体験を促し、住民と観光客の良い関係を築くきっかけづくりができるというメリットが得られると考えられます。
京都市観光協会のミッションは、日本版DMOとして広く観光振興のための事業者支援を行うことです。同種の記事の再生産をせず、そのメディアの記事として紹介することで、行政による民業圧迫を防ぐことにもつながります。
記事コンテンツのキュレーション方針(一部例)
- ステレオタイプな京都イメージだけではない内容となっているか
- 有名観光地だけではない、京都のローカルを語っているか
- 地元の人、現地生活者に愛されている場所、人物か
- 歴史的な要素と現代の要素が混ざりあった新しいカルチャーを発信しているか
- 訪問の動機となるインスピレーションを感じられるような内容となっているか など
コンテンツパートナー(順不同、2020年3月27日公開時点)
- ANTENNA
- KYOTO JOURNAL
- Enjoy Kyoto
- 一休コンシェルジュ
- おにわさん
- ON THE TRIP
- Sharing Kyoto
- ONESTORY
- Greenz
- IDEAS FOR GOOD
- Zenbird
- ぐるたび
- 京都観光Navi
タイミングに合わせて提供する情報を変える
調査を踏まえて、旅の前と旅の途中で観光客にとって必要な情報が異なることが明らかになりました。そこで、今回のリニューアルでは、「旅マエ」(国外からのアクセス)と「旅ナカ」(日本国内からのアクセス)に応じた2種類のトップページを作成。アクセス元のIPアドレスに応じて、トップページが自動で切り替わり「今、必要な情報」へスムーズにたどり着けるよう工夫しています。
「旅マエ」に向けたトップページでは、京都の文化を紹介するさまざまな記事コンテンツを掲載することで、京都に来たいという気持ちを醸成するとともに、「旅ナカ」では、交通情報や各種サポート情報など、手元で見ることで便利に観光ができる基礎情報を中心に掲載しています。
また、京都市では、外国人観光客と市民生活との調和についても課題意識を持っていましたが、「旅ナカ」のトップページに京都での過ごし方を説明するコンテンツを掲載することで、観光客と地域住民が互いに気持ちよく過ごすために効果的な情報提供ができるよう、工夫しています。
観光地としての「経営とマーケティング」を行う京都市観光協会に対し、「デザイン」と「コミュニティ」の力を持つロフトワークはパートナーとして引き続き支援を継続していきます。
昨今の社会情勢によって様々な方針転換を余儀なくされる中、特に観光分野においては経営のあり方も大きく転換していくことが予想されます。観光の定義が変わりつつある今、従来は観光の範疇に入らなかった取り組みも観光事業として捉える動きもおこっており、観光協会が求められる機能は今後ますます広がっていくことが予想されます。
私達は、今回のプロジェクトで形作られた情報発信スキームやコンテンツパートナーとのネットワークを丁寧に育てながら、様々な課題に取り組む「国際文化観光都市・京都」のイノベーションを支援していきます。
Impact
世界の旅行・観光産業で権威のある「Skift IDEA Awards」の最高評価を獲得
「Kyoto City Official Travel Guide」が、「Skift IDEA Awards」にて、「Best Destination Innovation 」を受賞しました。この賞を主催するSkiftは、世界の旅行・観光産業分野のデジタルマーケティングの業界情報として最も影響力のあるメディアのひとつ。「Destination Innovation 」部門は、旅行者の旅行先での体験を変える最も革新的なプロジェクトを決める部門であり、日本国内では初めての選出となります。
※「Skift IDEA Awards」: 旅行・観光産業の未来を形づくる革新性、デザイン、体験などについて評価する賞
Member
Method
リサーチ〜CMSの選定までロフトワークのWebプロジェクトの特徴・進め方
プロジェクトの全体感をつかみ、戦略と戦術に落とし込むことで、Webプロジェクトの「成功のすがた」を描きます。
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