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林 千晶 2019.05.13

#05 場が働き方をつくる
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

オフィス増床は、新たな実験のスタート

渋谷の道玄坂を上りきったところに、私たちのオフィスはある。2019年4月現在、1F〜3Fと、8F〜10Fがロフトワークのフロアだ。2004年にはじめて8階を借りて以来、少しずつ増床している。

フロアを増やすたび、私たちはいつも“新しい働き方”の実験をしてきた。

はじめての実験は、10Fのミーティングスペース『COOOP10』。「いま、すべて自由に使える部屋を持ったら、何に使いたい?」という問いから、空間づくりがはじまった。

できあがったのは、壁の仕切りが一切なく、植物やホワイトボードでゆるやかにゾーニングされているスペース。使い方によってさまざまな表情をもつフロアとなり、仕事を越えた人と人とのつながりを生み出してきた。

10F『COOOP10』は仕切りのないミーティングスペース。打ち合わせ、イベント、ワークショップ、展覧会など、用途に合わせて姿を変える。

次のチャレンジは、1Fの『FabCafe Tokyo』。もともとはオフィスの一部、打合せスペースだった場所はカフェへと生まれ変わり、オープン当時はまだ珍しかった、3Dプリンタやレーザーカッターが運び込まれた。

今では「毎日、何をそんなに一生懸命つくっているの?」と聞いてみたくなるくらい、世界各国のクリエイターが集まってものづくりを楽しんでいる。作品やプロダクトをつくるプロセスを通じて多数のコミュニティも生まれ、FabCafeはいつしかクリエイティブな共創空間になった。

1F『FabCafe Tokyo』では、レーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタルファブリケーション機器を使い、老若男女さまざまなクリエイターがものづくりを楽しんでいる。

3か月かかる仕事が、3日で終わる空間

そして、3Fの『COOOP3』。新たな実験テーマは、3か月のプロジェクトを、3日で終わらせる空間はつくれるかだ。

「3か月のプロジェクトを、3日で終わらせる」。

一見、無謀な挑戦に聞こえるかもしれない。でもプロジェクトの進め方をよくよく紐解いてみると、アップデートできる要素が見つかった。

例えばクライアントと毎週、2時間の定例会議を開くとする。3か月で必要となるトータルの時間は24時間。よくあるのは、この会議をクライアントの「承認を取る場」と捉えてしまうケースだ。

提案する側である私たちがあらかじめ準備し、会議で一つひとつ相手の承認を得ていく。新たな課題が出れば、それを持ち帰って検討する。その繰り返しになる。時間が空いてしまえば当然、前回の会議で話した記憶は失われ、温度感も薄れていく。有機的なディスカッションはなかなかドライブしていかない。

それならと、私たちは同じ「24時間」の捉え方を変えてみることにした。

1日8時間、3日連続でチームメンバーが一同に会し、他の仕事は一旦横に置いて、一つのプロジェクトに集中する。もちろん、クライアントも一緒に。

「提案する側」「承認する側」の境界線を取り払い、熱量を保ったまま「共に考え、実践する場」と捉えなおす。すると同じ24時間分の会議が、大切な議論を前に進めて実際のプロトタイプを重ねていく場に変わるのだ。

クライアントもクリエイターも一緒になって、クリエイティブな議論を交わすことができる場所。私たちがチャレンジした“新しい働き方”は、『COOOP3』の空間を通じて現実のものにすることができた。

3F『COOOP3』は集中的にプロジェクトを進めるための空間。(撮影:Gottingham)

「空間」が、人の行動を変えていく

そんな私たちの挑戦がきっかけとなり、ロフトワークでは、自社オフィスだけではなく、クライアントと共に空間プロデュースを手がけるようになった。

現在進行形で、2019年秋にオープン予定である「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」のプロジェクトなど、ワクワクする試みもはじまっている。

人の行動は、空間によって規定されるところが大きい。場所のもつ力が人の行動を変え、新たなクリエイティビティを生み出していく。

だからこそ私たちは、いくつもの「空間」をつくり、新たな働き方にトライする。私たち自身のチャレンジは、働き方をさらにアップデートして、社会実装していくための序章にすぎないのだ。

林 千晶

Author林 千晶(ロフトワーク共同創業者・相談役/株式会社Q0 代表取締役社長/株式会社 飛騨の森でクマは踊る 取締役会長)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年に株式会社ロフトワークを起業、2022年まで代表取締役・会長を務める。退任後、「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的とし、2022年9月9日に株式会社Q0を設立。秋田・富山などの地域を拠点において、地元企業や創造的なリーダーとのコラボレーションやプロジェクトを企画・実装し、時代を代表するような「継承される地域」のデザインの創造を目指す。主な経歴に、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会、「産業競争力とデザインを考える研究会」など。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)取締役会長も務める。

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