#02 付箋と民主主義
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー )
付箋は格好つけじゃないよ
カラフルな付箋を前に、インタラクティブな議論をしている場面ーーロフトワークのWebサイトでは、油断するとそんな写真がずらっと並んでしまいがちだ。
「オシャレっぽく見せたいだけ?」「付箋さえ使えばいいアイディアが生まれるとでも思っているの?」と、ツッコミが聞こえてきそうである。
しかし、声を大にして言いたい。「付箋は、すごく重要だ」
付箋がただの格好つけのように思われてしまうのは、正しい使い方とその思想が語られていないからのように思う。そこで、ロフトワークがこよなく愛する付箋(ポストイットとも言う)と黒ペン(サインペンとも言う)について、解き明かしてみたい。
民主的な会話の真骨頂
まずは一度、何のツールも使わずにグループで議論する場面を想像してほしい。
エラい人や声の大きい人が、長々と演説を始めてしまう。議論が平行線をたどってしまい、なかなか噛み合わない。あるいは、多くの参加者が共感できず疑問が浮かんでいても、異を唱えることができない……。
きっと、誰しもそんな場面に遭遇したことがあるだろう。集合知を結集するのは、極めて難しいのだ。
そこで活躍するのが、「付箋」と「黒ペン」である。これらはみなさんが想像するよりはるかに、民主的で効果的なツールなのだ。
付箋と黒ペンを使ったディスカッション。ポイントはいたってシンプルである。
- 付箋とペンの種類を揃える。誰が書いたのかわからないようにすることが大事。ペンは、貼り出した時に読める太さを選ぶ。
- 個人の言葉を書き出す。その後、目的に合わせて、自由自在に貼る位置を変えていく。(グループ化、構造化、図解化へと進めていくプロセスは後日、詳しく説明する)知的な人ほど抽象化してしまうので「土の香りが伝わるような表現で」とアドバイスを添えること。
この2つのポイントを押さえたうえで、ディスカッションを進めていく。付箋が一か所に集まると、予定調和が消え去り、各自の脳が「どう読み解けばいいのだ?」と新しい回路を使って解釈をし始める。そこに初めて生まれるのが、「リフレーム」である。
新しい視点を得る「リフレーム」
クリエイティブな発想において、「リフレーム(新しい視点を得ること)」は、極めて重要だ。それは慣れ親しんだ思考に安住せず、模索しながら線をつなぎ、新しい回路を作って電気を流すような行為である。
一般的に、人の脳は無情にも、慣性に従って“いつもの言葉”で“いつもの結論”を導きがちだ。だから普通に議論しても、つまらないアイデアしか生まれない。けっして、議論している人がつまらないのではない。新たな視点、気づき、言葉に出会えないから「つまらない」のだ。
例えば女性が社会に出て働くことを、なぜ猫も杓子も同じく「女性活躍」と呼んでしまうのか。本当は千差万別なはずの地域課題や取り組みを、何でも「地方創生」とまとめてしまうのはなぜか。
それは間違いではないが、その言葉があてられた瞬間、本来注目して議論すべき、あるいは対峙すべき小さな小さな違いが捨象されてしまう。これが創造性を殺ぐ、恐ろしい慣習なのである。
年間15万枚の付箋が生み出すもの
しかし本来、人にはそれぞれの個性がある。こだわりも、喜びも、人間関係も、趣味も違う。そういう違いが素直に表出するしつらえで、付箋を使ってアイディア出しをするとどうなるだろう?
付箋の上に描かれた言葉には、書いた人それぞれの感情や発見が詰まっている。そのままにしておくと雑音でしかないかもしれない。しかしそれらをオーケストレーティングしていくことで、ディスカッション参加者の中に、新たな言葉と視点が生まれる。
言葉がフラットになり、上下関係、人間の好き嫌いは関係なくなる。付箋に書かれたメッセージだけに向き合い、それを読み解く真剣勝負の場となる。付箋と黒ペンは、その醍醐味を生み出す源となるのだ。
調べてみると、ロフトワークでは年間15万枚の付箋が使われていた。その1枚1枚が小さな気づきを乗せ、川の流れのように少しずつ集まり、豊かで大きなメッセージを運んで、私たちの民主主義を支えている。
【連載目次】「ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー」
- #00 はじめに
- #01 デザインとクリエイティブ
- #02 付箋と民主主義
- #03 デザインは、量より質?
- #04 「わからない」が面白い
- #05 場が働き方をつくる
- #06 折り紙付き採用
- #07 合宿のススメ
- #08 その人にしかできない仕事を
- #09 きっかけは他者にある
- #10 FabCafeのつくり方
- #11 FabCafe Globalの育て方
- #12 飛騨の森でクマは踊るか
- #13 2020年代を生きるということ
- #14 ロフトワークの未来、どうしていこう?
- #15 ダイバーシティとどう向き合う?
- #16 「プロジェクトマネジメント」の技術をどう伝える?
- #17 「人とのつながり」をどうつくる?
- #18 おわりに
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