文化と経済の好循環を創出する 京都市都市戦略
2050年の都市構想への道筋をデザイン
Outline
「都市と持続」という変革のプロセスをデザインする
少子化・人口減少問題への対応が市政の最重要課題になっている昨今、京都市は強みである文化力を最大限に活かした政策を推進しています。その中で、文化や価値観などへの愛着等を起点に事業を成立させている「カルチャープレナー(文化起業家)」に着目。カルチャープレナーが創造する価値の新しい評価軸や社会的インパクトを京都から提唱することで、創造的な人々が集まり、定着する「優れた文化を創造し続ける永久に新しい文化都市」への発展を目指しています。
ロフトワークは京都市よりカルチャープレナーの創造活動促進事業* を受託しプロジェクトデザインと進行を担当、京都市×ロフトワークの共同プロジェクトとして実施しました。
プロジェクトチームは2025年により良き京都の未来への道筋を探るための議論の素地となる視点を導き出すために、京都内外の多様なステークホルダーとの議論『ラウンドテーブル』を開催。プロジェクトビジョン設計や最終分析の洞察を多角的な観点から得るためのリサーチ、ラウンドテーブルでの議論の内容、最終統合分析結果を「持続的繁栄としての京都市創造的都市構想モデル」として活動報告をまとめました。
これまでの画一的モデルから、多様なモデルを描くことへ概念的に転換を図ることで、一人ひとりのクリエイティビティが社会を創造していく“創造的都市”という構想へつながるのではないかと分析し都市構想モデルを仮説として提示。都市政策としてマクロな視点だけでなく、小さなエリアベースの産業政策として捉えて都市の持つ可能性から多様な価値を見出し、都市の豊かさそのものを再定義していく視点を大切にしました。
人と人、自然と人、人と社会、都市と市場、企業と都市、都市と自然…というあらゆるインターフェースの中で創造性の循環をうみ出すこと。また、文化庁が提言する「文化芸術振興の意義」を経済活動と照らし合わせて都市や法人が「振る舞いのデザイン」として考えていくこと、特に企業は統合報告書の活動のレポート等に「法人の生き方」として反映していくことがが重要になってくると読み解きました。
これらの活動を通じ、京都市と京都に本社を据える企業の方々と共に、この仮説を実践すべく枠を越えて人財の流動化を図ることでインクルーシブな社会を実現するための活動体を発足する展開に繋がっています。
*令和5年度カルチャープレナーの創造活動促進事業〜カルチャープレナー等の交流・コミュニティ創出、副題《文化と経済の好循環を創出する京都市都市戦略》
Process
フィールドリサーチ、取材、ラウンドテーブルを通して洞察、仮説形成、分析を繰り返し行い、最終統合分析を実施。
Approach
課題の見極め、解くべき問題の本質を導く
ラウンドテーブル等を通じた有識者との協議から、人口の「量」そのものを総体的に上げることで都市の価値を測ることからの脱却を図り、「価値と質」に注力する重要性についての議論がなされました。
協議を踏まえ、解くべき問題の本質は、「文化と経済の好循環」という京都独自の都市構造(OS)を読み解き、さらに、未来に向けて持続可能性の高い構造化のアップデートを図り、再構築することにあると解釈し、プロジェクト計画全体の構成を行いました。
Project Vision
本事業では、京都市グランドビジョン策定(2025年策定予定)を念頭に、持続可能性の高い概念・プロセスを構築するため文化と経済の好循環を生み出す道筋と指標を設計し実践への道へと数年かけて実現させ成功へと導いていく起点を生み出すことが最大のミッションである。
京都の文化資本、社会資本、経済資本をクロスオーバーさせあらゆる課題を解決し、社会的富を生み出す人財、及び、その仕組みを再定義・再構築する必要がある。
ラウンドテーブルを通じた公平な議論から、都市の豊かさを再定義
多様なステークホルダーが一つの円を囲み、立場に関係なく公平に議論をする場が重要であると考え、ラウンドテーブル形式を採用。異なる意見があったとしても、互いに理解し受容し合いながら、共に議論し続けていくことで徐々に言葉と言葉が重なり合い、新たな価値が多様に見出されていく場づくりを目指しました。
