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林 千晶 2019.02.06

#01 デザインとクリエイティブ
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

デザインとクリエイティブ

「ロフトワークは何の会社ですか?」

この質問に自信をもって答えられるようになるまで、19年かかってしまった。でも、今なら言える。「私たちは、『クリエイティブ・カンパニー』です」。

ロフトワークでは創業期から、「つくる意思をもって行動する人」を「クリエイター」と呼ぶことにこだわってきた。「それって、クリエイティブかな?」 社内で頻繁に飛び交う会話は、「新しい価値づくりに挑戦できている?」という問いに他ならない。

クリエイティブであること。それはスキルではなく人のマインド/姿勢を示す言葉であり、無限の創造性につながるものだと、私は考えている。

クリエイティブの力で、「正しさ」を超える

そもそも、デザインとクリエイティブ。両者の違いはどこにあるのだろう。

デザインは、一つの知識体系と捉えることができる。感性を対象としながらも、プロセスやアプローチなど知識が体系化されていて、再現性が高い。そのためトレーニングによってデザインスキルを高めることができる。グラフィックデザイン一つとっても、配色、構図、タイポグラフィーなど、脈々と受け継がれてきたロジックやルールがある。

近年、ビジネスデザインやソーシャルデザインなど、「デザイン」の射程は拡大しているけれど、根底にある思想は共通に思える。起点には「課題」があり、解決に向けて適切なアプローチが設計され、実践される。デザインは、知性である。

一方、クリエイティブはどうだろう。こちらも感性の活動ではあるものの、社会的課題よりも、「やってみたい」といった主体者の情熱や好奇心が起点になっている。根底には、常識の枠組みを否定したり、あるいは超えようとする意志のようなものがある。それが、もっとも大切な特徴ではないだろうか。

「クリエイティブ!」と、人が感動する瞬間。それは、見たことがないものだったり、不可能だと思っていたことだったり、あるいは見向きもしなかったものが、突然、想像もしなかった形で魅力的に、眼前に現れた時、感じるものではないだろうか。対象は、動機、発想、やり方、アウトプットなど、場合によって多種多様だ。

そう考えてみると、クリエイティブとデザインは見事に連携していく。クリエイティブなマインドで状況を創造的に捉え、デザインの力で解決に向けて動き出すのだ。

つくり、生み出し、表現するマインド

「クリエイティブ」はスキルや知識だけで実践できるものではないし、「クリエイター」は、職種でも職能でもない。何かをつくり、生み出し、表現しようとする人の心の持ちよう、その発想そのものなのだと思う。

「国内だけでも、クリエイターは人口の半分以上います」——2000年に「クリエイティブの流通」をミッションにロフトワークを創業したとき、投資家にマーケット規模を聞かれ、私はそう答えた。残念ながら、というよりも案の定、投資はしてもらえなかったが(笑)、その気持ちは今でも変わっていない。

私自身、19年間ずっと、「クリエイティブでありたい」と強く思い続けてきた。これからもクリエイティブに、面白い挑戦をしたい。そのために、ロフトワークは今日も頑張っている。

参考:「デザイン」と「クリエイティブ」の違い

  デザイン クリエイティブ
常識 時に従い、時に逆らう 常識という枠を超えようとする
動機 社会課題や合理的な挑戦 個人的な課題意識や情熱
効率性 実現のために深く配慮 多くの場合、考慮されていない
再現性 高い 実験的なため低い
規模 スケールが検討されている ゼロ→ワンのため小さい
結果 正しい、美しい、格好いい びっくり、面白い、時に阿呆

(林千晶 作成)

林 千晶

Author林 千晶(ロフトワーク共同創業者・相談役/株式会社Q0 代表取締役社長/株式会社 飛騨の森でクマは踊る 取締役会長)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年に株式会社ロフトワークを起業、2022年まで代表取締役・会長を務める。退任後、「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的とし、2022年9月9日に株式会社Q0を設立。秋田・富山などの地域を拠点において、地元企業や創造的なリーダーとのコラボレーションやプロジェクトを企画・実装し、時代を代表するような「継承される地域」のデザインの創造を目指す。主な経歴に、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会、「産業競争力とデザインを考える研究会」など。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)取締役会長も務める。

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いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す