FINDING 林 千晶 2018.12.26

#00 はじめに(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

「真ん中なんてないよ、ドーナツ!」

企業の創業者というと、特別な才覚や野心があるように思われるかもしれない。でも自分自身をじっと見つめたとき、私には人に誇れるようなものがちっともなかった。就職活動のときに開き直って、履歴書に「資格:普通免許のみ、特技:なし」と記入したことを覚えている。

でも、ふと周りを見渡してみると、素敵な人や、一緒に活動をしたい人がたくさんいた。みんなと手をつないでひとつずつプロジェクトを実行していったら、いつの間にか、自分の中には何もなくて(穴が空いていて)も、360度自分を取り囲む、なんとも美味しそうな「ドーナツ」ができていた。

ロフトワークは、設立から19年を迎えようとしている。「奇跡みたい」——それが、正直な私の本音だ。つぶれることなく存続していることも、個性的すぎるほど個性的で才能あふれる社員が100人を超え、そのネットワークが海外にまで広がっていることも。

それどころか、クリエイティブ・カンパニーとして一定の評価をいただいている今の状況を、ミラクル以外にどう表現したらいいのかわからない。(共同創業者の諏訪は「いや、狙いどおりだよ」というかもしれないけれど)

大切にしてきた価値、その“真ん中”にあるもの

これまで、ロフトワークを「成功したビジネス」として語ることに抵抗を感じてきた。労働集約型で、決してスケールするビジネスモデルではないし、上場を目指したこともない。数百億、数千億という売上規模をスタートアップの成功指標とするならば、ロフトワークは今でも、そしていつまでも劣等生だ。

しかし、今日まで自分たちが歩んできた道のりを「ただの偶然」と一言で片付けてしまうのは、さすがに無責任な気もしてきたのだ。

例えば、「労働集約」という言葉。ビジネスモデルの説明としては多くの場合、マイナスの意味で使われるけれど、それは本当なのだろうか。

視点を変えて、「人の可能性を最大限に引き出し、人にしかできない創造活動にフォーカスしている」と表現してみたらどうだろう。多くの人が「AIに仕事を奪われる」と危惧しているこれからの時代の中で、にわかに、重要性の高い事業領域に聞こえてこないだろうか。

私たちが模索してきた、上場や拡大を目的としないビジネスの育て方。それは、一般的なビジネス書では語られていないものばかりだ。でもこれから若い人たちが活動をはじめたり、新しい事業をつくったりするときのヒントが、きっと、ロフトワークが続けてきた実践の中にあるはず——。

このドーナツの“真ん中”には、一見何もないように見えて、きっと何かユニークな引力がはたらいている。

そんな想いから、今までの活動と、実践を通じて得たマインドやルールを、連載記事という形で整理することにした。単なる事例として紹介するのではなく、再現性のあるレシピとして提示してみたい。

林 千晶

Author林 千晶(共同創業者 代表取締役)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材に向き合うクリエイティブ・ラウンジ「MTRL(マテリアル)」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。
MITメディアラボ所長補佐、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会 製造産業分科会委員も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」(日経WOMAN)を受賞。

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