今回、フィールドワーク型リサーチツアーやラウンドテーブル・ディスカッションの一部にも参加した学生たちからの反応が最も高かったのは、文化起業家や社会起業家といった実践者側から経験を通じて語られる「生き方」についてでした。京都という「都市の豊かさの再定義」について今回議論してきたことは、都市の生き方、法人の生き方、個人の生き方に関わる豊かな文化として世界に向けて提示していく意義があるのではないだろうか。「都市の豊かさの再定義」という議論を通じて、「生き方」という “最高の至福” に行き着いたこと自体が、今回のプロジェクトにおける最大の価値といえます。
京都新聞との協業による的確なインサイト
ステークホルダーとの闊達な議論をするためには精度の高い課題の抽出に基づいた問題提起が欠かせず、ラウンドテーブル実施の際には、株式会社京都新聞社の協力を得て、鋭いジャーナルの視点による情報提供を的確なインサイトとして活用しました。
関連記事
- 京都新聞社 論説委員 澤田亮英さんによる寄稿記事
Outputs
Final Report
Structure Design Points
文化と経済の好循環を構造的に成立させる KYOTO_MODEL001 “ Interface ”
奥田武夫さん(オムロン株式会社 技術・知財本部 知的財産センタセンタ長)を中心に、企業、京都市のメンバーとロフトワークが一丸となって協議を重ね、具現化するためのアイデアを京都市の創造的都市としてのアイデア構想として練り上げいきました。結果、企業サイドは自社のあらゆる人財をエリアベースで適材適所で流入させ、京都の独自の価値である文化価値を維持、繁栄させることを地域と共に考えていくこと、さらに文化起業家等プレイヤーとの協業により変革の起点となる化学反応を起こし、自社の無形資産の核となる「人財と創造性」を活かし、さらに進化した価値創造を行うこと、これらをCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル**)や新規事業開発等、複数の仕組みを活用することで自社の経済活動にもつなげ、社会実装ベースでの持続発展的な取り組みへとつなげていく可能性について模索し合いました。
**CVCとは事業会社が自己資金でファンドを組成し、主に未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資や支援を行う活動や組織のことを示し、自社の事業内容と関連性のある企業に投資、本業との相乗効果を得ることを目的として運営される。(参考:野村證券証券用語解説集)
カルチャープレナーの定義
カルチャープレナーとは、文化と経済の好循環のバランスを最適化する人財であり構造化の仕組み(OS)であると定義。ここでの外界とは、グローバルマーケットを含む「大きな資本の流入」を示し、内界とは、「京都の価値であり、文化の中核にある価値」を示します。現状、京都に限らず、世界中の都市でも起きている重要な現象としての観光客増加等の影響により、東京や海外から資本が一挙に流入したことで、界面が破壊状況にあり、この状況が持続することにより文化の中核にある価値が壊されてしまう恐れがあるのではないかという仮説を立てました。
躙口(ニジリグチ)的インターフェースをOSとして設計
文化と経済の好循環とは「細く長く(将来世代に渡って)継承していく」資金流入と活動のバランスが取れている状態を示し、バランスをとるためのインターフェースとして、いわゆる “一見さんお断り” といった京都独自の敷居が機能していると読み解きました。グローバルマーケットの影響を今後さらに受けることが見込まれる昨今、このフィルター機能によって界面が一挙に崩れる状態を防ぐことが可能となります。結果、本来はお金で買えない重要な資本(文化資本)に“触れる”可能性を見出すことができ、その価値を提供する側が有利になるような仕組みです。これらを「進化した原点回帰」仮説モデルとしてまとめました。
ここでは躙口的インターフェースを “ニジリグチコモンズ” として表現。大きな成長も、小さな成長も両方共に文化と経済の好循環というバランスを生み出すフィルタリング機能が必要であり、企業は両者に関わることが求められるのではないかと仮定しました。
今後はこのモデルを検証すべく、各社の人財と創造性と、産業政策の仕組みを組み合わせながら、さらなる進化した価値創造を行うコモンズの構築を目指し、企業、京都市と共に議論を重ねていく予定です。
デザインについて
