#01 デザインとクリエイティブ
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)
デザインとクリエイティブ
「ロフトワークは何の会社ですか?」
この質問に自信をもって答えられるようになるまで、19年かかってしまった。でも、今なら言える。「私たちは、『クリエイティブ・カンパニー』です」。
ロフトワークでは創業期から、「つくる意思をもって行動する人」を「クリエイター」と呼ぶことにこだわってきた。「それって、クリエイティブかな?」 社内で頻繁に飛び交う会話は、「新しい価値づくりに挑戦できている?」という問いに他ならない。
クリエイティブであること。それはスキルではなく人のマインド/姿勢を示す言葉であり、無限の創造性につながるものだと、私は考えている。
クリエイティブの力で、「正しさ」を超える
そもそも、デザインとクリエイティブ。両者の違いはどこにあるのだろう。
デザインは、一つの知識体系と捉えることができる。感性を対象としながらも、プロセスやアプローチなど知識が体系化されていて、再現性が高い。そのためトレーニングによってデザインスキルを高めることができる。グラフィックデザイン一つとっても、配色、構図、タイポグラフィーなど、脈々と受け継がれてきたロジックやルールがある。
近年、ビジネスデザインやソーシャルデザインなど、「デザイン」の射程は拡大しているけれど、根底にある思想は共通に思える。起点には「課題」があり、解決に向けて適切なアプローチが設計され、実践される。デザインは、知性である。
一方、クリエイティブはどうだろう。こちらも感性の活動ではあるものの、社会的課題よりも、「やってみたい」といった主体者の情熱や好奇心が起点になっている。根底には、常識の枠組みを否定したり、あるいは超えようとする意志のようなものがある。それが、もっとも大切な特徴ではないだろうか。
「クリエイティブ!」と、人が感動する瞬間。それは、見たことがないものだったり、不可能だと思っていたことだったり、あるいは見向きもしなかったものが、突然、想像もしなかった形で魅力的に、眼前に現れた時、感じるものではないだろうか。対象は、動機、発想、やり方、アウトプットなど、場合によって多種多様だ。
そう考えてみると、クリエイティブとデザインは見事に連携していく。クリエイティブなマインドで状況を創造的に捉え、デザインの力で解決に向けて動き出すのだ。
つくり、生み出し、表現するマインド
「クリエイティブ」はスキルや知識だけで実践できるものではないし、「クリエイター」は、職種でも職能でもない。何かをつくり、生み出し、表現しようとする人の心の持ちよう、その発想そのものなのだと思う。
「国内だけでも、クリエイターは人口の半分以上います」——2000年に「クリエイティブの流通」をミッションにロフトワークを創業したとき、投資家にマーケット規模を聞かれ、私はそう答えた。残念ながら、というよりも案の定、投資はしてもらえなかったが(笑)、その気持ちは今でも変わっていない。
私自身、19年間ずっと、「クリエイティブでありたい」と強く思い続けてきた。これからもクリエイティブに、面白い挑戦をしたい。そのために、ロフトワークは今日も頑張っている。
参考:「デザイン」と「クリエイティブ」の違い
デザイン | クリエイティブ | |
常識 | 時に従い、時に逆らう | 常識という枠を超えようとする |
動機 | 社会課題や合理的な挑戦 | 個人的な課題意識や情熱 |
効率性 | 実現のために深く配慮 | 多くの場合、考慮されていない |
再現性 | 高い | 実験的なため低い |
規模 | スケールが検討されている | ゼロ→ワンのため小さい |
結果 | 正しい、美しい、格好いい | びっくり、面白い、時に阿呆 |
(林千晶 作成)
【連載目次】「ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー」
- #00 はじめに
- #01 デザインとクリエイティブ
- #02 付箋と民主主義
- #03 デザインは、量より質?
- #04 「わからない」が面白い
- #05 場が働き方をつくる
- #06 折り紙付き採用
- #07 合宿のススメ
- #08 その人にしかできない仕事を
- #09 きっかけは他者にある
- #10 FabCafeのつくり方
- #11 FabCafe Globalの育て方
- #12 飛騨の森でクマは踊るか
- #13 2020年代を生きるということ
- #14 ロフトワークの未来、どうしていこう?
- #15 ダイバーシティとどう向き合う?
- #16 「プロジェクトマネジメント」の技術をどう伝える?
- #17 「人とのつながり」をどうつくる?
- #18 おわりに
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