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林 千晶 2019.04.22

#04 「わからない」が面白い
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

近況と、私自身の「わからない」こと

実は先日、とある病気が見つかって3週間ほど入院した。幸い大事には至らなかったが、以前と同じく言葉を使いこなせるようになるまでに、少し時間がかかりそうだ。

医師によると、治療の過程でうつ気味になってしまう方も少なくないらしい。それはそうだろう、と思う。私自身も、思い通りに仕事や生活ができずにもどかしく感じる場面もあるし、将来への不安も少なからずあるからだ。

ただ一方で、「この状態から、私はどう変化していくのだろう」と、しごく客観的に、深い興味と共に経過を観察している自分がいる。

はじめて自分の身に降りかかった経験。体験したことのない感覚。先行きは、当然ながら「わからない」。それでも私は「この状況を面白がっている」といったら、語弊があるだろうか。

「わからない」は、当たり前

「わからない」ことを不安に思い、ストレスだと感じる人は多い。仕事においてもそうだ。事態の見通し、将来への道筋、取り組むべき課題。ロフトワークの若いメンバーも、クライアントから明確なオーダーがないと、ちょっと怯んだ顔をすることがある。

でも、すでに課題がクリアになっていて、やるべきことや進め方まで指示できる状態にあるのなら、おそらく、その企業がロフトワークに相談を持ちかけることはないだろう。

これからクリエイティブな仕事がはじまるのだから、前提条件など「わからない」のが当たり前。私たちがチャレンジするのは、お題にそって正解を探す仕事ではない。

クライアントと一緒に、深い思索の旅に出る。仮説よりもっと、ずっと前段階にあたる“着眼”の部分を探るために。

「生活者」の視点に立って紐解く

目の前にある「わからない」テーマに対し、どこに着眼するか。そのとき私たちは、クライアントが想定していたユーザー像にとらわれるのではなく、もっと広く「生活者」の視点に立ち返る。

着眼のフェーズでは、とことん、生活者の目線でものごとを見ていく。

ユーザーは、社会の中で1人で暮らしているわけではない。またいきなり、瞬間的にユーザーになるわけでもない。特定の企業のユーザーとなるその前後には、脈々と続くその人自身の人生がある。また周囲には、共に暮らし、関わり合っている非ユーザーの人たちがいる。

そうした生活者の人たちが感じる痛み、苦しみ、悩みとは。一つひとつ紐解き、まずは知ることから思索がはじまる。

着眼点が見つかることで、はじめて次段階の問いが生まれるのだ。「会社として、一体何ができるだろう?」と。

どこに本質があるのか、わからないことからはじまる。その道のりは、ワクワクする可能性で満ちている。

「わからない」は、やはり、とても面白い。

林 千晶

Author林 千晶(ロフトワーク共同創業者・相談役/株式会社Q0 代表取締役社長/株式会社 飛騨の森でクマは踊る 取締役会長)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年に株式会社ロフトワークを起業、2022年まで代表取締役・会長を務める。退任後、「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的とし、2022年9月9日に株式会社Q0を設立。秋田・富山などの地域を拠点において、地元企業や創造的なリーダーとのコラボレーションやプロジェクトを企画・実装し、時代を代表するような「継承される地域」のデザインの創造を目指す。主な経歴に、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会、「産業競争力とデザインを考える研究会」など。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)取締役会長も務める。

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