「ニジリグチコモンズ」 を本プロジェクトの重要なアイコンとしてビジュアライズ。茶室の躙口がデザインイメージソースとなっています。躙口とは千利休が草庵茶室・待庵に設けた小さな入口がはじまりと言われており、頭を下げて茶室に入ることで身分の差がなくなり、茶室の中では平等であり、人としてのコミュニケーションを紡ぐ場所として茶室という存在がありました。「今を生きる私たちにも他者と理解を深め合い、共に生きる社会の先に豊かさがあって欲しい」というグラフィックデザイナー鈴木孝尚さんの願いが込められています。マークは、縦2尺1寸8分、横2尺3寸の図形を二つ並べ、水色は濃度を薄く「弱さ」を、赤色は「温度」を、2色の重なりをInterface(界面)として表現しています。
Member
メンバーズボイス
“都市と持続の変革のプロセスをデザインしていくことは、より良い経済の在り方という未来の社会について、考察することにもつながりました。本プロジェクトのラウンドテーブルディスカッションでのパネリストやリサーチインタビュー等でご協力いただいた、京都大学 人と社会の未来研究院 教授 広井良典さんからは、都市の未来について、次のようなお話をいただいています。
「第一に貨幣に換算できない価値が重要になってくる、第二に場所、プレイスが重要になってくるということ。普通の資本主義の議論とは別で、よくある議論はグローバル化が進み、資本主義が天高く舞い上がっていくと場所とか地域は意味がなくなっていく議論であるのに対し、そうではなくまさに場所、プレイスが大事になってくる。京都も含め、今後は『場所性』が非常に重要になってくる。」
より良い社会とは何か? 豊かさとは何か? 京都という都市をベースにしながら、あらゆるステークホルダーとの豊かな協議を今後もさらに重ねていきたいと考えています。”
ロフトワーク アートディレクター 小川敦子
プロジェクト体制
- クライアント:京都市
- プロジェクト期間:2023年7月〜2024年3月
- ロフトワーク体制
- プロジェクトマネジメント・アートディレクション:アートディレクター 小川 敦子
- クリエイティブディレクション:クリエイティブディレクター 加藤 あん
- ファシリテート:FabCafe KYOTO ブランドマネージャー 木下 浩佑
- プロデュース:プロデューサー 小島 和人・京都ブランチ共同事業責任者 上ノ薗 正人
- 広報・サイト記事制作:京都ブランチ共同事業責任者 横山 暁子
- 総合監修:取締役 寺井 翔茉
- 制作パートナー
- デザイン、撮影:鈴木 孝尚(16 Design Institute)
- 取材協力
- 株式会社COFFEE BASE
- 西芳寺
- 株式会社島津製作所
- 島津製作所 創業記念資料館
- 招徳酒造株式会社
- 梨木神社
- 株式会社ヒューマンルネッサンス研究所
- KYOTO_MODEL001 “ Interface ” 設計におけるディスカッションパートナー
- 奥田 武夫(オムロン株式会社 技術・知財本部 知的財産センタ センタ長)
- 牧野 広志(株式会社COFFEE BASE ディレクター)
- 案浦 雅徳(京セラ株式会社 経営推進本部 スマートシティ企画部責任者)
- 井上 貴士(京セラ株式会社 法務知的財産本部 IP戦略推進部2部責任者,経営推進本部スマートシティ企画部兼務)
- 阿久津 好二(株式会社島津製作所 知的財産部部長 弁理士)
- 三浦 朋子(株式会社島津製作所 知的財産部 主任)
- 福江 久美子(株式会社SCREENホールディングスサステナビリティ推進室 環境共生推進課 課長)
- 酒井 滝吉(株式会社SCREEN IPソリューションズ 代表取締役 社長執行役員)
- 浅津 治司(NISSHA株式会社 知的財産部部長 弁理士)
- 古矢 勝彦(ニチコン株式会社 執行役員 NECST事業本部 技師長)
- 別所 毅一(ニチコン株式会社知的財産部 部長)
- 片倉 等(株式会社村田製作所 法務・知的統括部 知的財産部 部長 弁理士)
- 大町 傑 (株式会社村田製作所 法務・知財統括部知財企画部 知財管理課 シニアマネージャー)
- 覚前 元英(京都市文化市民局文化芸術都市推進室文化芸術企画課 政策連携推進担当課長)
- 森岡 環(京都市都市経営戦略室戦略デザイン課長)
※敬称略
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