#18 おわりに(ドーナツの穴 )
ロフトワーク設立から現在までの20年を振り返り、共同代表の林千晶がクリエイティブ・カンパニーを形づくる過程で大切にしてきたマインドを紐解いていくためにスタートした、「ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー」。 2019年1月から2年間にわたり、林によるコラム、さまざまな世界で活躍している卒業生に会いにいく『これからの話』、現役社員と複数のテーマで語り合う座談会『2020年代を生きるということ』、3つのシリーズを連載してきました。 2020年12月、ついにこの連載も最終回を迎えます。最後に、「ドーナツの穴 編集部」の三人からコメントをお届けします。
未来よ、こんにちは(林千晶)
「ドーナツの穴」の連載も気がつくと最後のコメントになってしまった。長かったような、短かったような。振り返ると、スタートから「穴」に落ちてしまった。 2019年1月からスタートを予定していた当月に、私が病気で倒れてしまったのだ。今まで感じてきたこと、信じてきたことを言語化する。それは正常な状態だって難しい。ましてや、脳に障害を負った状態でできるのか? 完璧主義者なら、間違いなく断念するだろう。でも私の中に、言葉にできないムズムズした気持ちがうごめいていた。 「きちんと表現しきれなくても、中途半端でも、この想いをなくすことはできない」 やめるべきか、やめないで始めるか、かなり悩んだ。そして、覚悟を決めた。でもその時の判断は、今思うと間違っていなかった。 その判断を支えてくれた編集部の中田一会さん、大島悠さんに心からお礼を言いたい。一会ちゃんは私の脳の一部を担ってくれた。取材をするなら取材依頼を出し、ポイントを整理する。原稿が出来あがれば、Webマスターに掲載依頼を出し、関係者に公開を知らせてくれる。毎月2回、休まず編集会議が開催できたのも、プロジェクトマネジメント力が高い彼女のおかげだ。 大島さんは、痒いところに手が届かないはずの私に、義手となって、しっかり手を届かせてくれた。「やっぱり卒業したメンバーと対談したい!」などの想定していない展開にも、落ち着いた笑顔で、柔らかく受け止め、表現の魔法をかけてくれる。美しく、切なく、私の感情に合わせてストーリーを展開してくれた。この二人がいなければ、本当にドーナツの穴は存在していない。 そう考えると、これがまさに「ドーナツの穴」なのだ。私一人では何もできない。でも目の前にいる大好きな人たちと一緒に「何ができるだろう?」。そう考えることで、こんな素敵なロフトワークへの想いを言葉にすることができた。 ここにあるのは、過去のロフトワーク。願わくば、この想いを心の片隅におきつつ、メンバー一人ひとりに新しい毎日を歩んでほしい。私は、そんな未来のロフトワークに出会えることを楽しみにしている。
ドーナツの穴 編集長 林千晶
ドーナツの真ん中は見えた?(中田一会)
「いつかロフトワークを卒業したいから、引継書みたいな文章を書きたいの。一会ちゃん、手伝って!」――ドーナツの穴編集部のはじまりは、ロフトワーク創業者・林千晶さんからの無茶振りでした。その昔、千晶さんの横で5年間PR担当をしていたわたしは、「あ、この無茶な感じ、懐かしい」と笑いながらお引き受けしました。 シリーズを「ドーナツの穴」と名付けたのには理由があります。千晶さん自身はオープンなようでいて、意外と自身の内的な部分の言語化を避けてきたように感じていたからです。そこで「ドーナツの真ん中を見に行きましょう」と提案させてもらいました。 なので企画や編集の過程では、何度も「どういうことですか?」「本当にそうですか?」と問い詰めるようなこともわざわざ繰り返してきました(ソフトでニュートラルな大島さんが一緒にいてくれてよかった……)。その上、途中で千晶さんが大病されたり、コロナウイルスの流行もあったりして、一筋縄ではいかない記事シリーズでもありました。結果的には読んだ人から嬉しい感想を受け取る記事ができた一方で、テーマまるごと諦めた記事も、議論の末公開直前で取り下げた記事もあります。 言語化できたこと・できなかったことを一つずつ点検していくこと自体も振り返りになっているといいな、と、企画者としては考えています。そして、「ドーナツの穴」がロフトワークメンバーへの引継書のみならず、千晶さんの次なる冒険のための手引書になったらいいな、とも。さてさて、ドーナツの穴は見えたでしょうか? ドーナツの穴 企画担当・中田一会(株式会社きてん企画室)
言語化の大切さと、怖さの狭間で(大島悠)
20年の間、一つの会社がどのような哲学のもとで運営され、どんな風に進化して現在につながっているのか。それをたどっていくのはとても刺激的で、いつも取材の時間が楽しみでした。 2年間、さまざまな角度からロフトワークのお話を聞いてきて、「右脳的な経営」という表現が一番しっくり来るような気がしています。(一般的な会社とは何か違う。明確にその差を表現するのは難しいのですが) わたしは「言語化」を生業にしていますが、その重要性を確信している一方、言葉によって、大きな可能性を窮屈な型に押し込めてしまう怖さを感じることもあります。 今、関係者の人数が増える中、会社としてはおそらく「言語化」が必要なフェーズを迎えていらっしゃるのだと思います。ただ、言葉で明確に表現するのが難しい、なかなか伝えにくい部分も、「今ここ」に集っているみなさんがお互いに対話を重ねながら、大切にしていただけたら……と、お節介ながら願ってやみません。 最後に。林さん、2年間お疲れさまでした。私にとって、人間としてもイチ経営者としても学び多い貴重な時間でした。きてん企画室の中田さん、声をかけてくださってありがとうございました。中田さんなしでは、このプロジェクトは成立しませんでした。 思い返せば13年ほど前、20代の私が憧れた会社がロフトワークでした。そのとき中に入ることが叶わなかったのは、この仕事をするためだったのだと勝手に思っています。
ドーナツの穴 執筆担当・大島悠(合同会社ほとりび)
ドーナツの穴 記事一覧
ドーナツの穴(林千晶によるコラム)
これからの話(卒業生対談)
2020年代を生きるということ(社内メンバー座談会)
【連載目次】「ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー」
- #00 はじめに
- #01 デザインとクリエイティブ
- #02 付箋と民主主義
- #03 デザインは、量より質?
- #04 「わからない」が面白い
- #05 場が働き方をつくる
- #06 折り紙付き採用
- #07 合宿のススメ
- #08 その人にしかできない仕事を
- #09 きっかけは他者にある
- #10 FabCafeのつくり方
- #11 FabCafe Globalの育て方
- #12 飛騨の森でクマは踊るか
- #13 2020年代を生きるということ
- #14 ロフトワークの未来、どうしていこう?
- #15 ダイバーシティとどう向き合う?
- #16 「プロジェクトマネジメント」の技術をどう伝える?
- #17 「人とのつながり」をどうつくる?
- #18 おわりに
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