#00 はじめに(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)
「真ん中なんてないよ、ドーナツ!」
企業の創業者というと、特別な才覚や野心があるように思われるかもしれない。でも自分自身をじっと見つめたとき、私には人に誇れるようなものがちっともなかった。就職活動のときに開き直って、履歴書に「資格:普通免許のみ、特技:なし」と記入したことを覚えている。
でも、ふと周りを見渡してみると、素敵な人や、一緒に活動をしたい人がたくさんいた。みんなと手をつないでひとつずつプロジェクトを実行していったら、いつの間にか、自分の中には何もなくて(穴が空いていて)も、360度自分を取り囲む、なんとも美味しそうな「ドーナツ」ができていた。
ロフトワークは、設立から19年を迎えようとしている。「奇跡みたい」——それが、正直な私の本音だ。つぶれることなく存続していることも、個性的すぎるほど個性的で才能あふれる社員が100人を超え、そのネットワークが海外にまで広がっていることも。
それどころか、クリエイティブ・カンパニーとして一定の評価をいただいている今の状況を、ミラクル以外にどう表現したらいいのかわからない。(共同創業者の諏訪は「いや、狙いどおりだよ」というかもしれないけれど)
大切にしてきた価値、その“真ん中”にあるもの
これまで、ロフトワークを「成功したビジネス」として語ることに抵抗を感じてきた。労働集約型で、決してスケールするビジネスモデルではないし、上場を目指したこともない。数百億、数千億という売上規模をスタートアップの成功指標とするならば、ロフトワークは今でも、そしていつまでも劣等生だ。
しかし、今日まで自分たちが歩んできた道のりを「ただの偶然」と一言で片付けてしまうのは、さすがに無責任な気もしてきたのだ。
例えば、「労働集約」という言葉。ビジネスモデルの説明としては多くの場合、マイナスの意味で使われるけれど、それは本当なのだろうか。
視点を変えて、「人の可能性を最大限に引き出し、人にしかできない創造活動にフォーカスしている」と表現してみたらどうだろう。多くの人が「AIに仕事を奪われる」と危惧しているこれからの時代の中で、にわかに、重要性の高い事業領域に聞こえてこないだろうか。
私たちが模索してきた、上場や拡大を目的としないビジネスの育て方。それは、一般的なビジネス書では語られていないものばかりだ。でもこれから若い人たちが活動をはじめたり、新しい事業をつくったりするときのヒントが、きっと、ロフトワークが続けてきた実践の中にあるはず——。
このドーナツの“真ん中”には、一見何もないように見えて、きっと何かユニークな引力がはたらいている。
そんな想いから、今までの活動と、実践を通じて得たマインドやルールを、連載記事という形で整理することにした。単なる事例として紹介するのではなく、再現性のあるレシピとして提示してみたい。
【連載目次】「ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー」
- #00 はじめに
- #01 デザインとクリエイティブ
- #02 付箋と民主主義
- #03 デザインは、量より質?
- #04 「わからない」が面白い
- #05 場が働き方をつくる
- #06 折り紙付き採用
- #07 合宿のススメ
- #08 その人にしかできない仕事を
- #09 きっかけは他者にある
- #10 FabCafeのつくり方
- #11 FabCafe Globalの育て方
- #12 飛騨の森でクマは踊るか
- #13 2020年代を生きるということ
- #14 ロフトワークの未来、どうしていこう?
- #15 ダイバーシティとどう向き合う?
- #16 「プロジェクトマネジメント」の技術をどう伝える?
- #17 「人とのつながり」をどうつくる?
- #18 おわりに
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